ココ分裂
ついに自由を手に入れた。
前島では島長のお墨付きもあってある程度自由に動き回れていた。
しかし中島は前島以上によそ者を拒絶する。
そんな中で仮とは言え第七洞窟の穴に選出された。
大穴から選ばれたとか議長の鶴の一声ではない。
きちんと手順を踏んでルールに則り穴に選ばれたのだ。
これでようやく認められたのかな? 島民からも敬われることだろう。
とにかくめでたい。こんな日が来るとは夢にも思わなかった。
すべてはハイドのお陰。候補者に問題があったからでもある。
オヤスはふざけ過ぎだし相談役は年を取り過ぎて相手にならなかった。
とにかく今夜は遅くまで飲み明かそうではないか。
たとえ私が自重しても彼らは放っておかない。それが選ばれた者の宿命。
ココが歓喜の舞を披露。
興奮してよくやったと手を叩く。
無理だと分かってるのに何度もアンコールしてしまう。
振り返れば恥ずかしいことだがこの時は気分が高揚しており皆も大騒ぎ。
大興奮の中でだから仕方ない。酒の影響もあるのかな。
そう言えばごちそうは泉で捕まえた魚たちだろうが酒はどこから?
まあいいか。細かいことはどうでもいい。
「どうしたんですナガレさん? 」
さっきから食事にも酒にも乾杯以降一口も手を付けてない暗めのナガレ。
一言だって発してない。なるべく沈黙を保とうとしているみたいだ。
無礼講でいいだろう? それなのに真面目に自分の役割を果たそうとする。
感心もするし尊敬もするが大騒ぎ好きのナガレが加わらないのは違和感がある。
「いや…… 」
それだけ。酒も飯もよく喰らう人だったのに人が変わったよう。
前島ではあれだけ楽しそうに浴びていたのに。
静か過ぎるナガレ。
どうやら何かあるのかもしれないな。
まさか前回この島に来た時の記憶が鮮明に蘇ったのか?
少々心配だが今は思いっきり楽しもう。
せっかくの祝福と歓迎に応えない訳には行かない。
こうして明け方過ぎまで大騒ぎ。興奮が収まることはなかった。
翌日。
昨夜はこの島に来て以来最高の夜を過ごすことができた。
勝手にスーパーハードモードなどと言っていたが取り消さないとならないな。
それほどの手厚い歓迎を受けた。
中島の人はよそ者には厳しいが一度受け入れたら温かい。
これが彼らの本当の姿であれば多少気が休まるのだが。
しかし…… いや今は疑う時じゃないさ。彼らはいい人たちばかり。
朝いつものように第七洞窟の手伝いに起こされる。
「起きて。起きてよ」
「もう…… 昨日遅かったんだからまだ寝足りない。ほらココも一緒に」
強引に中へ。眠くて眠くて仕方がない。
それにどんな手を使ってでもあのきつい作業から逃れたい。
ココだって分かってるはずだ。協力してくれよな。
「ちょっと…… 」
「どうしたご主人様だろう? 従うんだココ! 」
これではココは従わざるを得ない。可哀想だが逆らえないさ。
「もう強引だよお兄ちゃん…… 」
「あん? 何がお兄ちゃんだよ? ご主人様だろう? 」
ココはいい子だから私の悪ふざけにも付き合ってくれる。
でも近頃は違った反応を見せる時もある。少しは成長したのだろうか。
ご主人様としては喜ばしいこと。
「ねえお兄ちゃん? これってどう言う意味? 」
「どうしたココ? その言葉遣いは? 私が喜ぶとでも思ったか? 」
おっと…… やり過ぎだな。これ以上はよそう。ただ手伝いたくないだけ。
何もココを困らせることはない。せっかく私のために起こしに来たのだから。
「ココ…… 」
その時だった。もう一人のココ登場。
「ご主人様! ご主人様! もう朝ですよ? いい加減起きてください! 」
いつの間にかココが二人に分裂したようで二人目が起こしに来た。
この理解で本当に正しいのか?
「お前がココか? 」
「はい? 難しい質問ですね。そうです…… ではこれで」
ココは一瞬ですべてを悟ったのか慌てて戻ろうとする。
「いや…… 見放さないでくれ! お前がココならこの子は一体? 」
何となく分かっていた。でも認めたくない。
でもこんな風に甘えた声を出すのは一人しかいない。
「自分の胸に聞いてください! 何てことをするんです? 」
どうやらココはこの子の正体が分かったらしい。
「もうお兄ちゃんさっきから難しい! それにマキナに抱き着かないで! 」
なぜマキナがここにいる? 起こしに来たのはココではないのか?
いやそもそも私は誰なんだ? 恥ずかしくて情けなくて現実逃避したいよ。
もちろん逃れるはずがないが。
「いつからですか? 」
「ああ…… 二分前かな? 」
「もう少しまともな嘘を吐いたらどうです? 二分前は私が来る直前」
ココはご主人様だと言うことも忘れて疑いの目を向けて来る。
でもそんなこと言われてもココが起こしに来てくれたとばかり思ってたから。
「相当焦ってますねアキラさん」
あーあついにご主人様やめたよ。
これはもう相当だぞ。歓喜の舞が懐かしい。
「待ってくれ! 私だって知らないんだ。いつの間にか…… 」
「勝手に入って勝手に抱き着いて来たと? 」
疑いの目はそのまま。
マキナが真実を語らないと私がどうしようもない人間だと確定してしまう。
それだけは嫌だ。当麻博士よりも最低な人間になってしまう。
昨夜羽目を外したからってそこまで本能で生きられるか!
大人として理性ぐらい備わっているわ。
「もう早く行こうよ。お兄ちゃん! 」
ココと間違われて無理やり引っ張り込まれたのにあまり気にしてない様子。
それがマキナのいいところで困ったところでもある。
「どこに? 誰だっけ君? 」
これは一種の作戦。こうすれば私はマキナを意識してないことになる。
実際まったくしてないし。ココが納得してくれるかがポイント。
しなくても無理やりにでも納得させるさ。
「もう酷いなお兄ちゃん! マキナでしょう? 大好きだって言ってくれたのに」
うわ…… マキナは虚言癖があるらしい。
かわいいとは言ったが好きだとは一言も。それに仮に言っても本気にするか?
「マキナちゃん…… かわいいと思うし好きだけど大好きとまで言ってないかな」
なるべく傷つかないやり方でマキナに分からせる。
「そうだっけ? どっちでもよくない? マキナはお兄ちゃんのこと大好きだよ」
マキナは屈託のないニュウニュウ…… じゃなくて笑顔を見せる。
どうしても視線が下に向いてしまう。どうしたんだろう私は?
これでは最低人間ではないか。ああトワナに合わせる顔がない。
ココがようやく笑う。ただ誤解が解けたかは不明。
朝から重苦しい空気が流れるのだった。
続く




