体育大会の裏事情⑩
青ブロックの応援席はザワついていた。
「二階堂さんって足速いの?」
「さあ?でも50m走では、そんな速いイメージなかったけど?」
「それやばくない!?赤ブロックは早いメンツ揃ってるらしいから負けるじゃん…!」
「えー、せっかく同点まできたのに!」
「これで負けたら二階堂さんのせいじゃね?」
皆思い思いに不満を言っている。
みやびは不機嫌そうにつぶやく。
「………不憫すぎるなぁ。」
月城もさすがに同情しているようで、うんうんと頷く。
「成瀬先輩もなかなか卑怯だよな。平然と人に怪我をおわせたり、不正をしたりするし。
……潤、結果がどうであれ、成瀬先輩についてこれからどう接していくんだ?」
潤は腕を組んで険しい顔で答える。
「あの人が危害を加える存在になるのなら、それを防ぐ対策をとるが…そうでは無いのなら、敵対する必要は無いだろう。もともとそういう約束だったのだから、破るつもりはない。
……だが、、、」
「……だが?」
「……茉莉花への仕打ちには腹がたつ。」
「そうよなあ!もし茉莉花ちゃんのせいで負けたんだ、とか言われるようになったら、うちはあの先輩を許せんわ!」
みやびは声を荒らげる。
「…まあ、そこは大丈夫だと思うけどな。」
月城はつぶやくように言った。みやびは首をかしげる。
「なんでや?」
「アイツ、目立つのは嫌だ、と言っていたが、負けたらどうしよう、とは言っていなかったからな。また、妖怪使ったセコい事でも考えてんじゃねーの。」
「ふぅん。そうなのかな…。」
みやびは心配そうな目でグラウンドの中央に整列した、ブロック対抗リレーの選手達を見る。
「ふぅーーーー。」
茉莉花は大きく深呼吸をする。
いよいよ自分の出番が近づいているようだ。
ついに、第4走者にバトンがわたった。
茉莉花は第5走者であり、アンカーの1つ前という割と大事なポジションである。
ちなみにアンカーは例のマンションで妖怪にボコボコにされた、色黒短髪少年、佐藤光太君である。実は彼、学年トップクラスの運動神経なんだとか。
今の赤ブロックは…2位。うーん、ダントツ最下位とかだったらプレッシャーもなくなるんだけど。
皆が私を見ている。応援とかじゃなくて、純粋に結果が知りたいから。期待はされていないだろうが、手を抜いたり、ほかのブロックに抜かされたりしたら、後でどんな目に遭うか。
「……まあ、全力で頑張るしかないよね。」
さっき潤がツボを押してくれた手をキュッと強く握る。
……次の瞬間、私の手にバトンがわたった。
硬い地面を強く蹴る。
肘の角度。脚をあげる高さ。目線。ひとつひとつの動作を意識する。
懐かしい感覚だった。こんなに本気で走るのは中二以来か。
あの頃は、走ることが本当に好きだった。
風をきって突き進む感じや、だれかを追い抜く時の高揚感……。
今は筋肉も体力も落ちているが、それでも……やっぱり楽しい。
気がつけば、もう1周が終わろうとしている。
コータにバトンを渡した瞬間、今まで気にしていなかった大歓声が耳に入ってきた。
波乱に満ちた体育大会の結果は、、、
青ブロック、私達の勝利である。
リレーが終わった瞬間、クラスの皆が茉莉花の周りに駆け寄ってくる。
「すごい!二階堂さんが赤ブロックを抜いてくれたおかげだよ!!」
「すげーな!めっちゃ足速いじゃん!経験者?」
「補欠に選ばれたのも納得だわ。何なら選手でも良かったのに!」
単純だな。さっきは不満そうだったくせに。
「茉莉花ちゃーん!!!」
みやびは私に思いっきり飛びつく。
「最高や!うち、惚れてしまったわ!」
「はは……ソウデスカ。」
ふと赤ブロックの応援席にいる成瀬先輩を見る。
心ここに在らずって顔で、体育館裏に向かおうとしている。
「ちょっと、行ってくる。」
「……へ?どこに…茉莉花ちゃん!?」
体育大会裏。
「……成瀬先輩。」
成瀬先輩が私を見る。
「なんだよ、今日のMVP様じゃないですか。割とへこんでいるんだから、ほっといてくれませんかね。」
「ふふ……ガチへこみですか。」
「おまっ、口角上がっているぞ!性格わるっ!」
「先輩も性格悪いですよね。私の足が遅ければ、全校生徒の前で恥をかいてたんですから。」
先輩は大きくため息をつく。
「……はぁ。どんな手を使ってもやっぱり鬼門院には勝てないか。所詮、俺の実力はその程度ってことだよなぁ。」
「……最後の最後は妖魔師としてではなく、私個人の実力ですけどね。ってか、約束は守ってくださいよ!?後で陰陽師たちと話し合いの機会を設けるんで。」
「はいはい。別に、俺は自分が安全だったら、どっちでも良かったんだけど。」
「はああ!?じゃあなんで、、、」
「いやぁ、だってさ、今まで陰陽師を殺ろう、って言ってたのに、コロッと方向転換するのはプライドがあれだし。……それに、もしこの選択が後で間違ってたと思っても、あの時勝負に負けたんだから仕方ないか、って思えるだろ?要するにキッカケが欲しかった…みたいな?」
うわぁ……。
「……。」
「今、めんどくさい奴だと思っただろ!」
「はい。もう疲れたんで帰ります。」
なんか問題が解決したら、どっと疲れがでてきた。……とりあえず、早く帰りたい。
後日。
潤の家で2枚の新聞が広げられていた。
1枚目は、中学2年生の鬼門院茉莉花が陸上短距離で県大会優勝を報じる記事が載っていた。
2枚目は、その1週間後に茉莉花の両親である、鬼門院蓮、鬼門院鈴音が事故によって死んだことを報じる記事だった。
月城は真剣な表情で新聞を見る。
「二階堂の脅威の足の速さから、こんな記事にたどり着くとはな。」
潤とみやびはしばらくの間沈黙していた。




