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お腹空いた!

「待ってくれ! 夕食は? 腹が減ってとてもではないが眠れない」

昼におかしなチャーハンと団子と有料の水を口にしただけでそれっきり。

さすがにこのままではお腹が空いて眠れない。我がままではなくただの事実。

今日一日ならまだ我慢もするが明日以降も変わらないなら何とかしなければ。

食い溜めはできなくても食べておくのとそうでないとでは大きな差がある。

さっき買ったまんじゅうは日持ちするのでできれば非常用に残しておきたい。

ただ最悪喰うことになる。


「あの…… ミコトさん何かありませんか? 」

「やめておけって。彼女は今彼と話してるところだ。邪魔はよくない」

意外にも気を利かせる大人のナガレ。意外にもまとも。ロマンチストかも。

ただの飲んだくれではないらしい。

だがしかし元彼との邂逅はそれくらいで今彼の世話を頼むよ。

そんな風にちょっとだけ意地悪に思う。

これはいじけてるだけ。ミコトの色香に惑わされたとかではない。

私はそのような情けない人間ではないのだ。


「でもナガレさん…… お腹空いたよ」

「いいのがあるぞ。ほら木の実だ。落ちてるのを拾っといた。どうだ一緒に? 」

「うわ…… まずいっすね! でも栄養があるなら構いません」

「正直はいいがそんなに急いで口に入れたら喉に詰まるぞ」

ぬるい水と酒しかないと。仕方なく酒を一杯。歩き続けた後の一杯は格別。

できればツマミでもあればって木の実があるのか。


ううう…… ついこの島の生活が長引いたせいで禁断症状が。

肉あるといいな。でも調達方法が気になるので現地では求めない。

もし求めたら最後。今まで懐いていたペットが消えることになる。

それは自然なことだけど余計な一言で歓迎の肉になる申し訳なさ。

私が我慢すればいいところを堪え切れずに悲劇が。

当然ベジタリアンではないし本土に戻れば好きなだけ。


フィールドワークではできるだけ肉を食さないようにしてる。

もちろん出て来るものまでは拒まないが。

なぜかワニの肉と言われても罪悪感がない。

最近ではジビエ肉として食されることも多いクマ肉もそうだな。

ここだけの話クジラ肉も美味しそう…… 世界的には危険な話か?


夜。

うーん。お腹空いたな。木の実だけじゃ全然足りないよ。これでは寝られない。

それにいびきを掻いてるおじさんが隣にいるから余計に眠れない。困ったな。

デリケートでもないがいびきには弱い。博士は口うるさいけれど夜は静か。

本当にどうしたんだ? 歩き回ってクタクタなのに目が冴えて眠れない。


昨日と今日とでは違う。昨日はミコトの家にお邪魔になった。

と言っても粗末な二度寝のできないところではあったが。

ナガレは久しぶりに気持ちよく眠れたそう。

そう言えば彼の寝床もこんな秘密基地と言うか隠れ家のようなところだったな。

一日しか経ってないのにもうあの布団が懐かしく恋しい。

まともな寝床でないと質のいい睡眠は取れない。

そうすると疲れが残り明日以降に響くことになる。

もちろんフィールドワークで海外によく行くのでこの程度は大したことはないが。

あそこではあくまで当麻博士の助手で気楽だった。今は責任ある立場。

島民から追われている身だから緊張感も半端ない。

こんなこと政情不安の国でしか体験できないこと。

ただそこでも基本周りは味方だから外国人と言うだけで狙われることもない。


明日が早いと先に寝てしまったミコト。マイペースだな。ははは……

それにしても二日経って財宝関連の手掛かりはなし。

仲間が二人になって余裕はできたけど今まで見えない敵だった島の者が全員敵に。

島の掟では敵に味方する者はどのような理由があるにせよ敵だと。

言い訳不可。直ちに島の敵であるよそ者を引き渡せだからな苦労するよ。

周りの者を巻き込む訳にはいかない。しかもどうであれ良くしてくれた者たち。


そんな話誰もしてなかったじゃないか。

あの船頭さんもナガレもサザナミもミコトもよ。

どうしてこんな肝心なことを真っ先に言わないのか?

最重要注意事項のはずだが。そうまでならないと考えていたのか?

私を舐めて大人しい研究者気取りの観光客だから問題ないと考えていたのかもな。


言ってくれたら…… 自分たちが辛い目に遭うだけじゃないか。

本当に二人には苦労するよ。ただ迷惑を掛けてるのも間違いない。

ここまでしてくれるなら仲間と呼べるのかもしれないな。

フィールドワークで培ったコミュニケーション能力で島民と絆深めたかったのに。

これではもう誰も相手してくれない。


「ミコトさん。もう寝てますか? 」

まだ未成年なのにこのようなことに巻き込んでしまい悪いなと思っている。

うーん。決心が揺らぐ。いっそのことすべて告白できたらな。

当麻博士から託されて非情に徹しようとしたのに。

意外にも二人が親身にしてくれるものだからどうしても揺らいでしまう。

自分の心は今揺れに揺れている。でも言えるはずがない。

ナガレは別として島の宝を奪われるのを大人しく見守るほど馬鹿でもないだろう。

島民にとって私は明確な敵だ。ただ島民と喧嘩したから敵な訳ではない。


こんなにも全力で守ってくれようとしてる二人を裏切ろうとしている。

恩を仇で返す卑劣な行為。自覚してる。自分が情けなくて恥ずかしくて仕方ない。

どうやら当麻博士と行動を共にすることで人間味を失ってしまったらしい。

でもこのまま放っておいても博士が解明した以上押し寄せてくるのは自明の理。

私でなくてもその誰かがきっとすべてを暴き島の宝を奪っていくだろう。

それなら私が誰にも気づかれずにそうっと。

これが最終的には島民にとってもベスト。


「ううん。どうしたんですか? 明日も早いですからもう寝ましょう」

寝ぼけたミコトは自然体でいつも見せるミコトではない気がする。

何と言うかずっと無理していたんだろうな。幼さが戻った感じ。

ここで元彼を想って眠る彼女を見ていると何だか心が和む。

ただ若干ムカつくのはなぜだろう? 

天女の生まれ変わりの島娘と秘密基地に逃げ込む幼さの抜けない木こりのよそ者。

伝説に何らかの関係があるのかもしれないな。


                  続く

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