ミコトの気持ち
前島地区。
区長の紹介で草太朗・紬夫婦のお家に泊めてもらうことに。
草太朗はこの地の緑化計画に尽力する植物学者らしい。
らしいと言うのは実際にはこのミハマ島を離れたことがないから。
植物に精通してはいるがナガレのように学位があるのではない自称植物学者。
家には数えきれないほどの植物がこれでもかと。
手入れに五時間は掛かるのだとかよくやるよ。相当な植物マニアだな。
到底私には真似できない。それだけあったら財宝発掘に時間を割いてるさ。
夫のこだわりと言うか研究に付き合ってる様子の紬。とても仲がよさそう。
何でも別の地区から移って来たらしい。二人で駆け落ちしたんだとか。
そんな仲のいい二人の関係を邪魔するつもりはないがつい紬が気になる。
紬はミコトを凌ぐとも言われるほどの評判の島娘。
しかもどこか抜けていて子供っぽいし変な口癖がありとても魅力的な女性だ。
クオーターで目は青く神聖な感じがすると思ったらどうやら間違いでもないよう。
一時は天女様の生まれ変わりではと噂されたほどの逸材。
ちなみに本名は紬・ムギュッタントだそう。
「悪い。私は予定があるのでこの辺で失礼するよ」
そう言えば区長がいたな。恥ずかしいところを見られたか?
とは言え色仕掛けでどうにかなると思われたのはプラスかも。
決して仕掛けられたいとかではなく大した奴でないと舐められたら動き易くなる。
自然と出た言動によって自分を有利にするのは願ってもないこと。
ただこれでミコトに嫌われたら最悪。もうガキじゃないんだから嫉妬するなよ。
おっと…… つまらないこと。ミコトはそれさえも計算してる可能性もある。
今は誰も信用できない。人のいい夫婦さえも。案内役のミコトもだ。
「ではお二人とも疲れたでしょうからゆっくりお寛ぎください」
そう言うと紬たちは姿を消す。
どうやらまだ草太朗のお手伝いが残ってるようだ。
本当に働き者でかわいらしく魅力的な人。
もし彼女が…… いやこれ以上考えるのはよそう。自分が抑えられなくなる。
「出てきます」
私の紬に対する態度が気に入らないのかミコトが怒ってどこかへ。
ヘラヘラしてる男と同じ空気も吸いたくないと思うのも仕方ないこと。
これは追いかけるべき? それはそうだろうな。
では急いで後を追いますか。
なぜかミコトは崖へ。いつ崩れてもおかしくない見た目。
家の裏の道を上っていくと崖に。下はよく見えないが相当深そうだ。
ここから落ちればまず助からないだろう。そんな高さにある。
恐怖で足が竦むほど。ミコトは何を考えているんだ?
まさか私を誘い込もうとして? いやいくら何でもそれは考え過ぎか。
「ミコト危ないって! ほら気を付けろよ」
驚かせないように慎重に。しかし強く言う。中途半端は一番よくない。
「もう私のことに構わないで! あなたは紬さんがいいんでしょう? 」
無茶苦茶言うな。そんなこと一言も……
ただ美しくてかわいい素敵な人だなと思っただけ。
それくらいの感想を抱くのは決して間違ってない。
そもそも旦那さんもいるんだからどうにもなる訳でもないのに。
二人ともいい人だ。私の悪ふざけも受け入れてくれた。
嫉妬してくれるのは嬉しいがミコトも少しは大人になって受け入れてくれよ。
「何を? 私が誰を好きになろうと別にいいだろう? 」
「よくない! なぜ私を愛してくれないの? 」
そんな風に誘惑する。おかしいぞ。一度も告白してない…… もしかしてした?
財宝に目が眩みこんな辺鄙な島まで。だからそれ以外のことは適当。
やはり答えにもならないか。仕方ない。ここはミコトの気持ちに応えよう。
でも待てよ? まさかこれさえも初めから仕組まれていたことだとか?
「済まない…… 天女様以外に興味がないんだ。
君は天女様の生まれ変わりだと言うが私はそうは思わない」
つい正直に言ってしまう。
「そんな…… 」
「私はここに遊びに来たのではない。伝説を求めてわざわざやって来た。
それに君も知ってるだろう? 一週間しか猶予がない。今日を含めて三日だ。
お願いだから私を困らせるような真似をしないでくれ。もし本気なら尚更」
「嫌いなんでしょう私のこと? 」
ミコトはなぜかもう私に夢中。私だってそれは同じ。
心の中が見えるなら私の方が愛してると分かるはずだ。少なくても気に掛けてる。
ミコトはまだ本心ではないさ。よそ者に気に入られようと努力してるだけ。
それは恋とも愛とも言わない。
待てよ。私は人間不信に陥っていないか? それとも女性を信じられないだけ?
または単純に女性恐怖症なのか?
たとえどうであれこの島で目的を果たせばいい。それでいい。他に何もいらない。
この島に行くと決めた時から覚悟してたこと。どんな魅力的だろうと関係ない。
「アキラ…… 」
「もちろん好きだよ。でも君は天女様ではない。
もし君が本当に天女様か生まれ変わりなら喜んで受け入れよう」
あーどうしてこう格好つけるかな? 島の純粋な少女に慕われ悪い気はしない。
「嬉しい! 」
「おいミコト…… 」
話を聞いていたのか? なぜ強引に抱き着く? もはや意味が分からない。
「ごめんなさい…… やっぱりアキラは私を何とも思ってないんだ?
あっちに恋人がいるんでしょう? 」
おっと…… うまい展開だな。私のつまらない毎日を聞いても無駄だぞ。
極端な思い込みはよくない。それはお互いに言えること。
できるならミコトには島育ちの純粋な少女のままでいて欲しい。
そんなおかしな願望。自分に酔ってるのか?
しかし謎だよな。こんなかわいい子が私に恋するなんて。きっと勘違いだろうが。
いつもなら素敵な女性を発見してもただ遠くから眺めてるだけ。
自分ではどうせ無理だと端から諦めてる。
もし今抱きしめたら立派な恋人になる。それもこの島に居られる三日が限度。
そんなシチュエーションだからこそ燃え上がりこんな感じになってるんだろうな。
「私には恋人などいるはずない! まさか本気なのかミコト? 」
「もちろん…… 」
下を向いてしまった。これはどうやら演技ではなさそう。
仕方ない。ここは正直に自分の気持ちを伝えるとしよう。
それが彼女のためさ。
続く




