呪いの村⑯
満月の夜。
姫は妙に騒がしい物音で目を覚ました。
「ふぁあ。うるさ………へ?」
姫は寝ぼけているのかと自分の目を疑った。
辺りは血の海と化しており、数人の使用人が倒れている。
「ひっ……!そ、そんな!」
駆け寄ってみるが、誰も息をしていない。
自分の父と母の身を案じた姫は急いで二人のもとへ向かった。
「父様!母様!」
バン!と襖を開ける。
「…………いやぁ!!!!!」
部屋の中には首を切られた父、小刀で胸を刺された母、そして10人ほどの若い男達の姿。暗い部屋なので顔がぼんやりとしか見えない。
「……まだ生き残りがいたか。さっさとやれ。」
リーダー格の男がそう言うと、1人の男が姫に近づく。
「く、来るな!なんでこんなこと…!」
姫は一瞬よろけながらも、その男から逃げた。
「はぁ、はぁ…………。」
必死に屋敷の廊下を走る。
「あいつらは誰なんだ!?なぜ、こんなにいとも容易く侵入できたんだ…!」
「死角の侵入口は貴方が教えてくれたじゃないですか。」
後ろから聞きなれた声が聞こえる。
「……!」
姫が驚いて後ろを振り向くと、月明かりに照らされた、愛する男の姿があった。
「貴方が教えてくれたんです。屋敷の構造も、警備が手薄になる時間も、そして満月の夜は警備の兵が実家に帰ることが許されるということも。」
「お前……騙していたのか!」
男は冷静にこくりと頷く。
「ええ。私は……忍者、ですから。」
「……!お前なんか大嫌いだ!死んでしまえ!この裏切り者!」
姫は眉間に皺を寄せて男を睨む。
「すみません。……これも任務なので。」
そう言うと男は小刀を姫の心臓に突き刺した。
「ぐぁ、ああああ……!!!」
抵抗するすべもなく、あっという間に刺され、姫は倒れる。虚しさや怒りからか、姫はポロポロと涙をながした。
「いた、い……どうして………。」
意識がぼんやりとしてくる中、彼の消え入りそうな、悲しそうな声が聞こえた。
「…………………………なぜ、起きてしまったのですか。姫だけは生き残れるように、取り計らっていたのに……。」
彼を見ると彼の頬には一筋の涙が月明かりに照らされ、輝いていた。
「こんなことで許されるだなんて思っていませんが、私もここで死にます。……杏姫、愛しています。」
そう言い、男は手に持った小刀で自分の腹を切った。
姫は薄れゆく意識の中、先に息絶えた彼を見て思った。
(……人の心が読めればいいのに。そしたら、こんなにペラペラと敵に情報を与えなかった。こんな最低な男、相手にしなかった。そしてこの愛する男にあんな最後の言葉を言ったりしなかった。)
姫は世を恨み、男を恨み、自分を恨みながらゆっくり目を閉じた。
「……で、気づいたら、妖怪になってたし、人の心まで読めるようになっていたとさ。めでたしめでたし。」
「……。なんか軽い気持ちで聞いてしまってすみませんでした。」
あまりに重い話だったので、成瀬は数分前の自分を殴りたい気分だった。
「はぁ…。あれから何百年たったと思ってんだよ。とっくにその出来事はあたしの中で消化しきってる。ってか、お前な、妖怪が生きてた時の記憶が楽しい記憶なわけないだろ。妖怪を構成する要素は多めの陰の気と未練のある魂なんだからな。」
「……そうっすね。そういえば天女さん、箱入り娘だったんでしょ?妖怪になった後、外の世界とか冒険したの?」
「いや、特に。なんかいろいろとどうでも良くなってな。割とずっと昔からこの山にこもってるよ。」
「じゃあさ、海とか見たことないわけ?」
「あー……。そういえばないな。」
「えーー!んじゃ、俺、天女さんを海に連れて行ってあげるよ。映えるスポットもいっぱい知ってるし!」
「ば、ばえ……?というか、何でお前があたしにそこまでする。」
成瀬はキョトンとした顔で、天女さんを見た。
「え、だって、綺麗な場所って共有したいもんじゃん?ましてや、海見たことないやつに最高に綺麗な海を見せた時のリアクションなんて、すごい見たくならない?」
天女の妖怪は一瞬、外の世界について楽しそうに語っていたあの男の顔と、成瀬の顔が重なって見えた。
「……!はは……。はははっ。気に入った。お前、名前はなんだ。」
急な展開に成瀬はしどろもどろになる。
「はぇ!?お、俺……成瀬瑠偉、だけど。」
急に名前を聞いたかと思ったら、天女の妖怪は急に驚くべき提案をした。
「そうか。ルイ、あたしと契約しろ。」




