歓迎の宴
中島・第一洞窟。
やる気を失ったオヤスに代わりかわいらしいココが引き継ぐ。
さっそく彼女から重要なことを一つ教わった。ニュウニュウだ。
この島では胸のことをニュウニュウと呼ぶらしい。
と言っても常識的には特に女性のニュウニュウは仕舞ってあるもの。
それが視線に入って来るものだからこっちが慌てることになる。
ココが特殊なのかまったく恥ずかしがることもないから戸惑うばかり。
「アキラさんはこれを見たことないの? 」
本名は晒したくないので再びアキラに戻した。それがサバイバル術。
それにしても見たことないかと聞くか普通? あまりに純粋過ぎる。
それはココが幼いから? それともこの島の娘は誰もが純朴な田舎娘?
気になる。これもフィールドワークの一環…… おっと違う違う。
どうしてもこれだけ独特な進化を遂げた中島には興味を抱いてしまう。
だからって目的を忘れて調査に乗り出してどうする?
「アキラさん? 」
「どうだろう。それで本当にこれがニュウニュウなの? 」
そう言ってつい手で触れそうになる。
危ない危ない。私は一体何を考えてる? 幼気な少女に何をしようとしてる。
これでは私はよく見かける変態じゃないか。いけない。己を失ってはけいない。
大体近くにはナガレたちが聞き耳を立ててる訳で手など出せるはずがない。
「これがニュウニュウです。そんなに珍しいですか? 触って構いませんよ」
そんな風に笑う。
だからってそうですかって触れるか!
ここは耐えるんだ。絶対に触ってはいけない。それが男だろう?
いや待てよ。逆に触らない方が男ではないのでは?
クソ! どうしたらいい? もうすぐにでも狂いそうだ。
「いや嬉しいけど次の機会にするよ」
ココのプライドも傷つけないように言葉を選ぶのも骨が折れる。
「ではこちらの部屋をお使い下さい」
そう言うとニュウニュウではなくココが出て行った。
こうしてようやく寛げる。オヤスじゃないけどゆっくりしたいよな。
「うわ臭い! 」
それが第一声。ナガレがようやく復活したらしい。
「ナガレさん頼みますよ。なぜずっと黙ったままなんです? 」
「悪いねアキラ君。我々は情報を与えないように言われてるんだ。
それに君にも初めてを体験してもらおうと思って…… 」
何だかよく分からない言い訳をするナガレ。
まだナガレはいいがもう一人はまだ沈黙を保ったまま。もう好きにしてくれ。
ただ二人とも黙って正直役に立ったとは言えないが心強い仲間に違いない。
不安を取り除く役割をきちんと果たしてくれたと思う。
「ははは…… どうだいニュウニュウの感想は? 驚いただろう? 」
他人事の上一切口を開かないからそんなふざけたことが言えるんだ。
経験者だろう? 少しは的確なアドバイスをしてくれよ。
この島に来てからずっと不安だった。それはボートに乗った時からだったが。
「もうナガレさん! パニックになるところでしたよ」
「そうだろうさ。俺だって初めてここに来た時は度肝を抜かされた。
我々の常識など通用しない。あのオヤスさえ曲者そうで脱げばただの女さ」
いやらしい言い方するな。でもだからそれが何だと言うんだ?
「ナガレさん? 」
「どうやら君もミコトさんを忘れられらしいな」
「何を言ってるんです? 私が忘れたら誰が思い出すんです? 」
「それは前島の奴らだろうな」
そう言われると何も言えない。ミコトはまだ皆の中で生き続けてる。
私だけのミコトだと思ったがそうでもないらしい。
彼らは私以上に傷ついてるのかも。
私たちがいい関係になったのは僅かな間だった。
それに引き換えナガレたち前島の者はずっと一緒。
天女様の生まれ変わりとして特別な思い入れがあったに違いない。
私などよりも心の傷は深く大きいだろうさ。それぐらい分かっていた。
でもミコトを失いそれどころでは。結局自分のことしか考えられなかった。
「やっぱりナガレさんも…… 」
「しかしここは本当に臭くないか? 死臭がする。
まさかここは看取る神聖な場所なのでは? 」
ナガレは閃く。まあそうだとしてだから何だと言うのか?
ただ場が余計に沈むのが嫌だっただけだろう。
「まさか我々まで召そうとかしてないか? 」
「あり得るが大の大人が三人だから。なかなか難しかったんじゃない」
大部屋はここしかない。急遽ナガレたちが来ることが決まった。
その修正ができなかったと考えるべきだろう。
でもただ粗末に扱われたような気もする。
「腹減った! 」
つい子供みたいに騒いでしまう。でももう本当に我慢できない。
部屋には当然ドアなどないので大声を出せば筒抜け。
腹減ったもきっと聞かれただろう。
三十分経ってココが呼びに来る。
どうやら夕食らしい。助かった。でも何が出るか楽しみであり恐怖でもある。
とにかく肉だけでも気を付けないと。何の肉か分かったものじゃない。
「どうぞいらっしゃい! 」
オヤスが全員を紹介。
一族で暮らしてるらしい。ここが第一洞窟で残り六つあるそう。
その一つはまだ未完成で今年中に完成するそう。
普段は祭壇でそこをあえて客用に解放したのだとか。
そこまでしてくれるのはありがたい。でもできればココたちと一緒に寝たい。
そうすれば中島の生活が分かるんじゃないかと思う。
フィールドワーク経験があるとどうしてもそんな風に考えてしまう。
これも職業病か?
「両親で。こっちが祖母でこの辺が両親の兄弟。それでこっちがその子供たち」
ざっくりしたいい加減な説明のオヤス。多少分かったのでよしとしよう。
まずは乾杯だとかなり度数の高い酒を頂く。
熱い…… まるで口から火が出そうな勢い。
味はお世辞にも美味しいとは言えないが我慢して飲む。
それが歓迎の儀だ。歓待を受ける者のマナー。
「ココたちは? 」
「ああ子供はジュースさ。ガキには酒はまだ早い。ガハハハ! 」
オヤスは豪快に飲み干しすぐに二杯目へ。
島特製のトロピカルドリンクだと。
では乾杯もしたことだしそろそろお食事にしますか。
あまり期待してないし想像もしたくないがそろそろ限界だ。
お腹が空いてるから多少のことには目をつぶろう。
こうして歓迎の宴が始まる。
続く




