二人っきり
ナガレは島長にいいように飼いならされている。
それは彼が情けないのではなくただ演じてるに過ぎない。
だからこそ怪しげな男としてではなく優秀な人材として捉えるのがいい。
島の者。特に島長の言葉をきちんと聞き従う。それが我々に求められるもの。
酒好きで人懐っこいペットのようなナガレには難しくない。
「そうか。よし私たちも遊ぼうよ」
うわ…… 気を付けていたのに…… おかしなことを言っちまった。
もう取り返しがつかない。口が滑ったレベルを超えてる。何やってるんだろう?
気が抜けた? 本心? ミコトを見るとつい?
どうであれ若き島娘にどんだけ失礼なことを言ってるんだろう?
「遊ぶ…… 決していやらしい意味で言ってない。
ただ楽しいことをしようよって話」
言い訳を重ねるもドンドンおかしな方向に。
まるでわざとやってるように思われるかもしれないがそれは誤解だ。
もうこれ以上はいけない。口から出てくるのはいやらしい誘い文句。
そんなつもりはないのに止まらない。いつの間にかそのことばかり考えてる。
私の人間性が疑われることになるぞ。これでは嫌われてしまう。
別にそれでいいんだがでもできるなら私は立派な人間と思われたい。
つまらない願望なのだがどうしてもそれに拘ってしまう。
「ハイ」
「いやそうではなく…… ええ? 本当にいいの? 」
「どうしましたアキラさん? 島をゆっくり案内しますね」
どうにかなった。危ない危ない。これで嫌われずに済みそうだ。
別に最終的には嫌われてもいいがこの島を出るまでは何とか。
ここに来て四日目。もうそろそろ本格的な手掛かりがあってもよさそう。
当然そんな時間制ではない。財宝の手掛かりが見つかるのは恐らく運だ。
運がよければ今日にでも。悪ければ一生。
仮にナガレのように魅了されて島に留まったとしても。
それが運命。残酷な運命が待っているのだろう。
そもそも簡単に見つかるならもう島民が見つけ出し密かに使ってしまってる。
ただ島長が知らないはずもない。すると島民は人間ができていて……
まだ手つかずのままで残ってると見た方が自然だ。
この島に来てからずっと週に一度の船に連れられ無理やり戻されるのではと。
これが決まり。観光客はここまででお願いしますと言われたら反論もできない。
それを恐れているからこそ船に乗せられるのは嫌。
だが中島に行くには当然船が必要になる。
それはあの船頭に任せなくても小さな漁船や筏だっていい。
水泳選手ならもしかしたらあの荒波を泳いで行けるかもしれない。
だが自分は波なしの五十メートルがやっと。筏も作る技術なし。
フィールドワークの現場で現地の奴が作ってるところをぼうっと眺めていた。
だから他の者よりはどうにかなる。
しかしここは無人島でもないし人のいる中で筏を作るのは難しい。
それに時間を費やして大切な財宝調査が疎かになったら元も子もない。
ここは無理せずに島長に従うのがいいだろう。
若干の不安はあるがナガレもいるし不安は薄まるはずだ。
「北地区は人は僅かでここ南地区も中心街に集まってますが少し離れればまばら。
島長のお家も周りは一軒だけ。島長守と言って島長を補助するためにあります。
あそこから屋敷に通ってるんですよ」
島長に何かあってはいけないと体勢を整えてる様子。もう年だからな。
最年長と聞いてないがまだ上には上がいるとすればこの島は長寿の島と言えるか。
「それで他に地区は? 」
「はい。もう一つ…… 前島地区が存在します」
これがこの島の者が前島と呼んでいる訳だ。
「前島地区? 」
「はい。ここから二時間少々で前島地区が見えてきます」
「それは東の方に? 」
「はい。西地区は基本的には山でして人が住むには適していません。
火山がいつ活発化するか分からないんです。決して安易に近づかない下さい。
地元の者も巻き込まれることもある恐ろしいところ。昔何度も…… 」
島の事情に精通しているミコト。
「だったら前島地区に行こうか」
「ふふふ…… 慌てないでアキラさん。歩いて二時間は掛かります。
今日はただ散策するだけに留めて明日早くに」
ミコトの提案はもっともだ。
島長宅で長居をしてしまったからもう昼過ぎ。着くころには夕方。
迷えば夜遅くになってしまう。前島地区には明日から。
二日もあればいいさ。慌てる必要もない。
「よしじゃあこの辺を歩こうか」
「はいアキラさん」
従順なミコト。ただ好意を持ってなのかそれとも何らかの役割があってなのか?
どうであれ私は急速にミコトに惹かれている。そんな気がする。単純なものだ。
「きゃあ! 」
遠くを見ていたせいで足元の大きな石に躓きそうになるミコト。
バランスを崩し転びそうになったのでとっさに背中を掴む。
「ありがとうございます。つい遠くを見ていたものですから」
「いや…… 」
そう言いながらも触れ合うことに興奮している自分がいる。
このお程度のことでか?
まだ立派な女性には程遠い小娘で島娘に現を抜かす自分が情けない。
どうしてこの程度のことで。これだってただの偶然だろう?
隣を歩いていたからできたことではあるがまったくの偶然。
いやこれもミコトがわざとやったこと? そんなはずがない。
ミコトはそんな子じゃない。でも……
知り合って僅かの関係性に何を知った気でいるんだろう?
「あの…… そろそろ放してくれませんか? もう大丈夫ですから」
恥じらうミコト。さすがにここまで計算できないだろう。
だからミコトはただ本当に私に好意を持ってると見るのが自然。
そんな自信は一ミリもないが。
「放しません! 」
うわ…… 何を言ってるんだろう? そんなことで困らせてどうする?
もう恥ずかしくてまともに見れない。
「でも…… それだと島の案内ができなくなります」
「だったら話してくれないか」
「アキラさん? 」
「君と恋人とのことを知っておきたいんだ」
元彼の話は確かミコトがしていた。でも詳しくは聞いていない。
できるならなぜ別れ姿を消したかまでこれからの参考のためにも。
ここまで立ち入ったことに踏み込むならはっきりさせておく必要がある。
うん。大丈夫さ。天女伝説や財宝発掘には多少強引に。嘘も吐く。
人のことを心配してる時間的余裕はない。だからあっさり言おう。
続く




