まるで天女のように
一日目は無理をせずに大人しくサザナミの家で。
私もそこまでバカじゃない。命令に従わずに勝手な行動をすれば消されるだけ。
得れる情報は何も外からだけとは限らない。サザナミの話に静かに耳を傾ける。
彼女にも何かとんでもない秘密があるのではないかと考えている。
「それではこれで。明日は早いですのでお気を付けください」
もう今日の仕事は終えたと感情を込めずに一言付け加えて足早に去っていく。
ちょっと期待したがさすがに二人きりで寝るはずもなく自分の部屋へ。
当然そうだろうさ。小さいとはいえ三部屋はあるからな。
一つは寝室。二つは鍵の掛かった部屋。三つめはここ。客室だろうか。
観光客も僅かでこのような手厚い歓迎を受けるのは今年は自分が初めてだと。
だから昨日までは誰もいなかったと。それは船頭さんも言っていたな。
では寝るか…… でもサザナミは用があれば何なりとお申しつけくださいと。
ならばお言葉に甘え…… 寂しくて寝れないと言えば一緒に寝てくれるはず。
会って間もない男女が寝ていいはずないが見知らぬ閉ざされた島に来ている。
今日は無理でもその内…… 冗談はさておきさすがに一人は危険。
相手は獣だけじゃない。夜中に襲われたらひとたまりもない。
ここは一人より二人の方がいい。絶対にいいに決まってる。
鍵が申し訳程度に掛かってるもののそんなもの手引きがあればどうにでもなる。
では遠慮なく好意に甘えるか。そうすれば島の秘密を打ち明けてくるれかも。
しかし…… さすがにそれは間抜けな選択。
この島には伝説の天女探しに来たのであってそのような邪な気持ちではない。
うーん。ここまで天女伝説に関する話は一つも。
未だにこの島に息づいてるとはどう言う意味だろう?
これは船頭が過去を懐かしむようにポロっと口にした言葉。
だがたとえどうであれ伝説は伝説な気がする。だから気にも留めなかった。
今日得た手掛かりはこの島に来てからのものではないがそれでも貴重な情報。
後はどうするべきかを考える。うーん。やはり一人ではどうにもならない。
これが明日も明後日も続くようならより大胆な行動に出ざるを得ない。
すると目を付けられて余計に厳しくなり危険に晒さられることにもなるだろう。
それでもただ大人しくしてるよりは遥かにマシだ。
積まれた布団を広げて横になる。
夜は冷えると言っていたが薄い布団一枚で大丈夫だろうか?
寝冷えして風邪ひかないか心配。やはり温めてもらいたいな。
まずいまずい。つまらない願望はよそう。私はそこまで落ちぶれてないさ。
寝ながら明日のことを考えてるとどうしても目が冴えてしまう。
うん? 波の音?
さっきまでは感じなかったが迫って来る感じ。潮の満ち引きが心地よい。
だからって寝れるかと言うとそれは違う。
うーん。明日は沼に案内してもらうでしょう。それから……
協力者が絶対に必要だ。一人…… できれば二人いてくれると助かる。
サザナミは無理そうだから別の信用の置ける者。果たしてそんな奴いるのか?
理想はこの島に詳しく口の堅い弱そうな者。慣れ慣れしく近づく者は警戒すべき。
でも自分に嗅ぎ分ける能力があるかと言えばないよな。
ダメだ。やはり眠れない。トイレにはできれば行きたくないな。どうしよう?
何と言ってもトイレは外にある。
どれだけ田舎なのかと驚くがそれが島では普通だと言われたら何も返せない。
サザナミを頼るも返事がない。ただ波の音がするだけ。もう寝たらしい。
仕方ない。一人で…… でもやっぱり怖いから寝てしまおう。
朝…… まだ日が明けきれない四時に目が覚めてしまう。
結局熟睡はできなかった。これでは長い島生活が不安になるばかり。
一週間はこの島でお世話になるしかない。ホームシックになっても帰れない状況。
もう一度寝る? でもさすがにこの環境では二度寝はできないよな。
布団も快適とは言えないしいつ洗い干したかも分からない臭いが染みついている。
これではさすがに我慢できない。
仕方なく外を歩いてみることに。もう夜明け間近だからさすがに危険はないはず。
サザナミが言うには夜であろうと昼であろうと皆いい人ばかりだから大丈夫だと。
一般的な話で決して当て嵌まるとは限らないが自分の故郷をよく言う傾向がある。
事件が多発していようと人さらいが来ようと獣が騒ごうが言う奴は言う。
そしてそれを間抜けにも信じた奴が後悔する暇もなく散る。
これが現実だから信じない。でもこれは人には言えない。
言えば心が疲れてるとか性根が腐ってるとか信じる者は救われるとか言われ面倒。
うーん。気持ちいいな。夜型人間だから朝早くに散歩するのは久しぶり。
一年ぶりぐらいだろうな。やはり夏だ。冬に朝の散歩は寒すぎる。
いつか本当にのんびり観光で来たいよ。
その時はきれいな奥さんとかわいい子供連れて。
もちろん結婚などしてないのでただの夢であり妄想ではあるが。
ははは…… 待ってくれよ。
まずい。つい現実と妄想の区別がつかなくなるところだった。
快適な夏の夜明け前散歩で海へ。
うーん。まだ暗いのでと思っていたら陽が差してきたぞ。
気持ちいいな。何となく欠伸が出る。睡眠不足だからな。
うん? 見える。明らかに人の影が見える。
海の向こう側と言うことは恐らくあの辺りが隣島? ミハマ島の一つ。
灯台島と呼ばれるものだろうか。後でサザナミに聞いてみるか。
一人。羽衣を纏った天女様が舞を踊っている。
嘘だ? あり得るのかそんなこと? ここは現実なのか妄想なのか?
それでもありがたい気持ちでいっぱい。
見続けて時間が経つのも忘れるぐらい。
舞を終えるとその天女らしき女性は姿を消す。
何て美しいのだろうか? まるでこの世の者ではない。
それこそ本当に天女様であるかのように。単純だなと自分でもそう思う。
しかし伝説が残っている中でのこの世とは思えない美しき女性の登場。
天女伝説があるのだから天女様と考えるのが妥当だろう。
「おやお客さんかい? 」
人がせっかく天女様に浸っているのに現実に戻そうとする困った老女の登場。
もちろん悪気があるはずもなく笑っている。
続く




