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新たな島へ

掴まれたと思ったらあっと言う間に船が動き出す。

耳も目も使えなくても振動で察知できるもの。

だからってどこに向かうかまでは窺い知れない。

せめてこの辺りの地理を頭に入れてなければ不可能。

前島にも今から向かう中島にもまともな地図などない。

子供が迷うことも考えにくいし観光客用に作成する気もないだろう。

そんなことをすれば島の秘宝に一歩近づくことになる。

わざわざ危険を冒す必要はない。基本的に子供も観光客も単独行動させない。


一時間が経ってようやく動きが止まった。

これで中島が片道一時間の場所にあると思うのは浅はか。

あえて遠回りして中島に着いた可能性があるし実際そうだろう。

と言うよりも目の前に見える島がそんな遠いはずがないんだ。

どれだけかかろうと三十分もいらない。

ポイントや厳重なチェックがあっても三十分だ。

だから半分はただの時間稼ぎ。混乱させようとしてるだけに見える。

ふふふ…… こっちにはコンパスも時計もある。島がどこかなどすぐに分かるさ。


こうして一時間ぶりの生還。

半分寝ていたがそれでも感覚だけはある。

「アキラ君! アキラ君! 聞こえてるなら返事をしてくれ! 」

まずは耳栓が抜けナガレの大声が耳に響く。おいおいやり過ぎだろう。

「大丈夫か? 意識はあるか? 」

続いてダイボの叫び声が届く。

二人とも耳栓を抜けば通常通りだとなぜ分からない。そこまで耳が遠くないぞ。

間抜けか? でもこれくらいは我慢だ。彼らはよくやってくれている。

耳栓が抜け耳がまともになるとすぐにアイマスクも外される。

どうやらここは地獄でも天国でもないらしい。

そうここが中島だろう。二人もそれを否定しない以上中島に決まり。


それにしても私もいつの間にか度胸がついたな。

いくら信用できる二人でも命令されたらボートから落とすことだって。

海を穢したくないとなったら落とさずに首を絞めるなり窒息させることも可能。

だが二人はそんなことせずにただ役割を果たそうと努めた。

それは私を認めたからだけではないだろう。

恐らく彼らには私を無事にここに運ぶ役割があった。

それは島長の命令とも限らない。それでも二人を心の底から信頼している。

こんな閉ざされた島では人を疑い過ぎてはどうにもならない。

信頼すれば彼らが仮に裏切ろうとしても心のストッパーになってくれるはず。

それだけ二人はいい奴と言うか人がいいどこか抜けたところがある。


とりあえず仲良く三人で上陸しますか。

あれ…… 荷物がどこにも。ポケットもきれいさっぱり。

博士の極秘資料も簡単な地図も滞在中の日記やコンパスまで。

その他フィールドワークで使用していたもの全部が消えた。

一体どうなってる? これでは発掘も新たな地図も作れやしない。

酷いな。先手を打たれたか。でもやり過ぎじゃないか?

せめて紙とペンと非常食ぐらい返してくれてもいい。

それか代替品ぐらい用意しておくとかさ。


「ああ…… それなら中島に入る時にすべて没収されたぜ」

ダイボは嘘がつけない良い奴だ。だから逆に警戒もされている。

「仕方がないんだアキラ君。この島は特に厳しくてね。

秘密の島なんて呼ばれることもあるぐらいだ」

ナガレは中島に足を踏み入れたことがある。当然そうか。

私と同じ目的でこの島に来た訳だからな。当時の記憶が蘇って苦悩してる様子。

「済まない…… 」

「いやいいよダイボ」

「おいいつまでもノロノロしてないで先に進むぞ! 」

ナガレの指示で中島の調査開始。


ベールに包まれた中島。果たして本当に財宝が埋められてるのか?

ミコトを失った今私にできることは天女伝説を解き財宝に迫るしかない。

もう本当にそれしか残されてない。あるいは新たな恋に走るか。

いや私はそのような情けない男ではない。ミコトはミコト。他は考えられない。

ミコト…… どうして目の前から消えたんだ! 早く戻ってきてくれ!

もはや現実と妄想の区別がつかなくなっている。それは前からのこと。

だがこれではダメだ! ミコトを引きずったままではきっと足元をすくわれる。

だからもう前を向かないといけない。それが運命だから。


「ああい? お客さんだね? 」

どことなく田舎っぽい女の子。ここって方言がないって聞いたけどな。

随分訛ってる気がする。でも会話ができれば問題ない。

「はい。東の方から参りました。アキラですどうぞよろしく」

第一島民発見ってところか。二人とも一切口を挟まない。

基本的に邪魔をしないように言われてるんだろうな。

中島に来たのは私の意思。彼らはあくまで付き添いで余計なことを一切言わない。

それがこの島に来た時のルールであるかのように。


「ああんアキラ? お前はアキラって言うのか? 」

どこか田舎っぽい娘はどうも疑り深い。どうして名前にまで噛みつくんだよ?

「はい」

「お前は磯野だろう? 」

「違いますよ。私はアキラ」

「本当に本当か? 嘘を言えばこの島から出て行くことになる」

厳しいな。これも何か意味があるのか? だったら素直に答えるか。

「はい。アキラは仮の名。これは私がお世話になっている当麻博士の提案です。

フィールドワークに際して本名では何かとやりにくいと。

実際本名だと危険ですから。それで海外に行く時は基本アキラで通してます。

謎を明らかにするでアキラです。本名は風見鶏です。風見鶏歩夢って言います」

ついに本名を。ミコトにも伏せていたのに仕方ないよな。

これで余計に危険が増したことになる。

今までの偽名の方が何となく安心できていたのに中島はそれほどのところ。


「そうか磯野は勘違いか。まあいいさ。だったら野球やろうぜ」

この変なのはオヤス。おどけてるが何を考えてるか分かったものじゃない。

どうやらこの中島の道先案内人らしい。

これならまだサザナミの方がよかったな。どうも調子が狂う。

まさかこの子が…… いやそんなはずないか。二人とも無表情だし。

オヤスの案内で中島を見て回る。

と言っても大したスポットはない。

それもそうだろう。ここは観光客を拒んでいる島なのだから。

ここから見えるのは大きな洞窟ぐらいさ。



                   続く

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