積極的なミコト
サザナミにお礼も言えずに慌てて旅立つ。
ナガレが遠慮したのでミコトと二人っきりで。
「ちょっと…… 」
「いいから早く! 」
強引に腕を取られる。まるで夏祭りで姉に引っ張られる男の子のよう。
情けないことこの上ない。これではどちらが年上か分かったものじゃない。
ワクワクとドキドキが止まらない。どうやら相当浮かれてるらしい。
その理由の一つとして腕が胸に当たってることが挙げられる。
ミコトは気にせずそのまま腕を巻き込む。
「意外と大きいんだね」
つい正直に言ってしまう。デリケートな問題なのに余計なことを。
天女様と比べてもどちらが大きいか分からない。微妙なところ。
もちろんそんな風に天女様を見てないしミコトだって。
「何を言ってるのアキラ? 今更でしょう。身長は高い方でもないよ。
でもアキラがそう言うなら本土の子よりも大きいんでしょうね」
そんな風に屈託なく笑う。まったくどこまで私を惑わそうと言うのか?
大きいと言ったら胸に決まってるのに。
もちろん私は胸の大きさなどどうでもいいタイプ。
ただ実際にその物体に触れたら話が違う。興奮だってするし恥ずかしくもなる。
今嬉しい以上に恥ずかしい気持ちが勝ってどうにもならない。
それが人間であり男と言うもの。不思議でも何でもない。
おかしいのはミコトの方だ。
昨日まではアキラさんと尊敬を込めて呼んでくれていた。
しかしなぜか今はアキラと呼び捨てにする。
いやいいんだ。それくらい親しい間柄だとミコトの方が思ってくれるなら嬉しい。
二人っきりだもんな。これは彼女なりの表現方法。
すぐにでも虜になりそう。
「ほら早く行こう」
ダメだ。解放してくれない。嬉しいような悲しいような。
ラボや研究所ではこのようなパターンは年上の女性がお酒に酔った時にふざけて。
だから決して慣れてない訳じゃない。でもいざ二人っきりでやられたらどうにも。
絶対わざとだと思うがそれでも違うと願う自分がいる。だって純粋な島娘だから。
へへへ…… 今年一番の衝撃。いやそうでもないか。
何を隠そう当麻博士を突き落としたのが今年一番。ただそれはネガティブなこと。
ポジティブならミコトとの触れ合いが今年一番の衝撃になるだろう。
「まだ? 」
甘えた声を出すミコト。私に尋ねるのか? 知ってるのはそっちの方では。
私はここには始めて来る訳で。まさか迷ったか? でもその為の地図だろう?
島長がこの島に迷わないようにと詳しい地図を渡してくれた。
地図ぐらい当麻博士に仕込まれたので読める。しかし地元の者の方が当然詳しい。
地図にないところや危険なところを熟知していて避けて通ってくれるはず。
そうじゃないのか? それが案内人だろう?
「なあミコトは何度も行ってるんだろう? 」
不安になったので一応確認。
「もちろん。でも一人で行ったのは実は今回が初めて」
「ああ家族でよく遊びに? 」
「ううん。あの人とこんな風に手を繋いでよく…… 」
遠くを眺めるミコトは何だか寂しそうだ。
まさか…… 元彼との思い出の地なのか?
遠くを眺めていたがやはり彼女が言っていたように亡くなった?
しかも殺したのはミコト自身だと言うじゃないか。
まさか今回の旅も最終目的は島の敵の抹殺。私は一人誘いだされた?
いやそれはいくらなんでも考え過ぎか。
ナガレが指摘したようにそれは比喩で彼女が原因って話だったはず。
考え過ぎるな。彼女は敵じゃない。こんな私によくしてくれる立派な人だ。
疑ってはいけない。ミコトを疑ってはいけないのだ。
もう五日目になる。なるべく早く前島地区を制覇しておきたい。
だからどうしても急ぎ足になる。
「ちょっと待って! 」
どうやらさっそく何か見つけたらしい。
「花が枯れてる…… こっちも! 」
ミコトは不吉だと騒ぐが大したことではないと思うんだけど。
「気にし過ぎだって。まあ気持ちも分かるがな」
ひとまず花を確認。どうやらここだけ乾燥してるらしい。砂漠化でも始まったか?
枯れた花を包んでポケットに入れる。
それから五分もせずに前島地区にたどり着いた。
「うご! おめえは何者だ? 」
どうやら中へ入るにはこの男の許可がいるらしい。
それにしても何だか変な見た目。まるで人間ではない。さすがに失礼か。
でも顔は長いし目はぎょろっとしてるし髪はないし目つきは鋭い。言葉も変。
極め付きは鋭い牙と爪。どう考えても普通じゃない。
「私ですか? 」
「ああん? お前だよお前! 他にいるのか? 」
よそ者を極度に嫌う前島地区の守り人。
ここを抜けないと前島地区には入れない。だがなぜ入る必要がある?
そうか財宝だったよな。財宝が隠されている可能性も排除できない。
だったら素直に聞いてみるのも手だな。
「財宝を探しに…… 」
「ああん? 」
「いえ…… 一週間ほどこの島に滞在しておりまして。
前島の元となったこの地区に来た次第です」
これでいいのか? とってもやり辛いんですけど。
「だったら早く通行証を出せ! 」
どうやら島の行き来だけでなく地区に入るのにも通行証がいるらしい。
面倒だけど仕方ないか。
「よし通っていいぞ! ただしルールには従ってもらうからな」
ミコトはフリーパス。やはり私のようなよそ者を警戒し監視する為なのだろう。
分かってはいるがどうも嫌な感じ。空気も薄いし何だか暑いんだよな。
フィールドワークでこのような対応は慣れてるけど明らかに人間として見てない。
そんな感じがする。よく見て欲しいよな。私だって立派な人間さ。
前島地区は思った以上に過酷な場所。
大地が乾燥していて作物が育たない常に風の吹き荒む最悪の環境。
人の気配がしない。どうやらこれは骨が折れるぞ。
「あの…… ミコトさん」
「気にしないで。ここは雨季と乾季で一変するの。
今は乾期…… こんなところにアキラを連れては来たくなかったんだけどね……」
当然ミコトはすべて分かっていて連れて来た。そう言えばナガレは遠慮してたな。
この島の元となった前島地区がこのようになっているとは思いもしなかった。
どうしてかは誰にも分からないだろう。ナガレにせよ島長にせよ。
ドンドン
ドンドン
とりあえず一軒一軒訪ねてみる。しかし反応はない。
留守にしてるらしい。では一体どこに行ったと言うのだろう?
南地区よりも発達していただろう痕跡は見てとれるがこの環境では適応が難しい。
まさかよその地区に避難してるのか?
続く




