別れのキス
ミコトがいない寂しさを埋めようとつい紬に手を出してしまった。
と言ってもただ抱き寄せて愛を囁き誘惑しただけ。
それでも草太朗は私を厳しく追及する。
逃れたと思ったら今度はミコトが嫉妬と誤解から執拗に迫る。
どうにかなったが危うく嫌われかけた。
「お詫びは? 」
嘘だろう。お詫びに高価なプレゼントをしろと。それでは都会の者と変わらない。
おっとりした島の穏やかな時間に慣れた田舎娘がなぜそのような要求をする。
それできっと丸く収まるだろうがそれでは私は博士になってしまう。最低だ。
威厳もなくただ機嫌を損ねたところを金や物で解決しようとする浅はかさ。
「いいから早く! 」
まさか仲直りのキス…… いやそんな都合のいい展開のはずない。
「どうしたんだいミコトさん? 私がやれることなら何でもしてあげたい。
それが人情だろう? でも君はとんでもないものを要求してるよう」
これだったら高級品やブランドものを買ってあげた方がマシだ。
それでも彼女が望むなら私はすべて受け入れるつもりだ。
「ミコトさん…… 」
「さんづけは止めて! 他人行儀でしょう」
「分かった…… それで何をすれば? 」
「優しく口づけしてくれればいいの」
はっきり言った。しかし本当に私のキスが欲しいのか? 何だか物凄い違和感。
私が女なら嫌だな。なぜ私などに興味を持つ? どこまで慈悲深いんだ?
一言も発さずに勢いに任せてキス。
危うく歯と歯がぶつかるところだった。
「これで文句ないだろう? 」
つい恥ずかしさから雑に扱う。
「よくない。ほらもう一回! 」
うわ…… あの天女様の生まれ変わりのミコトが……このような破廉恥なことを。
あり得ない。そんなことは認められない。ミコトはもっと神聖であるべきだ。
どうして私などとキスをする? キスをしてくれる? どうなってるんだ。
仕方ない。キス魔になる前に厳しく接しよう。それが彼女のためさ。
私が天女様に憧れるようにミコトも非現実な昔話にでも現を抜かしてるのだろう。
ここはきとんと現実を直視してもらわないと。
「ほらいい加減にするんだ! 私など興味ないだろう? 嫉妬する対象でもない」
「アキラってば自信がないんでしょう? 」
人が気にしてることをズバッと言いやがる。
「うるさい! 」
つい博士みたいに頭ごなしに叱りつけてしまう。何てことを?
でもこうしないとミコトにすべて見透かされそうで怖い。
「アキラ行こうか」
いつの間にか元のミコトに戻っていた。
まあいいさ。紬さんの件もどうにかなったし。
危うく口も利いてくれなくなるところだったからな。
「どこに? 」
「昨日は前島地区の半分を回ったから今日は奥に進もうかなって」
と言っても昨日同様ただの砂漠地帯。人などほとんどいないと言っていい。
年々人が去っていく前島地区の住民。一体彼らはどこに行ってしまったのか?
「あの緑の植物はまさか? 」
「そう。サボテン。アキラも一つ食べてみない? 」
「ごめん。棘が苦手でたぶん喉に通らないと思うから遠慮するよ」
「だったらサソリはどう? 毒の部分を避ければ美味しいよ。
騙されたと思って食べてみて」
食感がカニだとかエビだとか言うので冗談はよしてくれと拒否。
別に一口ぐらい食べてもいいが熱が出そうなので遠慮することに。
「ヒマワリの種は? 食べると癖になるみたいで島の人はよく食べてる」
かなり変わったものを勧めるな。さすがは都会から離れた田舎だ。
土産ショップに置いてあるポピュラーなものらしい。
だったら試しに食ってみるか。
ボリボリと十個も食べれば飽きが来る。
本当にこれ美味しいのか?
昨日回れなかった場所に足を運ぶ。
と言っても人も建物もある訳ではない。ただの乾燥した大地が続くだけ。
これで暑かったら最悪だが比較的過ごしやすい。それだけは助かっている。
観光には暑さは大敵だからな。
こうしてミコトの案内で昨日回れなかった残り半分を探索する。
当然ここにだって金銀財宝が埋まってるかもしれない。
あるいはその手掛りがあるかもしれない。
気を抜かずにきちんと一つずつ細かく見て行こう。
それにしても疲れたな。どこまで歩かせる気だよ。
どんどん道が狭まっているのが分かる。
「おいミコト? 」
「大丈夫。間もなく目的地。ここは一度二人で行ってみたかったの」
そんな風に言われたら悪い気はしない。ははは…… 本当に男って単純だな。
「へえ…… 」
興味と恐怖と警戒が混ざる。何だかミコトに誘われた気がする。
気をつけなくては。
だがしかしミコトは純粋な島娘で天女様の生まれ変わり。
絶対私を傷つけたりしない。今は立派な案内役で恋人だ。
だからもう信じることにする。彼女に助けられたことも一度ではない。
もう決して疑わない。ミコトはミコトだから。
険しい崖が見えて来た。きっとここから落ちれば骨も発見されないだろうな。
崖を覗くと荒波が押し寄せて来るような錯覚がする。
随分と風が吹いて来た。嫌な予感。
「あれをご覧ください」
案内役が板について来たミコト。島の観光スポットを真面目に紹介する。
親しみやすくてかわいいいつものミコトもいいがこれはこれでいい。
出会った当初の記憶が蘇るようだ。
「看板があるぞ! 」
「ここがこの島の最東端です。ここが少しだけ奥行きがあります。
恐らく僅かな差でしょうがここがスタートでありゴールでもあると。
最初に島に踏み入れた者たちは実はここからだったのではと言われてます。
いわゆる始まりの地ですかね」
前島の由来はここからだとか。
今の前島地区で暮らし何世代か後に人々が流入したとの逸話があるそう。
始まりの場所についに到着。長った。こここそが島一のホットスポットだろう。
先人たちの思いを振り返りながら崖からの景色を楽しむ。
「ふふふ…… どうです? 」
どうやらミコトもこの島に誇りがあるのだろう。自慢するその目は輝いている。
確かにこの前島地区にはこれと言って何もない。
その分我々人間を遠ざける自然の脅威を体で感じられる訳だ。
果たしてミコトは何しにここへ?
その謎が間もなく明かされる。
続く




