島長の使者
七日目。
まさかの事態が起こってしまった。
ミコトが目の前で姿を消した。信じられないがそうとしか思えない。
これは何らかのトリックなのか? それとも不幸な事故なのか?
できるなら夢であって欲しい。ミコトが無事に戻って来てくれたらな。
八時過ぎに使者が現れる。
昨日のショックでほとんど寝れてない。
当然のことながら海を眺めての天女様との邂逅もない。
ただ陽が昇ると山の方に向かって祈る。それをひたすら繰り返した。
へへへ…… どうしたんだろう私は? ミコトなどただの島娘。
彼女にこだわって目的を失ってどうする?
非情になれと自分に言い聞かせるも無理だった。
ただ涙が零れ落ちるだけ。止まることはない。それほどの深い喪失感。
もう自分が何をしにこの島まで来たのか思い出せないほど追い詰められる。
息をするのも辛いくらい。ミコトのことを考え続ける。
耐えられる奴はいるのか? 自分のせいでミコトを……
しかしどうやらそれだけではないらしい。私には恐れがある。
もしこのまま島長の使者がやってくれば確実に捕まり処刑される。
天女様の生まれ変わりとして島民から尊ばれたミコトが姿を消したのだから。
真実がどうであれそれを実行できたのはこの私以外ないとなれば第一容疑者だ。
しかもどんなに言い繕っても実際消えてる訳で。
崖から落ちたのならもう言い訳など不可。
どうする? このまま大人しく捕まるのか? それとも逃げるか?
ここに来たのだって財宝のため。当麻博士の想いを引き継いでやって来た。
まだ何も達成してないただの何者でもない存在だった。
それがいつの間にか犯罪者のレッテルを貼られることに。
夢見たのとは真逆の不名誉なこと。なぜこうなったか後悔しても後悔しきれない。
誰が悪いとかはない。あるとすればこの島全体の問題ではないだろうか?
当然何かに転嫁するつもりも人のせいにするつもりもない。
だが自分を保つためにはこれはもう仕方ないこと。
うおおおお!
もう自分が狂っているのが分かる。これ以上は耐えられない。
すべて自分が悪い。財宝に現を抜かし天女に惑わされた自分はもうお終いだ。
そのせいでミコトを失った。できるならすべて夢であって欲しかった。
でもこれもすべて現実。受け入れないといけない。
「失礼する」
島長の使いが登場。
「あなたは? 」
「馬鹿者! 自己紹介など呑気にしてる場合か! 己のやったことよく考えろ!」
島長の使いと言う男は初めて見る顔。
険しい表情からも私を人間扱いしてないのがよく分かる。
てっきりナガレが来るんだとばかり思っていたがどうも違ったらしい。
もしかすると私やミコトに関わった者は除外したのかもしれないな。
でも何となく違和感を感じる。なぜこんなにも攻撃的なのか?
これでは何のために呼び大人しく待っていたのか分からない。
「では覚悟はいいな? 引き立てて行く! 」
「ちょっと待ってくれ! あなたはミコトを探しに来たのでは? 」
どうも話がおかしい。どうしていきなり私が引っ立てられないとならない?
これではまるで私が罪人かのよう。それはいくらなんでも酷過ぎる。
何もしてない。ただいつの間にかミコトが崖から落ちて姿を消しただけ。
いや…… たとえ私が罪人だって構わない。私を引き立てるがいいさ。
しかしそれと並行してミコト捜索をすべきではないのか?
大体捜索に使い一人ではほぼ役に立たないじゃないか。
なぜこうも意味不明なのか? ミコトを助ける気はないのか?
僅かな可能性だが崖から落ちて無傷でも動きが取れない場合だってある。
捜索せずに諦めてどうする?
「言い訳は後で聞く! とりあえず大人しく従うんだ! いいな? 」
どうやら私がミコトをどうにかしたと本気で考えてるらしい。
なぜ恋人を手に掛けないといけない?
「そんな…… 恋人ですよ」
「ははは! 恋人だと? 何と汚らわしい奴め! それはお前の妄想だ。
いい加減に自分のやったことに向き合え! 」
男は有無を言わせない。どうやら捜索もなしらしい。それはないよ。
「ちょっとあんた! 」
「そうですよ。アキラさんはそんな人ではありません! 」
紬たちが私の味方をしてくれる。紬だけでなく草太朗までとは意外。
一度は紬を巡って対立した関係なのに。
一宿一飯の恩義も果たせずに迷惑ばかりかけた私を庇ってくれる。
「黙ってろお前ら! まさか島長に楯突く気か? 正気の沙汰か? いいか?
こいつは島の敵だ。余計なおっせかいで自分たちの立場を危うくする気か? 」
こう言われては誰も口出しできない。それがこの島の掟さ。
島の敵認定されたらもう誰も関われない。
結局紬たちは何か役目があるのでなく観光客を泊める人のいい夫婦だった。
そんな二人を一時的とはいえ疑ってしまった自分が情けない。
お世話になった恩を忘れて疑ったからこのような悲惨な目に遭った。
そうに違いないんだ。これはもはや自業自得。起きて当然のこと。
日頃の行いがそうさせている。結局島の者を巻き込んで迷惑を掛けたことになる。
これで彼らが今度のことで目をつけられたら私はどう責任を取ればいいいのか。
このような事態になってようやく分かったことがある。
私は結局のところ島の者をまったく信用してなかった。
博士も信用できないのに今さっき会った者を信用するのはやはりハードルが高い。
ただよくしてくれた二人にいつか感謝の気持ちを述べたい。ただそれだけ。
強引に引っ張られていく間もそんなことを考えていた。
「おい大人しくしてろよ。もし逃げようとすれば分かっているだろうな? 」
男は何者なのだろう? 島の治安を守る一人とは思うが島長の使者とは。
てっきりナガレかあの人のいい荒れくれ者が来るものだとばかり思っていた。
「まさか歩いて連れて行く気か? 」
徒歩ではどれだけ掛かるか分からないぞ。そんなに歩けないって。
「ああ…… 他に何がある? 」
どうやら三時間かけてゆっくりと連行されていくらしい。
それはいくら何でも我慢できない。
せめて手足の縄をどうにかしてくれないと動きづらくて動きづらくて。
この後私はどうなるんだろう……
続く




