底なし沼
島生活二日目。一日が過ぎ島の生活にも随分慣れた気がする。
天女様らしき人物も目撃したし悪くない滑り出しだ。
とは言え財宝に関しては依然としてまだ何も分かってないが。
新たな島民にも出会えた。その名もミエン。
見た目はただのお婆さんだがとんでもない力の持ち主かも。
もしかしたら彼女が財宝に導いてくれるかもしれない。
「おっと噂をすれば天女様だよ」
そんな風にふざける愉快なミエン。何も見えんと調子に乗る。
うわ…… 傷つかないようにするにはどう返すのがいい?
「どこがですか? あれはサザナミさんでしょう? 」
「でもどことなく似てないかい? 私はそう思うよ」
お婆さんにとっては若ければ皆同じに見えるのだろう。
でも違うものは違うし全然別もの。もちろん直接本人に言うつもりはないが。
そんなことすれば傷つくに違いない。狂ってハイと答えるかもしれない。
そうなったらそうなったで扱いに困る。でもないとも言えないか?
いやいや天女様は伝説のもので実在するのかさえあやふや。
仮に実在したとしてサザナミと間違えるのか?
それはお世話になってるので悪くは言いたくないが。
それでも違うもの。別物だろう? 比べるものではないはずだ。
私が目撃したのだって天女様らしき人物だったしな。
「まったく何一つ似てない! いい加減にしてください! 」
つい堪え切れずに感情的になる。やり過ぎた?
だけどさっき見たのだから見間違えるはずがないんだ。
「ああそうかい。だったらその節穴の目で見つけ出すんだね! 」
興奮気味のミエンはそう言うとサザナミとアイコンタクトを取る。
どうやら二人は何か重大な隠しごとをしているらしい。
それが何か分かるなら苦労しない。どうせ教えてもくれないんだろうな。
「もうこんなところにいたんですね? 探したんですから。
勝手に動かないで! 守らずに単独行動すれば最悪命はありませんからね」
出歩くと痛い目に遭うぞと脅しとも取れる発言。
どうやら相当焦っているのだろう。だからって天女探しは諦めない。
博士の思いを受け継ぐ為にも一週間以内に必ず天女の居所を突き止めてやる。
一週間とは絶望的に短いがそれでも期限がある方が動きやすい。
「では沼にご招待しますね」
一応は昨日決めたことを着実に遂行する。それがサザナミだ。
私は私で予定を変更するつもりはない。きっちり守るのがいい。
そうすればきっと天女様に会える気がする。何はともあれ協力者は必要不可欠。
ミエンさんが何者か知らないが強烈な印象を残し去って行った。
ちょっと喋り過ぎだが決して悪い人じゃない。ただ致命的に目が良くないだけ。
年になればある程度仕方ないこと。感性だって衰えるだろう。
それは当麻博士も似たようなものだからな。労わりの心を忘れない。
お年寄りの世話をするのはフィールドワークするより大変。
一番最悪なのはフィールドワークに同行してお世話すること。
とは言え今は誰であれ大切な協力者だ。それはサザナミも同様。
とにかくもっと情報を集めなければ。有益な情報をできるだけ多くだ。
天女様なら朝にはきっとまた会えるさ。そう信じて沼へ向かう。
「サザナミさんは今朝見かけませんでしたがどこに行かれてたんですか? 」
「申し訳ありません。寝坊してしまいました」
正直に謝られたらそれ以上何も追及できない。どうせ報告にでも行ったんだろう?
そもそも今のはセコイ誘導で夜明け前に起きたのは偶然で彼女を確認してない。
しかしお客がいなくなれば大騒ぎするもの。監視役なのだから当然。
それでも完全に夜が明けてミエンと長話してるところで慌てるでもなく。
だからこそ不思議に思い聞いたのだが…… 理由があって離れていたのだろう。
それを隠すように寝坊したと言い張るには無理がある。果たして彼女は何してた?
想像通りなら困ったことになるぞ。
隠しごとがあるのはお互い様だし今はそれを追求する時ではない。
「ふふふ…… どうしたんですか黙ってしまって? 」
「いえ…… 何だか昨日よりも明るいなと。垢抜けたなと…… 」
率直な感想を述べる。
昨日会ったばかりの女性に言うべきではないがこれって誉め言葉だよな?
それとも自然と馬鹿にしたか? 大体島の者の感性はいまいち分かり辛い。
「そんなことありませんよ。ただ見慣れただけではないでしょうか? 」
仕草や表情は確かに昨日と変わらない。努めてそうしようとしているかのよう。
考え過ぎだと思うが違和感。だからって違和感の謎に迫るのは早過ぎる。
もっと確証を得るべき…… いやこの際サザナミの秘密などどうでもいい。
今は天女様と財宝のみ。一刻も早く手掛りを見つけ出さなければならない。
「それで沼と言うのは? 」
「はい間もなく見えてきます」
家の裏側に回って遠くに山が見える。そこに行く前に右に折れる。
そして現在もはや方角を失っている。ここはどこなんだ?
山が目印だったのでそれが遠のいてはもう何も測れない。
うわ…… 硬い土だった部分がいきなりドロドロする。最悪の感触。
「あの…… お客さん…… 」
それ以上は聞こえない。耳を澄ますが足元のべちゃべちゃで掻き消されてしまう。
もう少しはっきり大きな声で頼むよ。上品なのはいいけどさ。
「危ない! この辺りは底なし沼ですからどうぞお気を付けください! 」
どうやらサザナミの言うようにもがけばもがくほど嵌っていく感じ。
普通は比喩で使うところを実際にこんな危険な沼でだからな。
危険と隣り合わせの旅となった。
それだけ天女伝説にも財宝にも真実味があると言うこと。
おかしいな。いつの間にか私はそこまで強欲になったのだろう?
ただ夢を追いかけていただけなのに。これではまるで当麻博士だ。恥ずかしい。
年を重ねればもっと似てくるかも。だからって今更どうにもなるものでもないか。
人間ああはなりたくないと思った者に似て行くのは絶望でしかない。
気が付いたら最後。後戻りできない。
ハアハア
ハアハア
もう無我夢中で沼地から脱出した。
しかしまだこの辺は湿地帯で沼地はずっと続くそう。
続く




