紬
区長のデッザットはミコトを神聖視しているようだ。
天女様の生まれ変わりだからどうしてもお近づきになりたいのだろう。
だからって断ってるのにしつこく迫るのは最低だ。紳士にあるまじき行為。
ただ不機嫌だからそんな誘いを受けることもなく冷たくあしらう。
ははは…… 機嫌を悪くしたのは私のせいなので多少責任を感じる部分も。
それにしてもミコトはしっかりしてる。もちろんそんな軽くないだろうが。
だからって理想の女性だとは思わないことに。信じて裏切られたら堪らない。
あくまでミコトは案内役。余計な感情は排除すべきだ。
財宝発掘の足枷になりかねない。ふふふ…… 私は常に非情なのさ。
「まあ冗談はさておき…… お二人はどのようなご用件で? 」
どうやら本気ではないと。ただ誘って不発だったのをごまかしてるとも言える。
ミコトを見るその目は信用できたものじゃない。
歓迎気味の区長も腹ではどう思ってることか。
「前島の由来となった前島地区を回ってるところなんです」
「そうですか。ではこれからは私がご案内しましょう」
特別だと張り切る。これは悪くて断れない。
仕方ない。そこまで言うなら案内してもらうか。
区長のお話。
「ここは昔は自然豊かで人も多く島でも一番に発展していたんですよ。
それが突然の気候変動でおかしくなって。
いきなり夏になったかのような暑さで大地は乾燥し始めました。
そのせいで多くの民が命を落とし学校も病院も家々も廃墟と化してしまった。
それはすべて天女様の呪いだと言われています。
我々が古からの慣習を破り外からの文化を取り入れてしまったからだと。
自然破壊を繰り返し争いも止まらずいつしか異常気象を引き起こした。
海水温も上がり海面も急激に上昇。島の一部は海に沈んだとも。
前島地区はその歴史を受け継ぐために存在するとも言われています。
これはたぶん誰も…… 島のお年寄りも島長さえ口にしないことですが。
ここはもう終わった場所なのです。もうどうすることもできない。
自然が消え大地を奪われたのもすべて天女様の怒りに触れたからと言われてます」
区長はついにこの島と前島地区の知られざる過去をお話になった。
どう言う意図でよそ者の観光客もどきのエセ研究者に打ち明けたのか?
その真意は不明だが。
この島の異変は昔から少しずつ起きていた。
火山の噴火も関係あるのかもしれない。
「どうですか? 許してはもらえないでしょうか? 」
区長はなぜかミコトにお伺いを立てる。これはどう言う事? 意味が分からない。
「ですから私は関係ありません」
「そうですよ! ミコトはあくまで天女の生まれ変わりで決して本物ではない」
ミコトがはっきり言えないなら自分の口からフォローしなければ。
これが保護者意識? それともただの愛から来るものか?
しかしミコトとは運命的な出会いをしたとは言えただの監視役。
私がどう思おうが彼女には役目がある。この私を優先するとは到底思えない。
残念だがそれが現実。ミコトは決して私に振り向かない。振り向くはず……
もしそんな風に見えたならそれはただの思い上がりだ。
当然分かっている。充分理解してる。でも止められない。
「黙りなさい! これは島のこと。無関係な者は口を挟むな! 」
区長が取り乱す。一体どうしたのだろう? やはり私は歓迎されてない。
最初の歓迎ポーズはただのリップサービスで本気じゃない?
「区長? 」
「失礼しました。つい感情的になってしまって…… 」
情けないと下を向く。そこまでのことか?
感情をコントロールできずにエキサイトするのは誰にでもあること。
「いえ気にしてないので。それよりも一つでも多く情報を得たので満足してます」
こうして区長の案内を受ける。結局彼は役に立つ?
「ここです」
大きな一軒家へ。こんなところに何の用が?
入ってすぐに緑のお出迎え。まさかの光景に頭がついて来ない。
だって外は乾燥して砂漠化が進み荒涼としてるのに中は緑で一杯。
そんなことあり得るのだろうか?
「ああ君たち何の用? 今忙しいんだ。後にしてくれないか」
植物の手入れと水やりに五時間かけているらしい。
それでも時間が足りないと嘆いているお爺さんかと思いきや意外にも若い。
ガーデニング好きの土いじり爺さんと言う幻想は吹き飛んだ。
ここは作物が育たない最悪の場所。それなのになぜここに緑があるのか?
おかしいぞ。いくら考えても答えが出ない。まさか別世界?
「ああ…… 外の風景を見たんだね? 分かるよ。でももう自分は慣れたかな」
こんな風に言ってるのは緑化計画に力を注いでいる少し風変わりの男。
「ごめんなさいね。草君はいつもこうだから」
この男の奥さんと思われる人物が現れた。
「草君? 」
「ああ…… 自分は草太朗って言います。こっちは妻の紬です」
どうやら二人は南地区からの移住組らしい。二人で駆け落ちしたそう。
紬は島の娘にしては随分目が青い。
聞くところによるとクオーターなのだとか。だからかスタイルも抜群にいい。
彼女こそ天女様の生まれ変わりではないかと。
しかしミコトがいる以上それは噂に過ぎない。
紬はその争いから破れたと言っていいだろう。
「もしかして二人には面識があるんですか? 」
つい気になって。ないはずはないか。
「いえ…… 話には。紬さんは大金持ちの娘さんで私と比べようもなくて」
勝てないと口では言いながら実際選ばれたのはミコト。
どうも女の熾烈な争いがあったのだろう。
「そうだお二人とも。よかったらぜひ我が家にお泊りになってください」
紬は青いパッチリした目で見つめる。こんなことされたら誰だって恋に落ちる。
だが当然のことながらもう草太朗の妻だ。手が出せない。当たり前さ。
「実に残念です…… 」
つい口から感想が洩れてしまう。
「済みません。迷惑でしたか? 」
ちょっと垂れ目なところがまたかわいらしい。
こんな風に他人の奥さんを評価するのは失礼なのだが止まらない。
「いえ…… そうではなく…… 」
「もうアキラ最低! 」
ミコトが察知し呆れる。まあよく見なくても分かることか。
「ははは! アキラさんうちの妻を取らないでくださいよ」
ミニサボテンに水をやる男。どこに何が配置されてるか分かるらしい。
「これは申し訳ありません。実に美しいものですから。
つい見惚れてしまいました」
正直に白状する。
「もうお上手なんですから」
お世辞だと思ってるらしい。鈍感なのかもな。しかも夫婦揃って。
ただし敏感な者も。ミコトが睨みつける。
そんな顔もかわいいねと言っても逆効果だろうな。
とにかく笑ってごまかそう。
続く




