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第4話「歌え、全力機甲警察。」

 SHIBUYA-GO-X。

 都内に位置する、最大収容数が千七百人の大型ライブハウス。

 常盤深緑《ときわ・みどり》が初めて動員数四桁を超えたのが、ここだった。

 その思い出の場所で。


「――ありがとう。みんな、ありがとう」


 超満員のファンの前で。


「……ラスト、初めて1万ダウンロード達成した、あの……」


 自分を押し上げてくれたその曲名を口にする前に、嗚咽が漏れた。


――プロにあるまじき……


 なんとか涙がメイクを汚す前に気力で押し戻し、両手を広げて天を仰ぎながら、深緑は観客に向かってラストナンバーを告げるのだった。

 今日一番の歓声が、SHIBUYA-GO-Xの天井を震わせた。






 それは、深緑が特殊機甲班の待機を終え、同じく相談役の勤務を終えた白石瑞月マネージャーと二日後開催されるSHIBUYA-GO-Xコンサートのリハーサルに向かう途中のことだった。


 深緑は主張を曲げなかった。

 正義を行うことに、全力以外ありえないでしょう、と。


「そやな。全力や。その姿勢はきっと正しい」


 白石が反論をあっさりと肯定したので、深緑は目を丸くした。


 深緑は情熱的な生真面目《きまじめ》ストだ。

 なにより、若い。

 そして、成功している。

 真っ向からの否定は、言うことをきかせるうえでも、関係構築のうえでも悪手になりかねない。


「ところで深緑、歌を歌うときのコツを掴んだって言うとったな。どないしてるんや。ヴォイストレーナーとか、歌唱指導の先生に言われたことを簡単に教えてや」


 そういうときは、まず話題を変える。

 口論で白石の方に向いた矛先をいったん収めさせるのだ。


 ここでも生真面目な深緑は指導内容と評価を思い起こすように顎に手を当てた。


「……声の、濃淡を意識しろって。今でもときどき、そう言われます。」


 その言葉の意味は、もちろん白石にはすぐ分かった。

 歌声の強弱について、深緑がよりイメージしやすい言葉を指導者たちが選んでくれたのがわかる。

 だが、あえて白石は気づかぬふりで惚《とぼ》けた。


「濃淡な……わかるような、わからんような。で、歌声にその濃淡はどういう意味があるんや?」


「まず、情報量だって言ってた。歌は音程だけじゃない。ブレスもだけど、濃淡を意識して出力することで、密度に違いが出せるって。音だけでも、人が拾う情報量って凄いのよね」


 拳を握って力説する深緑は、そうなのかい、と感心した風の白石に気分がよくなってきた。


「それだけじゃなくて……その歌の、どの部分を一番届けたいのか。それを情報密度で相手に知らせるんだって。これには思わぬ副産物があって……」


 うんうんと頷いて、白石は続けるように促した。


「ライブコンサートでも、最初から最後までパフォーマンスの差が出にくくなるんだって」


 我が意を得たりと、白石は深く頷《うなず》いた。


「その副産物、とても大事や。素晴らしい芸は時として稲妻のように突然で一瞬で通り過ぎてしまうこともある。しかしな、ワシらはプロや」


 加減について、深緑にしっかり理解させなければならない。

 士気もパフォーマンスを落とすことなく。


「お客さんが財布の紐を緩める。それは、ワシらが提供する芸に納得してのこと。チケット代やコンテンツダウンロード料金は先払いやから、一定のパフォーマンスを保つのはお客さんの信用や信頼を得るための、ワシらの誠意なわけや」


 白石は噛んで含めるように伝える。


「深緑、お前が今話してくれた、掴んだっちゅう歌のコツ。声の使い方、一本調子やないやろ? 弱く、強く、肝心なところは強く、もっと強くさらに強く……ちゃうわ。弱い箇所もいるっちゅう話やな」


 つい自分も深緑のペースにフル乗っかりするところだったのを、白石は頭を振って修正した。

 深緑に三年以上も付き合っている白石とて、若干おかしい部類なのだ。


「いつでも最大出力っちゅうんはな……一部の大天才にしか許されへん贅沢や。ワシらはな、賢く立ち回れ、とまでは言わん。強弱や。メリハリを使うんや。弱いところを見せるからこそ、強いところが際立つ」


