当麻博士
ついに降り立ったのだ! 夢にまで見たミハマへ!
当麻博士も行きたかっただろうな。まさかあんなことになるとはね。
でも足を骨折しただけで済んだから良かったと思わなくちゃ。
首や脊髄を損傷しても何らおかしくない重傷だったんだから。
他人事とは言え怖い怖い。一寸先は闇さ。押す押されるの違いはあるが。
何はともあれ事故で済んで良かった。うーん今はほっとしてる。
これ以上大ごとになっていたら共同研究も打ち切られていただろう。
それどころかラボもそれに付随する施設も使用禁止になっても不思議はない。
私だって謹慎処分は免れなかったに違いない。
それを博士の不注意による事故で済ましたんだから我ながら運がいい。
そのまま研究所から追い出されても文句言えない立場。
それほどのことをしたと実感している。
とは言え真実などこの際どうだっていい。些細なこと。
今はその当麻博士に代わってこの島を調査する使命がある。
うーん。海風が気持ちいい。自由を感じる。
博士もきっと来たかったんだろう。態度に出ていたからな。
伸び伸びとフィールドワークしたかったんだろうさ。うんうん。
だからこそ共同研究者のこの私がその意思を引き継ぐんだ。
「それでお客さんは何をしに? やっぱり一週間後に戻るの? 」
サザナミは静かだが決してただの案内役ではない。
考えたくはないが私の目的を聞き出し島の偉い方にお伺いを立てる役割がある。
それが彼らにとって不都合だったらどうなるか……
もう船は遠くに姿を消した。一週間は戻れない。逃げられないとも言える。
だからなるべく行儀よく島の者の言う事には素直に耳傾け決して波風を立てない。
ただ存在するかのように息を吐く。打ち解けるまでそんな風に行こうと思ってる。
それがかえって不気味だと気に入られない場合はもはや打つ手なしだが。
要は相手の気分次第。気に入らなければ処分される。
それはいつどこでも似たようなもの。
フィールドワークに非協力的な者もいたにはいたからな。
「お客さん? 」
「失礼。ぼうっとしてました。早ければ一週間後の船で戻ろうかと」
もちろん生きていればの話。できれば財宝が見つかるまで滞在したいものだ。
オーバーステイはどこまで許されるのかな?
ただそれをそのまま言えば狙われるのはこっち。下手は打てない。
軽いおふざけも冗談も通じない。それほど危険な島。
何と言っても法律が及ばないのだから。殺されたら神隠しにあったとされる。
資料が僅かしかなく面白おかしく噂程度のものまで収集。
それを検証して真っ赤な嘘だと分かればまだ気持ちが楽になる。
だからって自分の体で実験はしたくない。絶対悪い結果になるだろうから。
「それで何しに来たんですか? 」
「はい。それは何と言いますか…… 」
どうしても言い淀んでしまう。はっきり言えたらな。
さすがにこの島に伝わる伝説を解明し財宝を奪いに来ましたと正直には言えない。
そんなこと言えば一日も持たずに袋叩きに遭う。果たしてそれで済むかさえ不明。
私はいくらなんでもそこまでバカじゃない。一応は研究者の端くれ。
博士の助手のようなものだがそれでもプライドはある。
島の者を信じたいが彼らにとって守るべきは観光客じゃない。
もちろん法律でもない。自分たちの島を守ることだ。財宝を守ることにもなる。
恐らくその財宝の存在を知るのは島でも僅か。
外の世界では財宝研究に捧げて来た一部のおかしな奴ら。
そいつらが競うようにこの財宝探しを始める。
しかし地図を手にしては一歩も二歩も前を行く。
当麻博士は自慢好きだがそのことだけは絶対に漏らさないようにしていたようだ。
先を越されたらお終いだからな。
ただ何か大発見に繋がる資料を手にしたと匂わせた。
「天女様ですね? 二年前には騒いだもの。ですが今は大人しいものです。
ではお客さんも天女様にお会いになろうと? 」
サザナミはそれしかないと断定する。
自分としても伝説にしろ財宝にしろ天女様が関係してるのは明白だからな。
何と言ってもこの島に伝わる天女伝説なのだから。
しかし問題はこの伝説が当てになるかだな。
観光客欲しさにでっちあげた可能性も充分あり得る。
ただそれだとせっかくの秘密が何かの拍子に全国にあっと言う間に広がる事にも。
今は日本だけでなく世界からも視線が注がれている。
ライバルの中には明らかに外国との繋がりがある者もいて油断ならない。
「天女様に会えるんですか? 」
「いえ会えません! 」
きっぱりと言い切る。それはそうだよな。誰も見てない幻の天女様だもんな。
その辺歩いてて財宝の在り処まで教えてくれたら楽なんだけど無理だろう。
しかも一週間以内に。どうせ船が来るのは一週間後。
当たりをつければ再びやって来ることも可能。
まさか滞在中に殺人事件など起きないよな? そんなハプニング嬉しくない。
不安になる。やはり信頼できる仲間を連れて来るべきだった。
しかしそんな奴は実際いない訳で。いくら善人でも金銀財宝の前では皆狂う。
それは歴史が証明している。そう言う私だって後ろ暗いことをしているのだ。
「ここが家です。もう日も陰ってきたことですしどうぞここでごゆっくりと」
まだ昼過ぎで夕暮れには二時間はある。それなのに外出するなと。
どうやらこの家に縛り付けて監視するつもりらしい。
しかしそうノロノロしてられない。
急がねば次の船でライバルたちが来る可能性も充分考えられる。
なぜならもう当麻博士が言ってしまっただろうから。
自慢好きの博士は酒の席では適当にあしらうが女性の前では弱い。
その手に引っ掛かって研究所を追放されかけた過去がある。
それも一度や二度じゃない。奥さんからも愛想を尽かされ離婚したとも聞く。
当然女に弱いだけでなくその性格にも難ありだからな。
あえてその手のことは聞かないようにしている。プライベートなことなので。
共同研究者の私がどうにか嘆願してギリギリで留まっている。
ただ博士はそのことに無頓着で感謝はその場でしかせずすぐに女遊びを始める。
あの年になればそんなものなのかもしれないがどうも納得できない。
いい加減枯れろよな。
続く




