呪いの村⑫
理斗は天女に弓を向ける。長い前髪のせいで、彼が今、どんな感情なのかも読み取れない。
「理斗!やめ…」
「なぜ止めるんです?今ここでコイツを消すことが1番確実で手っ取り早い解決方法じゃないですか。」
みやびが理斗を止めようとするが、今度は聞く耳を持っていない。
「……。これだから人間は…!」
天女さんの機嫌も悪くなっていく。やばいやばい。
「ちょ、なんか、もっと平和な解決方法ないわけ?」
とんでもない空気に耐えかねて、成瀬先輩が間に入る。
「……邪魔するんでしたら、先輩ごと貫いてもいいんですよ。……ちょうどここ、山奥ですし。」
その狂気じみた言葉に、成瀬の喉がひゅっ、と鳴った。
冗談、、、とはとても思えない。
場の空気はさっきよりも張り詰めてしまった。
そんな空気の中、大山先生が言葉を発する。
「そうだね、確かに効率面で考えれば、理斗の考えは間違っていない。」
「せ、先生!?」
成瀬先輩が驚いた表情をする。
「だけど……1番手っ取り早い方法が1番良い結末を呼び寄せるとは限らない。」
大山先生の顔はいつにも増して真面目で、不思議な説得力があった。
「……。先生、その言葉は同情によるものですか?それとも経験によるもの?」
潤が質問をする。
「もちろん、経験からだよ。」
先生はニッと笑った。
「そうですか。……理斗、武器をおろせ。」
潤は冷静に理斗に指示する。
「……。わかりました。」
すると、理斗の弓は徐々に形が崩れて、彼の手の中に戻っていった。
「…では、いざこざも収まったということで、貴方にお聞きしたいことがあるんですが、、」
大山先生は改めて天女さんを見た。
「……何だ?」
「契約の破棄の方法が、契約した片方の消失しか無いのなら、貴方は俺たちの前に現れないはずだ。どうやら、きちんと力差は理解しているようだしね。だとすれば、何か契約破棄の他の方法を知っているんですよね?」
その言葉に天女さんの口角が上がる。
「そういうことだ。やっと本題に入れるよ。」
……なんかさっきから、大山先生が頼もしいな。意外と、というか普通にできる人なのかも。
「確かに、人と妖怪の契約ならばどちらかの消失しか破棄の方法は無い。だがこれは村と妖怪の契約だ。この場合、もう1つ破棄の方法が存在する。」
「ほう。」
「団体と妖怪との契約は、契約を媒介するもの、つまり契約書の役割を果たすものが必要になる。あたしの契約の場合、水晶玉が契約の媒介物となっている。……つまりだ、それを破壊する事でこの契約は破棄できるという訳だ。」
「なるほど。その水晶玉を破壊する事が、今回のミッションになるんやな!」
みやびはパンと手を叩く。
「……しかし、疑問なんですが、どうして貴方はその水晶玉を破壊しなかったんです?村人が消えていくのは貴方も望まないはず、ですよね?」
月城は眼鏡をくいっと上げ、鋭い一言を放つ。
「破壊しなかったんじゃない。契約の当時者は破壊できないんだ。あたしや、村の連中も含めてな。…だから、この状況を打開しうる第3者が祠までたどり着くのをずっと待っていたんだよ。
水晶玉はここから西に少し歩いた洞窟の最深部にある。ついてこい、案内してやる。」
そう言うと、天女さんはふわりと浮き、西の方角へ進み出した。
「よし、ついていこう。」
大山先生を先頭に、私たちはまた道無き道を進むことになった。




