救世主
ミコト転落事件の捜査に来たはずなのに現場にも行かず無理やり連行していく男。
島長が寄越した使者だと言うのにまともに話を聞かず端から犯罪者と決めつける。
それはいくらなんでもない。私が何をしたと言うんだ?
このまま大人しく従っていればただの罪人として秘密裏に処分される。
闇に葬られるだろう。それではただミコトを犠牲にしただけだ。
いくらこれで島に平和が訪れようともそれはすべて偽りの平和。
島の真実に近づいたり迫ろうとする者をただ排除して回ってるだけ。
異常だ。奴らは狂っている。なぜここまでするのだろう?
「うわ! 」
わざと豪快にこける。すると反応の遅れた男まで道連れに。
泥だらけで顔も腕も擦りむいた様子。
ぷぷぷ…… つい堪え切れずに声が漏れる。
これはまずいか? やり過ぎた気もする。
「テメエ! 何しやがる! 」
後から首を締める。こっちが抵抗できないのをいいことに危害を加え続ける。
興奮して怒りに任せやっていいことと悪いことの区別もつかない。
続けて足で蹴り背中を何度も何度も蹴り上がる。アザ確定の酷い有様。
首絞めに足蹴りと来てついには殴りかかる。もうただの憂さ晴らしだ。
島での日々の生活の憂さ晴らしによそ者を痛めつける。
とんでもない野郎だが今は耐えるしかない。
奴がやめない限りこの苦しみからは解放されない。
「ははは! 大人しくしてれば手を出さずに済んだのに俺を怒らせて馬鹿な奴だ。
しかしどうせお前は処刑される身。俺がどれだけ痛みつけようとも問題ない。
処刑人の負担と楽しみが少し減るだけだ」
そんな風に大笑い。勝ち誇ったイカレタ男の本性が明らかになる。
とは言えこの状況ではどうすることもできない。ただ痛みに耐え続けるしかない。
ここはどうにか乗り越えて何としてもミコトを取り戻す。
それが私に残された希望。僅かな希望に縋る。だがその希望も間もなく潰える。
このまま執拗に痛めつけられては再起不能に。加減も程度も知らない。
「よし最後に大きいのをお見舞いしてやる。そこで大人しくしてろよ。ははは!」
勝ち誇ったように大笑いしながら立ち上がるとキラリ光るものが。そんな馬鹿な。
まさか…… 無抵抗の者に槍を振り回すと言うのか? 刺し殺す気か?
「冗談はやめてくれ! イカレてる! お前は完全にイカレてるぜ」
いくらなんでも酷過ぎる。まともに喰らえばタダでは済まない。
もう目をつぶるぐらいしかできない。諦めの境地。
「行くぞ! 天誅だこの馬鹿野郎! 」
そう言って槍を振り回す。急所に当たればただでは済まない。
貫かれるぞ。想像もしたくない十秒後の確定した未来。
「やめろ! やめてくれ! 」
うう…… 後ろを向き最後の抵抗をする。果たして私は生き残れるのか?
それとも無様にやられてしまうのか?
いつの間にか命の危機に晒される。こんなことは初めてだ。
特に平和な日本ではまずあり得ないこと。無抵抗の者に何てことをするんだ。
「ははは! 死ね! うおおおお! うぐぐ…… 」
うん? 槍が到達する前にどうにかなったらしい。助かった。命拾いした。
でも一体何が起きたのか? 雷にでも打たれたか?
仮にそうなら天罰だとしても恐ろしい限り。
振り向くと倒れた男の横には二つの影が。
一つは同じぐらいの。もう一つはとんでもなく大きな影。
どうやら彼らが助けてくれたのだろう。命の恩人で救世主。
今までも何度となく助けてくれた二人。感謝してもしきれない。
救世主との再会。その名もダイボとナガレ。
二人が怯まずに立ち向かい救ってくれた。それはとてもありがたいこと。
ナガレはいくら同じ境遇でよそ者でもずっと島民として穏やかに暮らしてたはず。
リスクをとってまでこんなことしない。ダイボに関しては正真正銘の島民だろう。
敵であるはずの私を匿ったり助ければどのような仕打ちを受けるか分からない。
かなりの賭けだ。それを躊躇なくやり遂げるのは相当な覚悟がある。
ナガレは分かるがダイボまで味方してくれるとは正直驚いた。
これで余計に本当のことが言い辛くなっていく。
私はこの島に天女伝説を解明し島の秘宝を手に入れようとしてる最低な略奪者。
いくら島長のお墨付きを得ようがそれは変わりない。
ナガレはよくてもダイボは……
「どうして二人が…… 」
「話は後だ! 急ぐぞ! 」
身なりを整えきれいな服に着替えたらまともな学者にも見えなくもない。
髭を剃るとこうも見違えるのか? 私もぜひ真似して素敵な女性を拾いたもの。
いや今はそんなふざけたこと考えてる時ではない。分かっている。
こうして二人の後について行く。
「よしここまで来ればいいだろう。ではダイボ頼む」
ナガレは説明が面倒だとダイボに全部任せる。
一応はダイボはこの島出身だしナガレよりはよく知っているが当てにはできない。
そう言えば彼は私たちに悲劇が起きると予知していたような。
今考えればおかしな話だ。すべて分かっていたに違いない。
「ダイボ私はどうすれば? 」
「まずは予定通りで。船で中島に行くように」
ダイボは説明下手でもないがどうも分かりづらい。
確か島長の判断で今回私は捕らえられたのではないのか?
彼らの言動はあまりにも不自然だ。
「なぜ島長に背くようなことをした? 」
それが謎? そうまでして私に味方する意味はない。
旨味などないしただ島を裏切る行為だろう? それくらい理解してるつもり。
「いや悪い。分かり辛かったね。別にダイボ君も俺も島長を裏切った訳じゃない。
実はこの島では今よそ者を巡って二分する動きがあるんだ。
それでもよそ者は僅かだったからその対立も一時的で収まったはずだった。
しかしミビちゃんマスコットに失敗し君が来てからまた蒸し返すようになった。
島長は穏健派でよそ者を受け入れることをよしとする心の広い方だ。
だが反対派それがどうしても許せない。
島長が体調を崩したのもそれが原因だと俺は考えてる」
ナガレは詳しい。どうも原因を作ったのは彼自身。止めを刺したのがこの私。
私が騒ぎ過ぎたから反対派を刺激したのだろう。
続く




