沐浴
二日続けての奇跡の遭遇。天女様は何と神々しいのか。
だがよく見ればその神々しさが失われている気も。光がない。
光が見えない以上ただの人間では?
やはりきちんと会って確認するのが一番。
もしこれが俗に言うただの島主催の天女様ツアーだとしたらどうか?
いや何も天女様でなくてもいい。分かりやすく織姫様だっていい。
七月七日晴れた夜空に架かる天の川で彦星と織姫が再会する。
この再会がメインとなり観光客も押し寄せ島は潤うだろう。
ただそれでは静けさを犠牲にすることになる。
ミビちゃんのマスコットキャラなどよりよっぽどいい。
天女役を例えばミコトにやらせて大儲けし島を観光客で埋め尽くす。
それはさすがにやりすぎだが観光客が押し寄せれば島も盛り上がるに違いない。
ただそれを望んでいる島民がどれほどいるかだが。
そっと静かに俗世間から離れて暮らすと言うのが一般的だろうな。
無理やりにでもこの島の復興を目指そうとするのは間違ってる。
金儲けの道具として消費されるのは島民が望むはずがない。
ミビちゃんの件で懲りてるだろう。しかしこのままで本当にいいのか?
うーん。答えはまだ出ない。
充分にリフレッシュしてからナガレのところに戻る。
いびきが盛大に響き渡る。
まったくよく寝てられる。酒を飲むとだらしなくなるだけでなく寝起きも悪い。
深酒は本当に体によくない。頭だってぼうっとするんだから。
一杯ならまだしも酔い潰れるほど飲むのは長旅にはマイナスでしかない。
「起きてくださいナガレさん! 」
案内兼情報係のナガレを同行させようと無理やり起こす。
私のためにきちんと働いてもらわないと。
少なくても通訳の役割は果たしてもらわないと困る。それからボディーガードも。
少しは役に立つところを示して欲しい。格好いいナガレが見てみたい。
「あんたらまだいたのか? 早く飯を食っちまいな! 」
昨夜からお世話になってるご主人の誘いを受ける。
「あの…… 皆さんにお伺いしたいんですが天女伝説は当然知ってますよね? 」
朝からねばねばしたもの食べされられる。納豆とも違う何かよく分からないもの。
体にいいそうだからたくさん食べるように勧められる。信用していいのか?
まさか幻覚作用ないよな? どうもこの島に来て違和感がある。
どことなく体が重い。気のせいだと思うが万が一ね。
水も食べものも気をつけられるところは気をつけてる。
しかしご馳走として出されれたら断り辛い。何と言っても皆が食べてるから。
安心し切ってるけどどうか? さすがに安心安全とは限らない気もする。
どうもまだ完全には信用してない。いやこれでいいのかもしれないが。
朝飯と言うのも新鮮。
博士といると昼夜逆転してその上腹が減ったら食べるようにしていた。
特にこの島に来るまで事前準備もして忙しかったからまともに食った覚えがない。
フィールドワークでは各国の料理を食べたっけ。
やっぱりデリケートだから臭いのきついものはできるだけ避けていた。
悪臭がするものまである。それをかわすのは至難の業。
周りの目が気になって最終的には無理やり食うしかない。
「どうですナガレさん? 」
「おお…… これはまた直接的だね。どうしたアキラ君? 覚醒でもしたかな?」
不気味な笑顔を浮かべからかうナガレ。どうも私を研究対象にしてないか?
学者などどいつもこいつも似たようなおかしな奴ばかり。
当麻博士は主に女の子を対象にしていたな。
まあどうしようもない助兵衛爺さんだがそれも仕方ないこと。
情熱を傾ける対象が若くてきれいな女性と言うだけさ。
私には恥ずかしがるなと注文をつけていたっけ。
恥ずかしいのは苦手だからとかではなくその行為自体が見てられないだけなのに。
「ナガレさん。あなただって天女を見てるでしょう? 正直にお願いします」
断定するがそうだろう? ここに来て一回も見てないはずがない。
「いや見てないよ。ミコトさんがそうだと言うなら確かにそうだけど…… 」
白々しいことを言いやがって。どうして思い通りに動かない?
こっち側の人間のくせにどうも島の味方をする。島にとり憑かれたか?
いやナガレこそがこの島に憑りついている悪霊みたいな存在。
「でも朝に踊っている…… あれが天女じゃ? 」
「興奮しないで。悪いね。俺は夜型人間だから。基本十時前に起きることはない。
君はきっと早朝に見てるんだろうな。これなら俺も早起きするかな」
そんな風にふざける。しかし嘘とまで言えないからこれ以上は追及できない。
「ははは! 自分もそうだな。やっぱり若い人は早起きだ」
主人の方も呑気で相手にしない。
それは単純に酒に負けてだろうが? 深酒しないできちんと早起きしろって。
それにどっちかと言うと若い人よりも老人の方が朝は早いだろう。
睡眠が浅くトイレに起きるパターン。
「すると天女を誰も見てないと? 」
「ああ…… 戯言はいいから早く食っちまいな! 」
昨夜とうって変わりシャキシャキ働く奥さん。
昨日の旦那追い出しの件はやはり冗談? だとしても心配させるなよな。
誰も彼もまともなのがいないのか? 頼れるのはミコトのみ。
そう言えばミコトはどこにいるんだろう?
起きてからまだミコトを見かけない。
朝食の席にも姿を見せないんだから何かあったと考えるのが普通。
しかし島のことに自分たちの常識が通用するのか?
でも気になる。気になって仕方がない。どうしたんだろう?
「そうだ。ミコトさんを見かけませんがどちらに? 」
「ああ…… この近くの湖で沐浴してる。一応は天女様の生まれ変わりだからね。
帰りに木の実を取って来てくれる約束さ。邪魔しないであげてね」
昨夜と違い諭すような態度の奥さん。ただの毒親でもないのか。
「ちなみにどこで沐浴を? 」
「へえ…… 興味あるのかい? 」
「ええまあ…… 」
「煮え切らない男だね。どうせミコトに夢中なんだろう?
男はこれだから。若い娘がいるとすぐにデレデレして嫌になるね」
どうも私を一般的な男に当て嵌めて攻撃するつもりらしい。
だがそれはまったくの見当違い。たかが島娘の一人や二人どうでもいいと。
もし財宝とミコトを選べと言われたら遠慮なく財宝を選ぶさ。
それがこの島に来た目的なのだから。
いくら可憐で美しかろうとフラフラついて行くものか。
当麻博士のようにだらしない最低な人間にはなりたくない。
続く




