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聖水

監視の目を気にしていたナガレが復活。

大事な話があると。どうやら本気で私の味方になるつもりらしい。

それでもナガレが奴らを裏切るとは思えないが。


サザナミにミコトか……

ナガレが言うには似てると。そっくりだと。そんな訳ない。 

自分の思い人を美化するのは構わないがミコトと同一視するなよ。

これではナガレの言うことなどまったく信用できないじゃないか。


「それで大事な話とは? 」

これ以上ミコトを侮辱されたくないので話を変える。

もちろんどう思おうと勝手だしサザナミもナガレも悪くはないが。

でも私のことを少しでも考えていたら言えるはずがないんだ。

あまりに軽率で神経を逆なでする発言。


「そうだったね。穴探ししてればそのうち分かって来るだろうが。

天女伝説について一つ面白い言い伝えがある。

天女と言えば羽衣を纏った人に非ざるもの。

体を清めてる時に羽衣を奪われ天に帰れなくなったってのが一般的だ」

「はあ…… 大体そんな感じですよね」

「文献に当たれ。だが今はそれくらいで充分。

ここで問題なのは天女が天に戻るには羽衣が必要と言うことだ」


「人間は愚かだからその神々しい天女様を引き留めようと隠すか奪うか盗む。

その結果天女様は戻れずに途方に暮れる。

それを見かけた男が取り返して無事に天に戻りめでたしめでたし」

何を語り始めたかと思えば幼い頃に読んだ童話。

今回天女の棲む島と言うこともあって読み返した。

それ以外にも図書館で資料を漁った。この程度で分かるなら苦労してない。


「天女降臨伝説ですね? ただ別解釈もできると思うんですが」

地域や国によって少しずつ変わっている気がする。それは時代にもよる。

解釈違いなのか伝播してる中で変化していったのかただのミスなのか?

そこら辺は分からないところではある。それは実は何にでも言えることだが。

近年子供が怖がる等おかしな理由で物語が改変してしまうことがある。

それは大変残念で悲しいこと。ただ時代の流れだとも言える。

博士ともよく議論していたな。

でもまさかその物語そのものに意味があるとしたら?

ほぼあり得ないがそんな風に考えることもある。

後世の者によって物語が改ざんされるのは見るに堪えない。

果たして我々はそれほど偉いのだろうか? 賢いのだろうか? 

秘められた真の意味も知らずにただぼうっと眺めていないだろうか。


おっと…… ついつい脱線してしまった。

そんな私もただ博士の真似事をしているに過ぎないのかもしれないな。

「まあ解釈の問題は長くなるので後にするとして君はその物語の主人公だ。

もし天女様が天に戻ろうとした時君ならどうする? 」

ナガレは私を試そうとするかのよう。

これはどう答えるのが正しいのか? 迷いどころ。

仕方ないので誰もが納得するような模範解答を示すとしよう。

「天に戻れるようにお送りします」

「何を抜かす! この偽善者が! 違うだろうが! 」

なぜか完璧の答えのはずなのに気に入らないと文句を言う。

そんなに怒らなくてもいい。


「あの…… 衣を見つけ天に返すのが使命では? 」

「それは天女側の言い分。これは我々下界の者の言い分を聞いている。

衣を見つけてどうする? 返さないように無理やり剥ぎ取り隠すんだろ? 」

うわ…… 思っていたよりも非道なナガレ。学者崩れだがら狂っちまったか?

そんな奴は人間のクズ。

「愚かな人間のすることですよ」

「馬鹿者! 愚か者はどっちだ! 帰らさないように羽衣をはぎ取れ! 」

とんでもないことを言い出すナガレ。ついて行けない。


「はいはい。分かりました。ではこれで」

もう充分。どうして天女様の羽衣をはぎ取らないといけないんだ?

ナガレは一体はどうしてしまったんだろう? そんな暴力的だったか?

  

「おい! どこへ行く? 本当に理解したのか? 」

しつこく迫るナガレの真意が測れない。

私に話しておきたかったのはこれのことなのか?

もし私がその場面に遭遇したら迷わずに羽衣を奪えとそう言うことらしい。

あまりにも非現実的でどこか壊れてしまったのではないかと心配になる。

「もちろん理解しましたよ。大変ためになりました。

それでココを探しに行くついでに水でも」

「そうか…… 」

こうしておかしなナガレを置いてココのいる泉に。


本当は夜は抜け出してはいけないことになっている。

単独行動は避けるべき。ただ節穴ナガレは外に行くと無口になるから。

あまり誘っても逆に迷惑だろうしな。

さあココ待ってろ! ご主人様が今すぐ迎えに行ってやるからな。


外は思ったよりも寒い。肌寒いレベルを超えてる。

一枚重ねるかウインドブレーカーを羽織るか。

恐らくこの寒さは風によるもの。

昼間が暑くて夜が冷えるのは前島でもそうだった。

基本的には同じ島。一つの島だったのが時間を掛け三つに分かれた。

辺りを探すが見当らない。泉まで行ってみる。

さすがに島民の聖域を侵すのは躊躇われるな。

どんな呪いや祟りがあるか分かったものではない。

ココとさっきから呼びかけるが風で掻き消される。

うん? 誰かいる? 近づくか? 待つか?

悩んでると影が歩き出した。


「どうしたんですかアキラさん? 勝手に出歩いては行けません!

特に夜は迷いやすいので絶対にやめて! 」

ココは島民の一人として意見する。それだけ危険なのだろう。

「悪い…… 君を探していたんだ。それと喉が渇いて一杯」

夜なので当然全身が見えないから大胆な行動がとれる。

昼間ではそうは言ってられない。とにかく目の位置を気をつける。

勝手にロックオンしてしまうのが男の性。

それに逆らうのは愚かしいこと。


「それでどのような? ハイこれが泉の聖水です」

手を煩わすことなく取って来てもらう。

彼女からしたらよそ者を神聖な泉になるべく近づけたくないはずだ。

「ありがとう…… 」

聖水と疑わない泉の水を寄越すココ。

果たして聖水とは?



                続く

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