紬の口癖
前島地区。
ミコトを追いかけて崖へ。まさか私を突き落とすつもりか?
どうも誘い込まれた気がして落ち着かない。
もしそうならこちらだって容赦しない。この手で……
どうやら違ったらしい。ミコトは私に夢中だと隠さない。
素直な思いをぶつけられるとどうしてもこっちまで本気に。
なぜかはまったく分からないが純粋な島娘に思われるのは悪くない。
いつの間にか本来の目的も目標も失いミコトに現を抜かしている。
そんな私を誘導し無理やり告白させようとする。
それに耐えられずについ余計なことを。
「目標を達成した暁にはミコトと結ばれたい! 」
あーあ言っちゃった。どうしてこうも抑えられないのかな?
欲望ってほどではないがどうしても彼女を失いたくない。
目標を達成するまでひたすら前を見続けるつもりだった。
しかしここまでされたらどうしようもない。もう降参するしかない。
「だったら私のこと…… 」
「当たり前だろう? 好きに決まってる! 大好きだ! 」
そう言ってミコトを力強く抱きしめる。
これでは相手の思う壺。でもそれでもいいと思っている。
仮にこれで財宝を失ってもミコトさえいてくれたらいいと一瞬だけ。
甘いがそれが私と言う人間さ。すべて仕組まれていたことだとしても関係ない。
もういいんだ。それでいいんだ。
「ありがとうアキラ。でも本気? 何だか信じられない」
「ははは! もうミコトは強引なんだから。つい告白したじゃないか」
恥ずかしさからついおかしなことを言ってしまう。情けないな。
十分は抱き合っていただろうか? ミコトから離れる。
まずい…… つい勢いで告白してしまった。
でもこれでよかったと思ってる。彼女はきっと私を求めている。
私のために知っていることをすべて告白して欲しい。
島の連中の考えてることなどたかが知れてるが不気味であるのは間違いない。
ミコトから情報を得られればそれだけ財宝探しにプラスになる。
どうやらまだミコトよりも財宝の方が大事らしい。そう私は酷い男なのさ。
愛を囁きながらも心の中では財宝と天女様のことばかり。
ミコトを大切にする気はさらさらない。それが真の男。ロマンに生きるのさ。
どっちであれ中途半端は許されない。今は財宝に全力を尽くす。
影響しない範囲内でミコトを愛する。それが二人にとってベストだろう。
「そろそろ戻ろうか? 」
ミコトが飛び出したから紬たちも心配してるだろうし。
せっかくお世話になってるところで余計な心配をかけたくない。
「ねえ明日の朝にまたここに来ない? 」
「ああ…… 早朝散歩も悪くない。自分も最近よく朝に歩いてるんだ」
それもすべて天女様に会うため。と言っても相手は認識してるかは不明だが。
早朝に降臨し姿をお見せになる。いつものように舞ったらこちらに微笑みかける。
その美しさと言ったらミコトとは比べものにならないほど。
比類なき聖女。それが天女様だ。
生まれ変わりと本物ではやはり全然違う。神々しいほどの存在。
それに見惚れつい離れているにも関わらず話しかける。
話しかけざるを得ないほどにどうしようもなく惹きつけられてしまう。
彼女こそが正真正銘の天女様。なぜか知らないが天女様は降臨したのだ。
うん? どこからか鐘がなる。どうやらもう夕暮れなのだろう。
では紬さんには悪いが二人でゆっくり夕暮れを楽しみますか。
ただ島の周りは霧に覆われていてぼやけている。
フォグアイランドと言われるだけあり思うようなサンセットが見られる事はない。
やはり早朝の霧が掛かる前に楽しむのがいいだろう。
「お帰りなさいプニュ! 」
そんな風にいきなり抱きしめられた。一応ミコトがいるんだけどな。
あまりに大胆で言葉も出ない。プニュって何だよ?
「ちょっと紬さん…… 」
「失礼しました。てっきりミコトさんだと思って……
ほら彼女こそが正真正銘の天女様ですから」
そんな風にふざける。しかし何度も言うようにただの生まれ変わり。
それなのに区長にしろ紬にしろナガレだってありがたがる。
気持ちは痛い程分かるさ。それでもミコトはミコト。ただの島娘。何の力もない。
ミシマには他に天女様の生まれ変わりが三名いると聞く。
果たしてその三名もミコト並みに魅力的なんだろうか?
いや間違いなくそうだろうさ。ミコトを見れば疑いようがない。
「もう紬さんったら…… 」
なぜかミコトが恥ずかしそうに困り気味。
「ごめんなさい。つい癖で」
どうやら地区全体でミコトが来た時はこれくらい大げさに歓迎してるよう。
だからって私と間違えるか? 変な声で迫られるとつい本気になってしまいそう。
情けないがそれが男と言うもの。そこまで私は人間はできてないさ。
「あれご主人は? 」
「はい。お食事の支度をしてますよ」
「へえ…… 」
さすがは生まれ変わりとまで評されただけのことはある。大事にされてるんだな。
ご主人が作る…… そうか植物に詳しいから料理にも凝っているのか。
これは夕飯に期待が持てそうだぞ。でも待てよ。偏食と言うこともあり得る。
「あの…… サラダだけってことありませんよね? 」
サラダのフルコースなんて嫌だぞ。
こだわりのある者は常識を無視しておかしな料理を作りがち。
「プニュ。アキラさんは草君のことをどんな風に見てるんですか?
彼は島の料理研究家に弟子入りまでしたんですから」
努力家で研究家のご主人。これは本当に期待していいかもしれない。
「さっきから気になってるんですがそのプニュってのは何です? 」
口癖だと理解してるがつい追及してしまう。凄くかわいらしいからな。
「それは…… この地方で使われていた言葉で大した意味がないんですよ。
緊張したり恥ずかしかったり興奮した時に使う言葉なんですよ」
どうやら紬さんの祖母が使っていたらしい。これで一つ謎が解けたぞ。
真似してみるか? でもプニュよりムギュの方がいいいな。
「できたぞ紬! 」
どうやら夕飯の準備が整ったらしい。
ではありがたくご馳走になろう。
何でも食事は野菜と魚が中心だそう。肉はめったに食べないんだとか。
それに今月は肉を食べないからと意味深につぶやく草太朗。
どう言う意味だろう?
続く




