バカと言われて
「バカ! 」
その一言が効果抜群。余計なことを言わなくても伝わる。
ミコトから初めて言われた悪口がグサッと胸に刺さり心が痛む。
気にしないとしようとしてもどうしても考え続けてしまう。
バカと言われて嬉しい者などいやしない。もはや言葉の暴力だ。
しかも一度や二度じゃない。興奮してるせいで何度もしつこくバカと繰り返す。
これでは精神がやられる。仮に私に強靭な精神があっても耐えられない。
何がバカなのかいまいちよく分からない。ただ逃げて来ただけだろう?
しかも島長をかたってピンチを脱するなど普通できない。どちらかと言うと天才。
島に関する資料を事前に頭に入れていただけでなく冷静な判断力が求められる。
いくら島民が舐められ馬鹿にされたからって肩を持つ必要はない。
少なくても今は居候の身とは言え家族じゃないか。ファミリーじゃないか。
違うのか? どうなんだ? 私にはちっとも分からない。
「ミコトさん? 」
「バカ! 」
言い過ぎだ。いくら天女様の生まれ変わりでも言っていいことと悪いことがある。
ミコトがまだまだ未熟だからって甘やかしてはいけない。それが教育。
厳しくすればきっと反発するだろうがこれも仕方ないこと。
「ミコトさん? ミコトさんってば! 」
だがミコトは取り合おうとはしない。どうしてしまったのだろう。
「ははは…… 怒らせたようだなアキラ君。何か嫌らしいことでも言ったの? 」
呑気なナガレ。経験豊富で島に詳しいあんたが何とかしろよと言いたい。
ミコトも助けてくれたのは素直に嬉しいが一言余計なんだよな。
「済みませんナガレさん。二人っきりにしてもらえますか」
彼女もそれを望んでるようだ。こっちとしても伝えておきたいことがある。
「まあそうだね。だったら動かずに大人しくここらにいるんだよ。
何かあったら叫んでくれ。特にミコトさんは躊躇なく叫ぶといい」
格好つけるがこれではまるで私が何か企んでるみたいじゃないか。
失礼な。二人っきりになりたいのはそう言う邪な考えからじゃない。
大体私がする訳ないだろう? ただの島の小娘相手に本気になる訳がない。
まったくどいつもこいつも舐めやがって。
おっと抑えないとミコトに本心を見透かされる。
島の財宝発掘計画を事前に察知され阻止されて堪るか。
「歩こうか」
ナガレが完全に姿を消してからゆっくり海岸沿いを歩く。
そう言えばこの辺りで天女を目撃したんだったよな。
もう少し左で西寄りだけどまあ大差ない。
早朝は霧も僅かで視界に影響することはない。
「さっきからどうしたのミコトさん? 」
もうずっと押し黙ってる。このまま続ける気か?
我慢比べなどいい大人のすることじゃない。ミコトはまだ子供だけど。
そっちが黙るならこっちが好きに話すがそれでもいいのか?
「ミコト…… 」
「気を付けてよねバカ! 」
ようやく会話になったかと思ったらまたバカだ。
バカ! バカ! と何回言えば気が済むんだ。お父さん悲しくなって来るぞ。
もちろん私はそのような存在ではないが。
この子は本当にどうしてしまったのだろう? ああ面倒臭いな。
これだから女の子の扱いは…… だからって男が楽かと言うとそうでもない。
この手のことに精通してる当麻博士にレクチャーしてもらうべきだったか?
いやいや情けない話。相談も特訓もできるはずない。
とにかく現状を理解しないと。それにはミコトから話を聞く必要がある。
バカは直接的過ぎるからやめて欲しい。
これでも多少のプライドがあるのだ。傷つけられて堪るものか。
「ごめん! 」
一応は謝る。海外ではこんなことしない。自分の非を認めることになると。
だが女性には簡単に謝りなさいとも。すべて博士の助言。
博士って本当に女好きで困る。アドバイス自体は悪くないんだが。
「どうして謝るの? 」
「機嫌が悪そうだから」
正直にありのままを答えるがこれでいいのか?
「それはあなたが危険を冒すから厳しく…… 」
「ははは…… こんな自分でも気に掛けてくれるんだね? 」
ああ面倒臭い。なぜどうでもいい言葉のラリーをしないといけない。
嬉しい気持ちは別として今はこんな状況から逃げ出したいよ。
「勘違いしないで! これはあなたを…… 」
そこで止まってしまった。
要するに何かあるんだろう? この子は果たして味方なのか? 信用していい?
残念だが天女様の生まれ変わりと言うのは嘘かもしれない。
「あなたを…… それから? 止まらずに続けてくれないか」
「あなたを監視するために決まってるじゃない! 」
怒って繕えなくなったよう。もう本当に子供だな。
「すると君もサザナミのように監視役だと? 」
「そう。監視役。あなたが危険なことに首を突っ込まないように見守る役目」
勢いで言ってしまいそれをどうにかごまかそうと白々しい嘘を吐く。
しかしそれはいくら何でも苦しくないか? ただの監視役だとなぜ言わない?
困った子だ。
「おいまさかその言葉を信じろと? 」
本当は信じたいんだ。フィールドワークでも現地の人の言うことに耳を傾けた。
多少の嘘ならそれでいいんだ。でも違う。彼らには思惑があるはずだ。
ここはとんでもない隠しごとをしている排他的な島だ。
観光客など来るはずがない。そもそも人が来ないんだから。
よそ者にしろ観光客にしろただ島に土足で上がり込みグチャグチャにしていく者。
そのように捉えられているだろう。だからその視線は厳しく冷たいものになる。
我々が与えられるものは僅かだが得るものは計り知れない。
島の宝を根こそぎ奪っていこうとする略奪者にいい顔などしてられない。
募った恨みをぶつける過程で暴力的になることもあるだろう。言葉だってそう。
だがこの子はもう分かり切ってるのにまるで心配するように怒る。
それはナガレも同じだが彼はその第一人者。
彼は私の苦しみが分かるから同情もするし手助けもする。
もちろんその彼だってこの島に憑りつかれた以上は信用はならないが。
いつ裏切ってもおかしくない。
ミコトにせよナガレにせよ仲間であり味方に見えてその実敵でしかない。
悲しい話だ。仮に本人が味方だと思っていても自覚がない場合もあるからな。
続く




