マキナ大ピンチ!
第七洞窟の迷宮へ。
明かりの届かない地中深くの道を僅かな光を頼りに進むが……
「お兄ちゃん! また階段があったよ」
呑気に先に進もうとするマキナ。すると機嫌は悪くない?
忘れっぽいのかただ聞いてないだけなのか。
これだから子供は世話が焼ける。興奮してどんどん先に行ってしまうんだもんな。
トワナもそうだがマキナがどうしても気になって仕方がない。
なぜだろう? どこかで会ったことがあるのか?
どこかで…… まさかね…… いや気のせいだ。会っていたら忘れるはずがない。
マキナはこの中島で初めて会ったはず。それなのに懐かしを覚える。
それはきっとあのかわいらしい見た目からなんだろうな。
それともやっぱり何かあるのか?
直接本人に問い質せばいいのだがはぐらかされそう。
「ゆっくりだぞ! そんなに急いだら踏み外すからな! 」
あれほど勝手に進むなと言ってるのに張り切って走る。
きちんと手を繋いでおけばよかったか? でももうそんな年でもないよな。
あんな見た目でも十五だからな。
暗いのに何も考えずに走って行くから困るぜ。
マキナは恐怖よりもワクワクが勝ってしまっているのだろう。
何度も行ったことのある自分のテリトリーならまだ分かるんだ。
でもここが初めてだと言った。それでは私と何ら変わらない。
地図でもあれば…… あるはずないか。
「到着! お兄ちゃんも早く! 」
「だから…… 」
階段を降りると周りは穴ぼこだらけ。これ以上進めるはずがない。
「へへへ…… どうしよう? 」
無邪気に笑うがそんな場合じゃない。まだ未完成だと言ったろう?
これは百パーセント安全な子供向けアトラクションではないぞ。
自然の脅威がいつ牙を剥いてくるか分からないんだ。
「早く戻って来いマキナ! 」
「手を…… お願いお兄ちゃん! 」
「甘えるな! 」
「でも疲れたから…… ここで一休みね」
こんな時に動けないと我がままを言う。
「ダメだってすぐに登って来い! これは穴命令だ! 」
危険極まりないところでのんびり寛いでいる奴がいるか!
そっちがよくても見ている方は心臓に悪い。
しかしなぜこんな穴ぼこが…… 危ないじゃないか。
そうかまだ未完成だから誰かが来るなどとは夢にも思わないのか。
自分たち以外は来ないと…… ここでストップさせる予定だったとか?
とにかく今日はここまで。戻るとしよう。奥深くまで見学できて満足さ。
穴としての最低限の役目を果たしたと思う。
「戻るぞ! 」
「怖い…… お兄ちゃん怖いよ! 」
戻ろうと言っても聞きもせずふざけて穴に落ちる寸前。
「マキナ! 何をやってる? 危ないだろうが! 」
いつの間にか姿を消す。嘘だろ…… マキナ消失?
「こっちだよお兄ちゃん…… もう手が痛くて」
どうやら自然が作った落とし穴に吸い込まれそうになり必死に堪えてるのだろう。
「もう何をしてる? どうして命令を…… 」
クソ! こんなこと言っても届きはしない。急いで手を伸ばさないと。
でも暗くて体勢が…… いや違う。真っ暗な闇に吸い込まれたくないだけ。
私はいつの間に島民を救ういい人になったんだ。違うだろう?
私の最終目的は財宝…… それが無理なら天女伝説解明。一躍有名に。
しかし今はどうだ? 第七洞窟の穴になりおかしな役割を押し付けられた。
この中島に溶け込み認められるにはちょうどよかった。
でもこのままここに閉じ込められるかと思うと……
「済まないマキナ…… 今すぐ助けを呼んでくるからな。待ってろよ」
一旦ここを離れることにした。
マキナを置いて行くのは心苦しいがすべてはマキナの安全のため。
急いで応援を呼ぶ。迷わなければ三十分もしないで戻れる。
一人でどうにもならない以上応援を呼ぶのが最善の方法。
無理に救出しようとすれば想定外の悲劇に見舞われることになる。
ここは焦らずに冷静に。
ただそれまでにマキナが耐えられるか微妙。
だが決断が遅れればマキナは助からない。ここは判断ミスはできない。
「お兄ちゃん…… 助けて…… もう限界」
マキナが苦しいのは見て分かる。でもどうしてやることもできない。
一人では無理。マキナを掴み持ち上げるのは難しくないがそれでは巻き込まれる。
それはあまりにリスクが高過ぎる。だから躊躇った。
そしてマキナを置いて行く決断をした。あまりにも非情だと自分でも思う。
しかし今日昨日会ったばかりの者に命を懸けられないんだ。
許してくれマキナ。お兄ちゃんは情けない人間さ。クズだと言ってもいい。
でもこんな奥の奥の穴地獄でなぜ密かに消えなければならない。
自分の身は自分で守る。それがこのような閉ざされた世界では当然のこと。
医者だって薬だって不足して満足に治療さえ受けられないだろう。それが辛い。
お兄ちゃん……
マキナの苦しむ声が耳から離れない。
一度諦め離れたと決めたのにどうしたことだろう?
急いで戻って助けを呼ぶのが私にできる唯一のこと。それしかない。
いくらそう自分に言い聞かせても躊躇いがある。
お兄ちゃん…… お兄…… 鬼……
まるで私を非難してるように聞こえる。ああ私は何と罪深いのか?
悪魔に魂を売った。だがそれでもまだ微かに人間の心が残ってる。
まだ非情になり切れない。だから苦しい。
ああ本当に情けない。どうする? どうすればいい?
もし天女の生まれ変わりなら自力でどうにかなるはず。
ここは目を瞑って耳を塞ぎ前を進むしかない。あくまで目的は財宝発掘。
気持ちがいくら変化しようともそれがこの島に来た真の目的だから。
だがだったら逆に助けて天女伝説を解く方が財宝への近道では?
ダメだ。一度決断したのにそれに従って動けない。足が止まってしまう。
これもすべてマキナのため。だから早く! 早く!
親子プレーでマキナと楽しく洞窟探検などと甘い考えをしていたから。
浮かれていたんだろうな? 穴になって皆から祝福され認められた。
そのせいで冷静な判断ができずにいた。
今更後悔しても遅すぎる。もうどうにも……
クソ! もう知らない! どうにでもなれ!
ここは穴として最低限の役割を果たす。即ち引き返しマキナを救出する。
ミコトだってきっとそっちの方が喜ぶさ。
踵を返して階段の方へ引き返す。
どうやら私の人生もここまでらしい。博士を犠牲にした財宝発掘計画もここまで。
引き継ぐ者も出て来ないだろう。それがいいか悪いかは分からないが。
続く




