水のようなもの
迷いと躊躇い。
最善策をと思い中途半端な行動を取ってしまった。
そのせいで状況悪化。
「待ってろよマキナ! 今すぐ助けてやるからな! 」
初めからそうしていればよかったんだ。しかしどうしてもできなかった。
「お兄ちゃん早く手を…… 」
あんなに元気だったマキナがか細い声で今にも消えそうなほど。
歳月をかけてできた大きな穴に吸い込まれるように二人はいつの間にか落下。
どうやら巻き込まれたよう。マキナを犠牲にして逃げられなかった。
私は酷い人間かもしれないが非情になり切れなかった。それが私の甘さ。
分かってたんだ。あの日だってそう。博士を始末することもできたんだ。
しかし第一発見者を装い救急車を呼んだ。
呼んですぐに後悔したが結果的にはよかった。
あのままトドメを刺していれば今頃刑務所の中さ。
この経験があるから見殺しにはできなかった。
もちろん博士とマキナでは何もかもが違うが。
ただ博士を突き落とすのもマキナと共に落ちるのも抑圧からの解放の面では同じ。
今度の旅はただの助手でしかない私には重すぎる。
第七の穴など私にはとても務まらない。仮だとしても相当なプレッシャー。
もう今が潮時なのかもしれない。マキナとこのまま静かに消えるのも悪くない。
実際疲れたよ。当てのない財宝探しなどするんじゃなかった。
本来もっと大勢の仲間が必要。それなのに一人として連れて来れなかった。
準備不足もあるが何と言っても博士がライバルたちに漏らしてしまったから。
仕方なかった。だがライバルたちが島に姿を見せたと聞かない。
するとこれは博士が嘘を吐きあえて急かしたことになる。
まさか博士はすべてを知った上で私を操ろうとしたのか?
博士め。何かとんでもないことを企んでるな。
やはり一人でも信頼の置ける者がいたらな……
ダイボもナガレも大切な友で掛け替えのない仲間だがそれでも彼らは島の人間。
ナガレはもう島民だしダイボは元から。
まあ後悔しても始まらないか。ははは!
うわああ!
穴の奥深くへ。
そこは何か特別な世界がある訳ではなかった。
閉じ込められたのでもなければ動けないのでもない。
ただ何もなくては上へは上がれない仕組み。ただの何もない空間。
虚無だけが漂っている。そんな場所にマキナと二人っきり。
それはそれで悪くないかもな。暑くもなければ寒くもない。快適な空間。
さすがは洞窟の中とあってひんやりする。でもそれが寒いとはならない。
マキナの熱を感じるのでちょうどいい。
「お兄ちゃん…… 」
不安そうな顔をするマキナ。
「心配するな。きっと私が助け出してやるから! 」
まずは落ち着き落ち着かせること。
焦って何かしようとすれば自然は牙を剥くだろう。
「うん! 」
溢れそうな涙を堪えるかわいらしいマキナ。つい抱きしめたくなる。
でもそんなことをすればどこまで行くか分からないぞ。
危険だ。その特徴的なニュウニュウに吸い込まれそう。
「どうしたのお兄ちゃん? ニュウニュウが珍しいの? 」
ほぼココと同じ反応をする。珍しいとかよりも気になる。
「どうしたの? どうしたの? 」
どうやら不安を察知したのかマキナは納得できずにいる。
「よし今は体力回復に励もう。寝て疲れを取ってからこのあとのことを考えよう」
そう言って大人しく寝てくれるかなと思ったらどうも納得がいってないよう。
困ったな。ここで二人でネガティブ思考に陥れば三日と持たずに廃人だ。
ここに来たことは誰にも知らせてない。とは言え入るのは見た訳だ。
穴と慕ってくれる彼ら。きっと帰って来ないと心配し捜索してるに違いない。
希望的観測だがココだってナガレだっている。
いや待てよ。ナガレの姿を見かけない。どうやら消された恐れもある。
事情をよく知るナガレを失えば一気に悪化する。
「お兄ちゃん? 」
「大丈夫。マキナは心配しなくていい。きっと助けが来るさ」
つい勢いと言うか何も考えずに抱きしめてしまった。
小さくて独特のニュウニュウに触れると心臓がドキドキする。
子供でこうなら大人はどうなんだ? ぜひ実験してみたいな。
おっと…… つい学者としての性が…… と言っても助手だが。
「お兄ちゃん! 」
「マキナ! 」
再び抱きしめてしまう。
これは軽率だがマキナだって求めていたこと。
仕方ない。そう仕方ないことさ。
それから一時間経過。
二人でどうにか寝ようとしたが緊張感からか眠くならない。
おかしいな。一体どうしたんだろう? 飯もなく喉だって乾いた極限状態。
「ねえお兄ちゃん。マキナ喉乾いちゃった」
そう言って我がままを言う。当然の欲求だがどう対応したらいいのか?
こんなところに水などある訳がない。周りを一応探すが見つかるはずもなく。
どうにかごまかすが我慢の限界も近い。
「水! お兄ちゃん早く! 」
「我慢しようね。もう少しだから」
「もう少しってどれくらい? 」
「あとちょっと…… 」
「待てない! お兄ちゃん喉乾いた! 」
ダメだ。話を聞いてはくれない。だとしたらここは最終手段に出るしかない。
遭難した時に有効な手段。しかしできればこれだけは使いたくなかった。
でもココにもしてあげたこと。今ここで躊躇すれば命取り。
もうこれ以上の判断ミスはできない。非常時だから悩むことも躊躇う必要もない。
待てよ。彼女たちが天女の生まれ変わりなら水などなくともどうにでもなるはず。
マキナが泣き出した。仕方ない。ここはマキナのために一肌脱ごう。
「ほら飲め! 一滴とも逃すなよ」
おっと言い方を間違えるととんでもないことになるぞ。
「もうお兄ちゃんってば…… 」
さすがのマキナも恥ずかしがる。だがこれは悪ふざけではない。
「こんなものしかなくて悪いな。どうだ美味しいか? 」
いや美味しいはずがない。ただのぬるくて汚らわしいものでしかない。
もし本土だったら立派な犯罪であり虐待。
「へへへ…… 」
ダメだ。変なものを飲ませておかしくなったらしい。
責任は私にあるのか?
落ち着かせ寝かしつけるがやはりマキナが大人しく寝てくれるはずもなく。
何と私に話をするようにとせがむ。困ったな。
まあいいか。ちょうどこの機会に関係を深めるのもいい。
せっかくだから正直にすべて話すとしよう。
どうせ島長には伝えてあるのだから。
続く




