死のカウントダウンは突然に②
現在午後4時。教室の真ん中でみやびと、家からかけつけた茉莉花は机ごと向かい合い、座っていた。
「……ふぅん。三角関数ねぇ。」
茉莉花は未だ3分の1も終わっていないみやびの数学プリントをながめた。
「ほんま、来てくれておおきにやで〜!茉莉花ちゃん!」
みやびは幸せそうな顔をしている。
「別にいいけど……。これ、今日中に終わるの?」
その言葉にみやびの笑顔は消えた。
「……。そう言われても、わからへんもんはわからへんし…。」
確かに、高校の数学って、教科書読み込んだ所でなかなか理解できるものじゃないからなぁ。
「ま、とりあえず、1問1問一緒に解いていこっか。」
10分後。
「……この公式って全部覚えなアカンの?」
「確かに三角関数って公式がいっぱいあるんだけど、絶対に覚えなきゃいけない公式はこれと、これと………………あ、この公式とかは、その場で導出できたりするんだよ。やり方はこの式に代入して………………」
1時間後。
「………………!わかった!わかったで!茉莉花ちゃん!」
みやびは席から立ち上がり、ぴょんぴょん跳ねる。
「おお。それはよかった。」
「なんか、茉莉花ちゃん、教え方うまい気がするわ!誠也や潤から数学おしえてもらっても、どうもピンとこんってゆーか。」
そこまで高評価をいただけるとは。今はいないが月城にドヤ顔をしたい気分だ。
「ありがとう。…たぶん、それは私も数学が苦手だからじゃないかなぁ。多分、月城や潤は割と天才脳だから、疑問を覚えず、公式とか問題の解き方が理解できるんだと思う。でも、数学が苦手な私たちからすると、よく教科書が何を言ってるのかわからなくなるじゃん。そういう感覚が似てるから、わかりやすい説明ができるのかもしれないね。」
「なるほどなぁ。よし!十分理解も出来たとこやし、あと30分で問題を終わらせたるわ!」
みやびは1時間前とは別人というくらいペンが動いている。
「うんうん。頑張って〜。私はちょっと御手洗に行ってくるね。」
茉莉花はゆっくりと席を立った。
「うん!ほんま、ありがとな!行ってらっしゃーい!」
笑顔で手を振るみやびに見送られ、茉莉花は1人、女子トイレへ向かった。
……しばらくして、、、
茉莉花がトイレの水を流して、個室から出ようとした時のことだ。
ガタン。
「?」
ガタガタガタガタ……。
「な、なんで!?」
茉莉花は冷や汗を流した。
トイレのドアがピクリとも動かなかったのだ。
何度押しても、体重をかけてもドアは開かない。いったい、、、なぜ?
数分間何とかしようとドアを揺さぶり続けたが、大した変化はなく、茉莉花はため息をついて、天井を見上げた。
「……やるしかないか。」
トイレの個室の壁と天井の間にはおよそ1mの隙間がある。
なんとかよじ登って脱出する姿は想像するだけで滑稽だが、みやびの助けを待つよりは良いだろう。……だってトイレに何故か閉じ込められて出られないなんて、ダサい状況すぎる!
茉莉花はとりあえず、洋式トイレの便器の上にのり、その次にスライド式のトイレの鍵に足をかけ、そのまま一気に上へよじ登った。
そしてなんとか、個室の外へと脱出した。
「ふー。疲れた。……しかし、これは酷いなあ。」
自分がさっきまで閉じ込められていた個室を見ると、なぜドアがピクリともしなかったのか一目瞭然だった。
ドアストッパーがドアに挟まっていたのだ。しかも、ご丁寧に3つも。どうりであかない訳だ。
「うーん。嫌がらせかなぁ。」
茉莉花は首を傾げる。
別に人から好かれるようなことはしていないけど、人から嫌われるようなこともしてないつもりだけどなぁ。……たぶん?
「まあ、とりあえず、教室に戻るか……。」
茉莉花は世知辛さをしみじみと感じつつ、ドアストッパーを外し、教室に帰ることにした。




