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意地悪

早朝。

現在ミコトが沐浴に。あと二時間は戻って来ないだろう。

邪魔者がいなくなったとは言わないが寂しくなったので一人孤独に朝の散歩。

さあ今日も抜け出して天女様との奇跡の邂逅を果たすとしますか。

恐らく毎朝のように目撃していたのは別の生まれ変わりなのだろう。

それでも伝説の天女様だと思って鑑賞したい。


紬さんが様子を見に来るかもしれないので一時間ほど籠るとあらかじめ伝えた。

これでいいだろう。余計な詮索も心配も監視もされたくない。

せっかく自由を求めて島に逃れて来た。これ以上窮屈な思いをしたくない。

おっと…… また目的を間違えてしまった。

ここには自由ではなく金銀財宝を求めてやって来たのだ。

どうしてもこの島でのんびりしてるとおかしな思考に陥る。


念のため五分ほど警戒して外へ。これで大丈夫。

天女様の神聖な天女の舞を思う存分楽しむとしよう。

私も罪深い男だ。元々罪深いがミコトで満足できず天女様を求めるのだから。

結局のところ男とは求め続ける生き物なのだろう。

情けないがこれもこの島の楽しみ方だと思えばいい。


それにして人は僅か。初日に挨拶に回った者以外の姿がない。

当然か? 異常気象で砂漠化が進み赤みがかった大地には雑草が生えるのみ。

こんなところに人間が住めるはずがない。通りを歩いてるはずもない。

すぐにでも引っ越すのが常識だろう。

すると北地区や南地区がそうだったように極端に人が減少したのかもしれない。

あるいは少子高齢化の成れの果てなのかもな。


さあ崖を避けて海沿いに行き隣の島に近い場所を確保。

昨日のうちにベストポジションを見つけておいた。

目印のごつごつ岩へ。濡れてバランスも悪く滑りやすいが慎重に進めばどうにか。

さあ準備万端だ。おっとモヤだか霧だかが晴れ始めたぞ。さあそろそろかな?

いつもよりも準備に手間取ってるのか十分経ってようやく姿を見せる。

驚かさないでくれよ。今朝はもう無理ではと思ってしまったじゃないか。

毎日のように見る天女様。間近ではないので確証はないが恐らくは天女様だろう。

誰の確認もとってないが間違いないさ。


「天女様どうぞ私にその華麗な舞いを! 」

すると届いたのか美しい肢体を晒し舞い始める。

もはや妄想ではと疑うほどの天女の舞。一部の隙もない。

美しいでは表し切れないほどの舞姿。

これが天女様でなければどれが天女様だと言うのか。

ついに白い衣を脱ぎ捨てフィニッシュ。

大胆だ。まるで私の存在などないかのよう。とてつもないものを見せられた。

感動的だ。あまりにも感動的で息をするのを忘れるほど。

素晴らしい舞にもはや言葉も出ない。拍手さえ遠慮してしまうほどの演舞。

ああこれを毎日拝めるなら…… 来た甲斐があったと言うもの。

ただいつもそうなると朝はぼうっとしてしまう。それでは変に疑われる。

身が入らない。それでもやめられない朝の習慣。


そう言えば今この時ミコトはどこにいる? 一度もミコトの舞う姿を見てない。

前島地区に来て初めて舞うのだろう? 定められた場所で舞うのではないのか?

それとも何かあるのか?  

朝の邂逅を終え再び現実世界に戻る。

ああこのままずっと天女の舞を見ていられたらな。

そう。もう私は完全に天女様に参ってしまってるらしい。


「ああ! そんなところに? 」

紬が慌てて走って来る。どうしたと言うんだろう?

外に逃げたのを悟られたか? もし紬が監視者ならそれは大騒動だろうさ。

息を切らし目の前で豪快にこける。

「うわ! 紬さん…… 大丈夫ですか? 」

ミコトと同じような和服が土で汚れ黄ばんでるのか元々黄色なのか判断つかない。

「済みません…… 手を取って頂いて」

紬が笑顔を見せる。どうやら怪我はないよう。

それにしてもつい反応して手を差し伸べたがよく考えれば大胆。

まさか…… これも作戦。私を虜にしようと動き始めたか?

ならば逆にありがたい。それは島の宝に近づいたことを意味するかなら。

それに紬さんはかわいいし私のタイプでもあるから。

ミコトがいない今どうしても紬の色香に惑わされてしまう。


どうしたんだろう? 私はそのような軽薄でも愚かな人間でもなかったはず。

博士のように女に現を抜かし己を失い続けている。

この島に来てからと言うものまるで解放されたかのように大胆な行動。

「紬っておっちょこちょいなんだね」

つい調子に乗って呼び捨てにしてしまう。無警戒と言うか脇が甘いと言うか。

主人がいながらどうして私にそのような態度をとるのか?

勘違いしても知らないぞ。

「むっぐぐ…… 」

恥ずかしさのあまりおかしな声を上げる紬。本当にかわいい人だ。

おっと…… 心の声が伝わりそう。


「あの…… もうそろそろ手を離してくれませんか? 」

「嫌だと言ったら? 」

意地悪してからかってみる。

すると余計に慌てて顔を赤らめる。ついには俯いてしまう。

ここまでは想定外。私だってこんなつもりではない。決してない。

「ですが私には夫が…… 」

「僅かな問題ですよ。一人に束縛されて生きていくなんて苦しくありませんか?

この島のように自由で解放された気分を味わうべきだと私はそう思うな」

つい踏み込んでしまう。でもこれもすべては財宝と天女様に会うためだ。

好き嫌いは別としてついでに常識も無視して紬たちを揺さぶってみる。

もしかしたら島の秘宝について何か漏らすかもしれない。


「でもこんなところをミコトさんに見られでもしたら…… 」

慌てて辺りを見回すが当然誰もいないさ。ミコトはまだ戻って来ない。

「大丈夫。私たちはあなたが想像するような深い関係にありません。

それはもちろんミコトはかわいいし素敵ですがね」

うわ…… 自分で言っていてもう耐えられないぐらいの恥ずかしさ。

ああどうしてこんなことになったんだろう? 酔っぱらったか?

いや朝っぱらからではその言い訳も通用しない。


「あなたが誘うから…… ご主人がいながら何とはしたない」

そう言って抱き寄せる。ちょっとやり過ぎたかな。

初心な紬はもうウーウーニューニューと言うだけ。

ニューニューってどこかで聞いたような。思い出せない。

それにしてもかわいいな。まるで宇宙から来た珍妙な生物のよう。


              続く

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