オヤスと穴
中島上陸。
オヤスの案内でゆっくり島内見学。と言ってもロクなところがないが。
見渡しても辺りはほとんどが黄色でたまに僅かに緑が見える程度。
強風のせいか土煙が舞って目を開けてられない。少しでも口に入れば咳き込む。
油断すると砂がくっつくから厄介。早く叩かないと服がダメになる。
マスクでも持って来ればよかったか?
いやポケットも荷物も没収されていたら同じこと。
ここは三島の中でも独特の文化が根付いている。
まるで世界から取り残されたかのようなガラパゴス化した島。
秘密のベールをまとった不思議な世界が広がる。
奇妙なことに家が一軒もない。異常なほど不気味。
見たこともない景色…… いやそんなこともないか。
フィールドワークで行く原住民がいるようなところはこんなもの。
慣れてしまえば問題ない。ただ一つ気になることが。
上陸までは普通だった二人がオヤスに会ってから一言も喋らなくなった。
もはや地蔵。少しぐらい反応してもいいと思うが。
「あの…… 今のところ人を見かけないのですが? 」
「それはそうだよ。地上に人はいないから」
まるでオヤスが一人取り残されたのではとさえ考えてしまうおかしな話。
ここはまさか無人島なのか? 中島とは不思議な島だ。
どうやら顔に出ていたのかオヤスが必死に訂正する。
「はああ? 違うんだって。家がないのさ」
ちっとも要領を得ない。何を言ってる。人が住んでれば家は当然あるだろう?
そこには営みがあって僅かながらでも特徴があり文化となる。
隠しきれない痕があるはずなのにそれがまったく見当たらない不思議。
ただどこまでも広がる大地を歩くのみ。これが春や秋ならいいが今は夏だから。
暑くて堪らない。どうして訳も分からずに彷徨い歩いてるんだ?
もう喉がカラカラ。早く水を飲みたいが海の水は汚れてるから我慢。
「アキラでいいか? 」
「はい。それでどこに? 」
「住むには暑すぎる。だから家は洞窟にある」
どうやらここは常夏。物凄い暑くなることはないが常時三十度超え。
そんなとこに無理に家を建てていたのはずっと昔のことだそう。
今は洞窟を住処にしている。これが彼らの生活の知恵。
昼間は基本外に出るのは洗濯だけ。後は子供たちが遊ぶのに付き合うぐらい。
ただ基本海には入れない。危ないのもそうだが水が汚染されている。
だから基本的に魚も魚介類も食べられない。残念な島中島だ。
海の幸が食べれず泳げもしない。何のためにここにいるか分からなくなりそう。
「まだですか? 」
近くに見えた洞窟は意外にも遠い。それはオヤスが真っすぐ進まないから。
あえて時間を使って案内しているよう。
案内役のオヤスの後をノロノロついて行く。
それにしても暑い。暑くてもう汗びっしょり。
前島地区に比べればマシだが砂地だとどうしても熱が伝わってくる。
「それでどこへ連れて行くつもり? 」
前島からの付き添いの二人は静か過ぎて逆に不気味なほど。
どれだけ呼びかけても反応一つしない。
どうやら島長に命じられてるのだろう。余計なことをするなと。
二人とも中島には行ったことがある。だからこその付き添い。
ただ黙っていて何の意味があるのか?
いてくれるだけでありがたいがそれでも言い表せないモヤモヤが残る。
すべては中島の者に聞けと。すべてこのオヤスに聞けと言うことらしい。
だがこの島の者は前島の者よりももっと閉鎖的で非協力的な気がする。
「聞いてるのか? まさか私を…… 」
「はい! なるべく疲れさせて弱ったところを喰っちまおうって魂胆さ」
正直者のオヤス。どうも悪ふざけが過ぎないか。私には彼女しかいないんだ。
彼女? 喋り方が独特だからどうしても疑ってしまう。
「すると私は逃げた方がいいと? 」
そうだとしたら正直過ぎるし困ったな。どう対応すればいいんだ?
今私はそんな気分じゃない。
二人が連れ出さなければ私は喪失のあまり気力を失っていただろう。
それほどミコトの存在が大きかったことになる。
「はい! 到着したよ」
そう言うだけ。これも悪ふざけなのか?
ただオヤスの指し示したところにごつごつした岩が点在。
その一つが我々を誘い込むように開いてる。近づかないと分からない程の大きさ。
どうやらここが洞窟らしい。
「まずは案内を。ここが伝説の元となっていて……
岩場の泉はもう少し行くと見えてきてそこが天女様が降臨された場所とされる。
だからここが天女の島と呼ばれてる訳。へへへ…… 」
島の誇りだとオヤスは胸を張る。鼻高々と言った感じだ。
「へえ…… 天女様がここに降臨? それは初めて聞いたな」
前島地区はこの島に移り住んできた時に最初に訪れた場所とされている。
そこを観光スポット化したために今度のミコトの悲劇が起きた。
当然二人っきりだったので目撃者はなし。
私が突き落として殺害したと思われても不思議はない。
事実身柄を拘束され連れて行かれそうになった。
それを考えれば島民は私を疑っていたに違いない。
「ではまずはこの洞窟にご招待」
狭い入口にオヤスが消える。どうやら本気らしい。
私はここは初めて。勝手など知らないしここが実際どこかも分かってない。
ただの島だと言う認識しかない。果たして本当にここの島民を信じていいのか?
オヤスの言葉を真に受けていいのか? 本当にただの案内役で世話係なのか?
持ち物も取り上げられ仲間も頼れない今前に進むしかない。
しかし本当に私はこの島に歓迎されているのだろうか?
もう一度だけナガレたちを見るが努めて無表情。これはダメらしいな。
「どうした? 穴がお待ちかねだ」
そう言って手招き。仕方ない。ここはフィールドワークで培った度胸で行くか。
穴ってのが気になるしな。
洞窟に入ると外とは大違い。太陽は遮断されひんやりした空気が漂って来る。
「よっと。では遠慮なく」
そう言うとオヤスが何のためらいもなく服を脱ぎ前をはだける。
うわ…… どう言うことだ? なぜオヤスはそんなおかしな歓迎の仕方をする。
続く




