ボッタクリスペシャルランチ
南地区唯一の食堂。海の幸が豊富で人気もあるらしい。
観光客は自分だけ。地元の者がほとんどだから評判が当てになるか……
ここで食べて行くといいよと島民の優しさが沁みる。
だがここは俗に言う価格はお高めのボッタちゃんだ。
でも島民は決して悪くない。これが当然でいつも食べてるのだから。
だとすればここは気にせず……
「皆さんもここで毎日のように? 」
「ああいつもは安いからね。でも観光客が来た時はお高めにするから行かない」
そんな風に正直に答える純粋な者たち。うんうん。ふざけるな!
いっそのこと二重価格にすればいいのに律儀だよな。食堂は商売あがったり。
「スペシャルランチをどうぞ」
注文してないのにお皿が運ばれて来た。どうやらお勧めを用意してくれたらしい。
これはありがたい。いい匂い。これはまるで…… いやそれはないか?
ただの勘違い。匂いが似てるからそう感じたんだろう。
チャーハン? 焼き飯? いやピラフか? だがここはチャーハンで統一しよう。
いくら食堂でもスペシャルランチセットがチャーハンなどあり得るのか?
一つ星ホテル出身のフランス料理人による創作フレンチとかでないとおかしい。
それがスペシャルランチってもんだ。
さあ食ってしまおう。見た目はチャーハンでも中身は違うパターンもあるからな。
まずは一口。文句はそこから。
うん? これってやっぱり…… チャーハン? 海鮮チャーハンだ。
中にはエビとカニと訳の分からないカラフルな魚がこれでもかとぶち込まれてる。
見た目通りの色鮮やかなチャーハン。予想を超えることはない。
残念だな。でも美味しければ文句ない。
ふう…… それにしてもしょっぱいな。
この島で取れた塩だそうだから文句は言えないがもう少し抑えて欲しい。
絶対文句は言わないぞ。しょっぱいけれどチャーハンはまずまずだもんな。
これなら私でも作れると思ってしまうのが素人考え。
火力とかもあって作るの難しいんだから。
「お水を? 」
「悪いね。うちはお水が有料なんだ。どうする一杯三千円だけど? 」
本気か? 超有名なシェフのお店のようで気分が悪い。
そう。島の水は貴重…… そんなんことあるのか?
確かここにも山はあるよな? そこの湧水ならタダじゃないのか?
当然の疑問だが確認できない。それがもどかしい。
水はどこでも貴重。水が切っ掛けで戦争が起きることもある。
命の水って奴だ。貴重だと理解してる。だからここは我慢する。
「三千円ですか? いつもは? 」
「気分次第だな。タダの時もあるし飲み放題で百円もある」
堂々としている。観光客から吸い取ろうとする鬼のようなシステム。
それが染みついている。何て逞しいんだろう? 見習わないと。
我々観光客には最低に思えるが地元には愛されてるんだろうな。
もしこれを逆やってしまうと反発が起きる。
そうここは彼らのためにある。我々は一歩引いて様子を見守るしかない。
「ごちそうさまでした」
「ああこれはサービスね」
地元のお婆さんが作ってると言うお団子。ミビ茶にとても合うと。
当然ミビ茶は有料。一杯五百円。しかもお団子はしつこいから三杯は必要。
四杯目から半額にすると多少はマシなところも見られる。
「このお団子は美味しかったですよ。でもミビ茶はもういいかな。いらない」
つい暴言を吐く。ミビ茶がこの島の者にとってどれだけ大切か甘く見ていた。
でも仕方ない。三杯も飲んではさすがに飽きる。
「おいそこの若いの! このボッタ食堂さんに失礼だろうが! 」
どうやら常連らしい。でも観光客がいる間は高いのでミビ茶のみで凌いでる。
最低じゃないか。そんな奴にとやかく言われたくない。
「ボッタ食堂ですか。どおりで…… チャーハンも微妙だったな」
もう来ることもないので正直に感想を述べる。
あれだけの金を出したんだ。これくらい当然だろう?
「おい! 舐めてるなお前? 」
店主と常連が怒り出し周りが何だ何だと騒ぎ始めた。
静かに目立たないようにしようと思ったのにどうやらそうもいかないらしい。
これはまずい。どうすればいい? 今更撤回しても意味ないだろうし。
笑ってごまかすのは難しいよな。うーん。
囲まれる前に何としても逃げたいが肝心のナガレの姿がない。
案内役なくして島内逃亡は不可能だろう。すぐに捕まってしまう。
食堂は高過ぎると近所の家でお昼の催促をする旅行上級者のような男。
「行け! やっちまえ! もう構うことはないさ! 」
けしかける最低で無責任な周りの者たち。
活気がある町でいいけどもう少し静かに食べたいし過ごしたい。
「こっち! 」
早く来るようにと手を振る者が。
誰かと思えばミコト。どうやらこの騒ぎを聞き駆けつけたらしい。
でもこれくらい大したことない。いいよと首を振るがダメだと叫ぶ。
うーん。これは素直に従った方がいいな。どうもあまりいい空気じゃない。
たかがチャーハンセットに文句を言って怪我はしたくない。
でも逃げようとしてもすぐに追いかけるだろうから。
「あああ! 島長だ! 」
ただの爺さんがいたので島長になってもらう。当然面識などない。
「島長? 島長! 」
単純な奴らだから大騒ぎで島長らしき人物に向かう。
一応ここでは島長は絶対君主。と言っても何十年も前の話らしいが。
現在は体を悪くされていて表に出ることも稀だそう。
これは当麻博士の資料にも載っていたこと。それをうまく活用。
頭脳プレーって奴だ。
島長と歓喜する者の間を擦り抜けてミコトのところまでゆっくり自然に。
これで気づかれることはないだろう。
「もう何をやってるんですかあなたは? 」
呆れ顔のミコト。あーあ嫌われたかな?
島長はさすがにまずかったよな? 分かってるんだよ。
逃げるように中心街を抜けるとナガレが姿を見せる。
「アキラ君凄いね。よく逃げ切ったよ。あの辺の奴らは武闘派だからな。
俺もここに初めて来た時は殴られたものだ。抵抗すると余計に酷くなる。
「野蛮な人たちなんですね? 」
「普段は温厚なんだけど観光客には何をしてもいいと思ってるんだろう」
「うわ…… 」
「とにかく君はよくやった。見直したぞ! 」
褒められるほどのことか? でも嬉しいな。ほんの少しだけ嬉しい。
続く




