ミコトを失いたくない
ミコトから誘われた夕食後の散歩。
何かあるかもと疑っているといつの間にかいい雰囲気に。
抱き着いて来たミコトの体温は異常に低くとても人間とは思えない。
まるで天女様であるかのよう。もちろんそんな訳がない。
ただ確認はしてもいいのかも。実際に測ってみるか。
「もっとくっ付いて! 風邪引くよ」
ぎゅっとされるとつい抱きしめたくなってしまう。
クソこれか…… 狙いは明らかにこれだ。分かっていたことさ。
私がミコトの魅力にメロメロになって人間をやめると踏んだのだろう。
だとしたら見事策に嵌ったと言える。でもそこまで私は落ちぶれてない。
財宝発掘の目標がある以上ここで思い通りにされて堪るか。
意志をしっかり持つんだ。彼女に現を抜かしてる時ではない。
「ほらもう充分温まったしそろそろ離れようか? 」
随分勝手だがそれでもこのままだと自分を保てない。理性がぶっ飛んだらお終い。
男はいつだっていやらしいことを考えてる。次は一気に抱きしめキスするだろう。
そして受け入れたら迷いなく次の段階に行く。最後の砦での攻防となる。
でも私は違うぞ。今の私はそのような邪な心を追い払ったもはや聖人。
精神統一して常に冷静でいることに努めようとしている。
「どうしたの? まだ自分を捨てられないの? 」
たまに心を見透かされたようなことを言われるとドキッとする。
そうなんだと余裕を持って返せたらな。でもそれは無理だ。
「本当にいいのか? 」
もうダメだ。許可を得て行動に移す気満々。さっきまでの決意はどこに?
精神統一もできず聖人にもなれずに自分を失いかけてる。分かっていたことだが。
「アキラとはもう間もなくお別れ。だから思い出が欲しい…… 」
「思い出? 思い出なら今日一杯作っただろう? それでは不満か? 」
気持ちは本当にありがたいがどうも信用ならない。どうして私を惑わそうとする?
好きなのに…… 大好きなのになぜそのようなお願いをする形をとる?
お願いでなくもっと自然に持って行けばいいだけ。もっとゆっくり時間をかけて。
「お願いアキラ! 私の気持ちも少しは分かって! 」
辛い胸の内をさらけ出すミコト。真に迫っておりとても演技には見えない。
顔を見れば少しは真意が測れるんだろうが生憎真っ暗だからな。
もしかしたら本気なのかもと。でも確認したところで正直に言いはしないだろう。
近づくべきではなかった…… ミコトに初めから近づくべきではなかった。
分かっていたことなのに楽で心地よかったからずっと続けてしまった。
もう私にはミコトが分からない。
「いいのか? 」
「初めからそのつもり。アキラが鈍いから…… 」
ずっとサインを出していたがちっとも受け取ってくれないと。
気持ちは大変嬉しいが私はここに恋愛しに来たんじゃない。
なぜ理解してくれない?
「では遠慮なく」
まあいいか。彼女がいいなら私だって拒否する理由はない。
気持ちをぶつけるがそれは彼女のみにだ。島に忠誠を誓う気はない。
ミコトを手に入れ島の財宝も手に入れる。ついでに天女様にも会ってやる。
ただ欲深き者の欲が一つ増えたに過ぎない。それは理解してもらいたい。
そっちがどうであれこっちは何ら目的は変わっていない。
しかし困った。ミコトがそこまで求めてるとは正直思ってもみなかった。
六日目。ついにこの日がやって来た。
昨夜ようやく思いが通じてミコトを手に入れた。
当初は女など宝探しの邪魔と本気で考えていた。
でも違った。ミコトと協力して宝探しをするのもそれはそれで悪くない。
そんな風に心を開いた。島の者の優しさと温かさが私の冷たい心を氷解させた。
ミコトは本当にいい子だ。私のために無理までしてくれた。
そんな彼女を裏切れない。今はまだ愛情よりも友情に近いのかな。
これが島の奴らの思惑通りで踊らされてるとしても一向に構わない。
それはこっちが分かっていればいいことだから。
ミコトを愛したからって宝探しも天女伝説も諦めない。追い求め続ける。
当然現など抜かしはしない。だから六日目に入っても昨日と変わらない。
いやミコトの方は気分がいいのだろう。明るい。凄く明るい。
きっと紬がライバルになって動きが活発に。本当にうまく行ってる気がする。
でもこう言う時こそ危ない。気を引き締めないと。いつ転んでもおかしくない。
まあ幸せ過ぎて浮かれて逆にネガティブになってるんだろうな。
「おはようございます。昨晩はどうでしたか? 」
紬さんがからかう。いやそんな人だったっけ?
「はい。おかげ様で素敵な夜を過ごさせて頂きました。大変満足してます」
どのような返しが欲しいのかいまいち分かり辛いがこれが大人だろう。
「もうアキラってっば! 」
恥ずかしさのあまり思いっ切り突くんだもんな。
痒い。いや痛いぞ。でもこれもこれで悪くない。
「行くねアキラ」
毎朝のように行水…… ではなく清めの儀式を行っているミコト。
これが天女様の生まれ変わりの宿命さ。
毎朝は大変だろうと尋ねるともう慣れたからと。さすがに夏以外やらないそう。
立夏から祭りの日まで毎朝一時間近く掛けて沐浴を行う。
朝早くで人もあまりおらず霧と言うかモヤが掛かっているので問題ないそう。
大体島の者はミコトたち生まれ変わりを神聖視している。
島にとって神聖なものとして扱って誰も近づかない。そんな恥知らずもいない。
大体これ自体神に捧げる儀式なのだから本来見られても何の問題もない。
邪な心で近づく者は誰であれ袋叩きに遭うのが決まり。
繰り返せば当然島から追い出される。
これもすべてナガレから聞いた話なのでどこまで本当か分からない。
島の者でなければやはりよそから来た者がたまたま覗くことになる。
ただ知らなければ最初は罪に問わない。二回目がどうなるかは想像に任せるそう。
島民からボコボコにされるのは間違いないだろう。
だからこそ間違いが起きなように監視がつくことも。
ただ朝早いからもそこまで遭遇はしない。このような事態に陥ることは稀。
問題は私だ。たまたま朝早くに天女様を目撃した。
それから舞を見たくて毎日朝歩きをした。結果何度も天女様の舞を。
これは果たしてアウトなのかギリギリセーフなのか? 自分でも判断がつかない。
本物の天女様の沐浴と舞を目撃した私にはどのような罰が下るのだろう?
続く




