思い出の一枚
前島最東端。
ここが始まりの地とされている島民にとって特別な場所。
「危ないぞミコト」
つい感傷に浸る彼女の邪魔をしてしまう。
悪かったかな。彼女だって充分理解し警戒してるだろうに。
分かってるんだがどうも放っておけないと言うか嫌な予感がする。
それはあまりに漠然とした不安でそれを言えばきっとミコトは笑うんだろうな。
または子供扱いしないで本気で怒られるかもしれない。
「大丈夫だってアキラ。騒がない限り問題ないんだから」
そんな風に笑うがどう見ても興奮していてまともな精神状態じゃない。
島民はここを神聖な場所として敬意を払い接しているのだろうな。見れば分かる。
そうすると彼女もただの島民で天女の生まれ変わりとは到底思えない。
「そうかな…… 何だか足が竦む思いだよ」
ミコトの前でつい情けないことを言ってしまう。
ここが近づいてはいけない禁断の地であるのは間違いない。
「そうだアキラ。最東端に到達した記念に一枚どう? 」
自由に撮影してくださいと観光客用にとカメラが。サービスがいいな。
この島に来て初めて褒めた気がする。
何と言ってもここの奴らは特に南地区だけどロクなのがいなかったからな。
ボッタ食堂とその客だったりお土産店でのカギ閉め行為とか。
思い出すだけでも腹の立つ奴ばかり。
ここの島民は我々よそ者を毛嫌いし心を開かない。
もう少し尊重してくれたっていいだろうと思うが。
こんな世間とは隔離された島でも文化が根付いているんだな。いや舐め過ぎか。
フィールドワークに行けば想像もしないような想定外なことが日常茶飯事。
私も今度の旅にと当麻博士から勝手に拝借したほぼ新品のカメラを用意していた。
もちろん観光用ではない。お宝発掘に用意したもの。学術的な意味合いもある。
ラボでも日常でもその手のことには無頓着でカメラを構えることはあまりしない。
フィールドワークではカメラ係だが相手はあの当麻博士だから。
そう言えば今回はまだ一枚も撮ってなかった。別に忘れていた訳ではない。
行きの船で船頭にカメラの撮影禁止を言い渡された。
それもあって無闇に撮るのは控えている。
カメラの持ち込みは問題ないがバシャバシャ撮ってると疑われ捕まると脅された。
だから人のいるところでは遠慮していた。それ以外でも……
天女様との邂逅で使うこともできただろうがあの神々しさから遠慮した。
と言うよりそんな考えも思いつかなかった。
「アキラはそこの崖の前に立ってみて」
指示される。仕方なく崖を背に笑顔を浮かべる。
実際は早く終わらないかなと頭の中はそれで一杯。
島の最東端に興味ない訳じゃないがそれはあくまで金銀財宝に関すること。
何が楽しくて恐ろしい崖に背を向けないといけないんだ? 罰ゲームか?
目の前の崖を足が竦みながら見るのも背中に感じながらも嫌だな。
一歩でも下がれば踏み外す恐怖と戦いながらどうにか笑う。
早くしてくれ。もう充分だろう? ここでの撮影はできるなら避けたい。
心の中ではそんなことばかり。でも気づかれることもなく三枚も四枚も撮られる。
「ほら今度は姿勢を楽に砕けた感じで」
あまりにいい加減な指示でどうしたらいいのか困惑するばかり。
結局それから五枚も撮ると飽きたのか満足してもういいと。ようやく解放される。
絶景をバックに満足の行く一枚撮りたいんだろうな。
プロのカメラマンでもないしそこまでクオリティーにこだわらなくてもいい。
「あの…… 」
恥ずかしがって何か言ってるぞ。
そうかミコトも撮って欲しいのだろう。
「いいよ。でも本当に大丈夫? 天女の生まれ変わりは写真禁止じゃないの? 」
念のために聞く。これって意外と大事なこと。
ミコトはただの島娘ではない。それなりの制限があって不思議はない。
例えば下品な言葉を使うなだとか恋愛禁止だとか。
でも伝説の天女はたくさんの男性を好きになったが故に哀しき結末を迎えた。
それなら恋愛は少なくても禁止しないか。元恋人とのこともある。
とにかく事前に聞いておくのがマナーだろう。
「かつてはあったよ。あれするなこれをしろと。
しかし掟を破り恋をしたことでその気持ちも薄れて今は守ってない。
それは確かに罪深いことだと思うの。でも私もやはり一人の…… 」
そこで止まる。どうも言い辛いんだろうな。
そんなものかな? 一人の女性や人間って普通のことだと思うけど。
島の掟で縛り付けるのはもう古い。彼女を解放してやるべきだ。
それが常識で間違った慣習は正していくべきだろう。昔からの慣習だとしても。
現代に合わせたものに改善しなくてはいけない。そんな風に思っている。
「では写真は問題ないと? 」
「ええ…… 実際は悪いことが起きると脅されるけどどうせ迷信だから」
天女の生まれ変わりだと言うのに迷信だと言い切ってしまう。
それは果たしてこの島の者として天女の生まれ変わりとして正しいのか。
発言には気をつけるべきだろう。
もちろん私は誰かに報告したり脅すような真似はしない。
「それでは気を付けて」
被写体を捉える。
後はシャッターを切ればいいだけなのに何だか体が重い。
うわ! 突然強い日差しに晒される。これは堪らない。
サングラスでもないと手でいくら庇を作ったところで眩しいまま。
いつの間にこんなに日差しが強くなったんだ?
暑さで体が溶けそう。太陽が近づいてるのが分かる。
この辺りは日差しが結構強い。気をつけないとクラっときてそのまま崖下に。
「うわああ! これは堪らない! 」
「大丈夫? もう少し下がったら? 」
ミコトの言う通り五歩も下がれば木の陰になる。
でもそれではベストショットにならない。
適当に撮るのはミコトにだって失礼。ここはもう一度初めから。
「なあミコト…… 」
「どうしたの早く撮ったら? 」
「焦り過ぎだ。ここはゆっくり最高のミコトを撮るよ」
そんな風に格好をつける。
「ふふふ…… もうアキラってば何を言ってるの? 笑わせないでよ」
笑顔はいいが大笑いしてるところは下品だしさすがに恥ずかしいと。
せっかく顔を作っていたのにと文句を言う。
続く




