ムクナナガレ
二日目。
サザナミの案内で沼へ。危うく底なし沼に嵌るところだった。
注意もせず地獄へ誘うサザナミ。
まさかこれが島の歓迎方法なのだろうか?
「あら大変…… くっ付いてますよ」
そんな風に微笑むこの状況でも上品でいようとするサザナミ。
どうかしてるぜ。それがこの島では普通なのか? 私が異常なのか?
「ははは…… 済みません。泥だけになってしまいました。でも大丈夫」
「何を? 早く叩き落とさないとヒルに血を吸われますよ。急いで! 」
うわああ!
再びの底なし沼。周りの草木をどうにか掴んで沼に落ちる前に脱出。
危ない危ない。また嵌るところだった。
「ほらお手を! 」
「ありがとうございます」
「きゃああ! 」
勢い余って突き落そうとするサザナミ。冗談じゃない。何を考えてるのか?
せっかく這い上がって来たのにこれでは生きた心地がしないよ。
世話係で案内役で監視役のサザナミ。絶対わざとやってるだろう?
「ハイもう一度! 」
ようやく引っ張り上げてもらった。
意外にも力持ち? それとも火事場の馬鹿力? ただの沼地だけど。
とにかく助かった。一応は感謝の言葉を述べるとしよう。
危うく底なし沼に嵌るところだった。ぼうっとしていればやられていただろう。
どれだけ危険なんだよ? この辺りに無闇に近づくのはよそう。
ここに来て慣れたと思った矢先だから堪える。
しかしこれで二つのことが分かったぞ。
一つはわざと沼地を歩かせて陥れようとした。
それが命令なのか計算なのかただのミスなのか分からないが。
もちろんこの島なりの手荒い歓迎なのかもしれないが。
二つ目として。
放っておけば底なし沼に嵌って始末できるところをあえて助けた。
要するにどうであれ命までは取ろうとしなかった。
それは脅しだけで逆らえば命はないと忠告したかっただけ。
体に覚えさせて絶対に島の秘密に迫らないようにしたと解釈するのが妥当。
こう言うことは以前にもあった。だから別段不思議でもない。
フィールドワークではいろいろな地域を回ったからな。
はっきり言ってこれくらいどってことないが足は震えるよな。
だってその時は助手の立場で責任もない。今は一人っきり。何もかも違う。
できるならサザナミの誘導ミスであって欲しいがそれはそれで怖い。
どれであれ信用できないじゃないか。
ハアハア
ハアハア
もう呼吸は荒く汗も止まらない。
「これをどうぞ」
そう言うとちょっと黄色っぽい液体。どうやら冷たいお茶らしいので遠慮なく。
これは恵みの水と言うか麦茶。
「何をしてるんです? ふざけては行けません! 」
意味不明に叱責された。でも喉が渇いたから…… まずくはないが薬臭いな。
「ダメですよ。これはヒル対策用の液体でこれを塗ればたちまちヒルも逃げる。
血を吸われる前に急いで塗って下さい! 」
慌てて注意するサザナミ。もしかして私は非常識なのか?
そもそもこのような島では食べれるか飲めるかのテストをするべき。
フィールドワークでは自分で見極めるのが基本。
信じてもいいが最後の最後は自分だからな。その精神を今こそ取り戻そう。
常に危険と隣合わせだと自覚すべきだろうさ。
塗って大丈夫なら口に入れても問題ないよな? でも凄い臭いがする。
慌てて脇にお腹に足と。背中と首はサザナミにやってもらう。
こうして一匹残らずヒルを撃退した。最終的には火あぶりさ。
うわああ…… すべてが解決し落ち着いたところで恐怖が蘇る。
底なし沼もそうだがヒルに血を吸い尽くされるのもごめんだ。
危険な旅だと分かっていたのに案内役の言うことを聞かずに暴走。
先に行ってしまったために起きたトラブル。
これはサザナミのせいでは決してない。今疑いを抱いてはいけない。
案内人とは常に一心同体。疑うと言うことは自分を疑うことになる。
大丈夫。もうこれ以上の危険はないだろう。
それにしてもこのような危険な場所に大した注意喚起もせずに連れて来たのか?
子供じゃないから大丈夫とでも思ったのだろうか?
そうだとしたら浮かれていたこっちに問題がある。
「それでサザナミさん。沼には何があるんですか? 」
まさか観光スポットだとか抜かさないよな?
一応は研究者で遊びに来たのではないとは伝えてあるはずだぞ。
逆にそれが安易で危険に晒した原因かもしれないが危険は承知の上。
この村の者だって殺人まで犯しはしないさ。単なる希望的観測に過ぎないが。
「お客さんが島の歴史や天女伝説を知りたがっていましたので詳しい方に。
それとこの辺りも伝説に関係があるんですよ」
意外にもきちんとしているがただの言い訳にも。とにかく案内してもらおう。
「ここですここです。沼地を超えないとたどり着けないんです」
そう言ってゴミを集め作ったような掘っ立て小屋を覗く。
まさかこのような環境に人間が存在するの?
いびきを掻いて酒の瓶が転がっている。これは朝まで飲んでいたな。
気楽でいいぜ島の生活はよ。でもただの酔っ払いはどこにでもいるか。
起こさないで帰ると言う手もあるがそうもいかないよな。
ここまで来て…… 危険を冒してまでやって来た訳だから。
引き返す選択はない。
「ナガレさん。起きてください! ナガレさん! 」
そう言って優しく揺するがこいつがそんなので起きるはずがない。
「起きろ! 起きやがれ! 」
大声で驚かせてから覚醒してもらう。
「ううん…… 天…… 天気がいい。それでそっちは観光客かい? 」
寝ぼけてるらしい。迷惑だな。
「はい。この島の歴史と伝説を知りたいとやって来た都会の学者さんです」
「アキラです。よろしくお願いします」
「ではこの沼の伝説を教えてあげよう。おっと…… 眼鏡を取ってくれる? 」
おかしな頭の変わったスタイルの男。この島の歴史と伝説を知る者。
それは本当のことだろうか? 疑うつもりはないがこの格好ではね。
「失礼。このパンフレットを差し上げよう」
どうやら本気らしい。これで一歩前進か?
「どれどれ…… ミビ茶の作り方…… 」
美味しいミビ茶の作り方を教えてもらう。
「もう一枚あるぞ」
そう言って差し出してきたのはマスコットキャラのミビちゃんの生態。
くしゃくしゃに丸めたい衝動に駆られるがどうにか理性で抑える。
試練なくして財宝には迫れない。そう言うものだと勝手に解釈している。
でもこれはいくら何でもふざけ過ぎでしょう?
続く