 そのとき、二人はちょうど機動隊の詰め所の前を通りがかった。

 待機していた第一機動隊の誰もが体を楽にして、リラックスしている様子だった。


 白石は深緑の足を止めさせて、機動隊員たちの様子をよく観察するよう伝えた。


「……休憩中です、かね?」


 白石はわざと深いため息をついた。


「これが、濃淡の淡や。スクランブル待機は、休憩やないで。いざ鎌倉、と号令がかかるそのときまで、体力、気力を浪費しないように、溜めてるんや」


 この、『まじめにゆったり』を警察活動を通じて深緑に理解させなければ、アイドルとしてこの先を戦っていくことが難しくなる。

 白石は落ち着いて、先の話に戻す。


「あの人ら、いざ出動したら、めっちゃタフで強いやろ? せやけど、今は笑うとったり、水分を摂ったり、ぼーっとしてたりもしてるよな。でも、それでええねん」


 深緑は、詰め所の機動隊員たちの様子をもう一度見つめた。

 いや、今度は何かのヒントを見つけ出そうと注視したのだった。


 そこに緊急出動のアナウンスが詰め所内に響いた。


《第一機動隊、応援要請です。羽田空港内にてハイジャック発生、犯人は猟銃で武装。NAN航空第7便に人質40名を楯に立て籠もり。なお、強化機甲服《パワードスーツ》着用はなし》


 さっきまで笑っていた第一機動隊の隊員たちの顔つきが変わった。

 自主的に装備の再点検を済ませると次々に点呼を終えて詰め所を飛び出していく。


「ええか。これが、ホンマの全力や」





 SHIBUYA-GO-Xのステージ上。

 ラストナンバーを歌いきった深緑はがくりと膝をついた。

 しばらく立ち上がろうとしない深緑に、演出ではなかったのかと心配する観客の声が大きくなっていく。


 肩を大きく動かしながら、胸に手を当てて乱れた息を整える深緑。


「……アハハ。ごめん、ごめん。ちょっと、水、飲ませてね。いやー、マネージャーと社長に叱られちゃうよ。また、加減を間違えたのかってね?」


 身を屈《かが》めたイベントスタッフが大急ぎで届けに来たドリンクを、一気に飲み干したい衝動をこらえながら深緑はゆっくりと喉に流し込んだ。


「何せ、いろいろと嬉しくて気持ちが昂《たかぶ》っちゃってさ。想い出の場所に想い出の曲。それに……私とみんなに、嬉しいお知らせだーーーーーーー」





557『悲報、ポリアイドル、ゼップ新東京、SHIBUYA-GO-Xを超満員に。勢いに乗ってTOKYO DOME CITY HALL追加公演決定! 悲劇の日比谷公園大音楽堂を取り返す、とのこと』

 ・・・

561『本当に満員だったのか? また運営のステマだろ』>>557

 ・・・

565『日比谷野音が二曲で中止だっけ? セットリストの使いまわしってことかな』>>557

 ・・・

571『だよな。警察、国家権力まで利用した売名、薄汚ねよな』>>561

572『襲撃事件で売名って、被害者の気持ちをないがしろにしているよな』>>565

・・・

584『本当のアイドルファンは、こんな奴に騙されない』

 ・・・

623『批判を封殺するのは、民主主義にもとる。正義を成すときです』

624『いつもの奴が来た』>>623

 ・・・

638『面倒くせえ』>>623

639『私は事実を言っているだけです』>>623は私です。>>624、>>638

 ・・・

655『アンチスレとはいえ、病魔に操られ過ぎ』>>623

656『いや、よく言った』>>623

 ・・・

728『スレごと消されるじゃねえか。遊びだってことをわきまえろよ。』>>623、>>639

729『アンチスレの風上にも置けない腰抜け』>>728

730『投票しようぜ。623に賛成ならYで、出ていけならNでいいか。いったん800までにしようか』

・・・

801『まだ続きそうだな。とりあえず900まで延長する?』>>730

802『賛成。だが、その番号で言うの、ウケる。』>>801

 ・・・

905『今のところ、Yが100ちょうどで、Nが20か。間違ってたら誰か修正ヨロ』>>730

910『次スレはこちらです。【燃えよ、常盤深緑】 Part250、※注意喚起。前スレが埋まるまではこちらへ移動せず、このスレを使い切ってください』

 ・・・

999『Yがほとんどだった。ほうら、私が正しい』





「まずは、動画投稿サイトに告発動画を投稿して、正義を世に問うとしようかな?」

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