体温
デザートのアイスを舐めるミコトについ見惚れてしまう。
これは仕方ないこと。ただ同様に恥ずかしがる草太朗に違和感。
「まさかあんた! 」
「ははは…… 何を熱くなってるんですか? 天女様の生まれ変わりですよ。
当然人気も高く誰もが憧れる存在。あなたもそうでしょう? 」
浮気癖のある困った人。確かにミコトは誰もが羨む存在だけど今は……
あれ? 思いはミコトと一緒のはずなのになぜか遠慮がちになる。
そうか。ミコトは誰の者にもなってはいけないのか。
それこそ紬さんのようになってはダメだ。
だがそれは私との関係もこれ以上進まないことを意味しないか?
何を残念がる必要がある? 私はこの島に女の子を探しに来たのではない。
何度も自分に言い聞かせてる。私はこの島に眠る金銀財宝を発掘に来たんだ。
天女に憧れる気持ちももちろんあるさ。でもそれはミコトではないのだ。
ミコトはミコトであって天女様ではない。それは覆すことのない事実。
ずっと天女様の生まれ変わりなどと言われるから誤解が生じるんだ。
ミコトを神聖視し出すんだよ。島の奴がそうでも一向に構わない。
でも私までがそうであってはいけない。目標も真実も見失ってはいけないのだ。
ふう…… 危ない危ない。もう少しで目標を見誤って暴走するところだった。
ミコトは好きだけど…… すべてを失っても手に入れたい訳じゃない。
それを再認識させてくれたのが彼だ。嫉妬ではなく感謝すべきだろう。
ただ紬さんと言う素敵な奥さんがいながらミコトに現を抜かすなどどうかしてる。
天女の生まれ変わりなんて関係ない。ただ最低なだけじゃないか。
紬さんが可哀想だ…… あれそうでもないや。楽しそう。
これって私の感覚がおかしいのか?
でも紬さんにとってミコトは昔からのライバルみたいなものだろう?
当時も過去も知らない以上噂の域を出ない。何と言っても私はよそ者だから。
早い夕食を終え二人っきりなる。するとさっきまでの騒々しさが消える。
元来私は口数も少なくつまらない男と評されることが多かった。
それをどうにかするのがミコトの役割。そんな図々しい考えを持っている。
あまり沈黙ばかり続くと重苦しい雰囲気になり耐えられなくなる。
そうするとつい余計なことを言うか最低な発言をしてしまう。
私に一切その気がなくても誘われるように口が止まらなくなる。
だってそうしないと沈黙が流れ続ける訳で。
結局まだ二人はちゃんとした恋人になれてないんだろう。
当然か。我々はそんな関係じゃないんだからなりようがない。
きっとミコトは私のことなどただの観光客としか見てないんだ。
もういいんだよ。無理せずに離れてくれて構わない。もう案内は不要だ。
後は紬さんたちに頼めばいい。もちろん監視役も引き継いでくれるだろうさ。
サザナミから引き継いだように今度はミコトから紬に。
「どうしたのアキラ? 疲れちゃった? 」
嬉しそうなミコト。嘘だろう? 私のどこがいいと言うんだ?
自分で言うのも何だけどただ他所から来た最低な人間じゃないか。
この島の秘密を暴き静寂を切り裂こうとしてるんだぞ?
いいところなどない。決してないんだ。
それでも私に興味を示すと言うのか? お前はどれだけ人間ができてるんだ?
まるで天女様であるかのように。
おっといけない。またおかしな方向に持って行ってしまった。
そうではなくてどこまでこの私を追い詰め苦しめればいいんだ?
絶対この私を必要としてないだろう? どうしてそこまで惑わそうとするんだ。
これがただの観光なら…… たとえ意図があってもミコトを奪っていただろう。
だってそれほどミコトは魅力的だから。だが今は逆にその魅力が怖い。
ただの自信のなさの現れなのかもしれないがそれでも……
「ではそろそろ…… 」
夜の前島地区を散策。
真っ暗なところを僅かなライトの光を頼りに歩く。
心配ない。大丈夫だからと連れ出される。まさか私を嵌める気か?
「おい…… 今晩は止めないか? 二人だと危ないぞ」
食後の運動にと夜の散歩を言い出したのはミコト。
何らかの思惑があるのは間違いない。
「怖いの? 」
そんな風にからかう。もちろんそんな訳ない。でも嫌な予感がするんだよな。
「いい子だから戻ろう。それか紬さんたちを呼んで四人で…… 」
「やっぱり紬さんがいいんだ? 前島地区に来てからアキラおかしかったもん」
「はあ? それはただの勘違いだぞ。私は基本的に何も変わってない」
「はいはい。紬さんきれいでかわいいから。でも結婚してるよ。
変な気を起こさない方がいいと思うけどな」
そんな風におかしな忠告をする。
もちろん手など出さない。忠告を受けたからではなく常識。
もっと言えばどうでもいいから。色仕掛けにやられたのでもなければ関係ないさ。
「嫉妬か? でも君の方がきれいでかわいい。私が紬さんで満足すると思うか?」
「そんな…… 」
褒められて満更でもない様子。でも事実だから。
「そんなことよりもっとくっ付こう。寒くなって来た」
昼は四十度を超え湿度は大したことないが太陽がきつい。
反対に夜は急激に冷え込んでまるで冬のよう。
恐らく先ほどから吹き始めた風によるものだろう。
さすがに半袖はきつい。夜に半袖は子供のようなものだ。
防寒具は当然用意して来たけどあれだけ暑いとどうしても薄着になってしまう。
実はミコトに言われていた。大丈夫だと言った手前我慢していたが限界のよう。
「もうアキラってば」
そう言って引っ付いてくれた。いい子だな。勝手にしてと呆れられるかと。
意外にもミコトの体温は低い。どうしたんだろう? どこかおかしいのか?
それとなく聞いてみるが逆に熱いと言い返されてしまう。
まったくどこまでも掴みどころのない子だ。
そこがまた魅力的なんだけど。
あとどれくらい彼女とこうしていられるか?
もし中島へ行けば彼女とは別れることになるんだろうな。
予定通り何もなければね。
続く




