タブーを犯す者
後島の最高権力者である村長から話を聞くつもりがどうもうまくいかない。
カトーのお婆さんの話の裏付けと補足が欲しいんだけどな。
まさか前回の約束を律儀に覚えてるとは思いもしなかった。
しかし山に籠るなんて正気か?
村長の頼みと言うか命令は絶対。
島の者はこの村長様には逆らえない。私のようなよそ者は余計にだ。
機嫌を悪くされる前に大人しく従うのが賢い旅人。
フィールドワークでは現地の一番偉い者に最初に挨拶しお土産も忘れない。
そうしてようやく自由が許される。しかし私はここに宝探しに来たのだ。
ただ従う訳には行かない。こちらの頼みも聞いてくれないとな。
「ほう嫌そうな面をしてるな。爺の戯言に付き合えるかと言う目だ」
村長はどうやらお見通しらしい。ならばはっきり言おう。
「その通りです。私も何かと忙しい身でして今回はお話を伺おうと」
正直に伝えるがこれは賭けだぞ。村長を怒らせては島にいられない。
前島や中島の悲劇が繰り返されることになる。特に中島は強烈だ。
さすがにここはそんな野蛮でも殺伐ともしてないだろうが。
「まあ待て。急げば真実から遠ざかる。気持ちは分からなくもないがな。
しかし言うことを素直に聞くのも大人の対応だぞ」
偉そうな村長だ。私に意見する気か? 老人の世話はこれだから大変なんだよな。
孫とは言えカエデさんも苦労してるんだろうな。ここの島民も。
「しかし村長…… 」
「ふざけるなか? まあよかろう。ならばお供してくれ。道すがら話そう」
「ですから…… 」
「その後は帰っていい。送り届ければそれでいいのだ」
勝手に進めて勝手に終わらせて納得する。本当に困ったな。どうしよう?
「よろしいんですか? 村長不在では村は大騒ぎでは? 」
ただの爺さんじゃない。村長だ。体調を崩されて寝込んでも一大事なのに。
第一危険過ぎる。誰があんな噴火しそうなところに籠るんだ?
罰ゲームだとしても全力で拒否するようなことだろう?
ディファイだって難しいのにいくら村長とは言えただの爺さん。
しかし何を言ってもこれもすべて島民のためと説得には応じない。
まあいいか。送り届けるならそこまで時間を要しないさ。
「ははは! そこまでの権力は今の儂にはない。カエデが大きく見せてるだけ。
それよりも島長様にお会いになられたのだろう? 何か言ってなかったか? 」
さすがは村長だけあって交流があるらしい。
と言うことは村長が挨拶に向かったかあるいは島長が直々に後島へ。
「いえ…… ただお墨付きを頂いただけで…… 」
「そうか。それならよい。ではついて来なさい」
あーあもうお供と言うより子分だよ。嫌だなこの爺さんのお世話なんかさ。
博士よりも大変で肩凝りそう。どうしてこうなるんだよ?
結局断り切れずに村長と話しながら山へ向かうことに。
「急ぎましょう村長! 日が暮れてしまう」
遠慮することなくきちんと自分の意見を言う。
ここで黙っていては村長にいいようにやられるだけだからな。
「ほう…… 強気だな。しかし儂はただの爺ではないぞ。それは理解せよ! 」
うわ…… 熱いぞ。熱気がある。やる気が出てきた証拠。
「それで何を…… お前は確か? 」
「アキラと言います」
改めて自己紹介。
「そうそう。アキラ君だったな。騙されやすい情けない男と聞いているぞ」
爺さんは陽気だがよく聞けばただの悪口じゃないか。酷いな。
私は立派な男だ。島々を巡ってミハマ島の真実に迫っている。
今までもナガレのように何人かのよそ者がミハマ島の真実を求め宝を探した。
しかし誰一人としてその真実にもお宝にもたどり着けなかったはず。
私は少なくても天女の衣を実際に見たし鍵となるナギサ一家の秘密も知った。
今村長に真実かどうか確かめようとしてた訳で。
ミハマ島の真実に迫ろうとしている私がただの情けない男のはずがない。
大体島長からお墨付きを得ているんだ。舐めてもらっては困る。
「実は村長に確認を。ナギサの母についてなのですが…… 」
デリケートな問題だと分かっている。だから慎重に。
ナギサを不幸にし一生を左右することにもなりかねない。
「ナギサの母? お前はどこまで知っている? 」
興奮はしてるが機嫌は悪くない。暑さにやられてもいないのでしっかりしてる。
それにしても今日は暑い。まだマシだがこれでは中島と変わらないな。
おっと…… 言い過ぎた。ここはまだ過ごしやすい楽園さ。
山が大きくなって来た。
するとあっと言う間に気づかれるんだろうな。
勝手に入って来る困った奴としてね。二人連れのおかしな奴らだろう。
「ナギサの父と恋に落ちて島から姿を消し未だに行方不明。
それから一年後にナギサが…… 」
「もうよい。ほぼすべて知っていると。どこから聞いた? これはタブーのはず。
島の者は世代交代したとは言え皆口を閉ざしている。
今更蒸し返すとは何を考えておる? 誰から聞いた? 答えよ! 」
村長の激しい追及が始まる。するとついカトーのお婆さんの名前を出してしまう。
これは秘密で誰にも言うなと念を押されていたのに。さすがは村長。
ただの爺ではない。だからこそとんでもなく困った爺さんだ。
「目的は見当がついているし情報も入ってる。だから無理して聞かんでもいい。
しかしまさかカトーの婆さんとは…… いやはやさすがに鋭いな」
「関係があると? 」
「狭い島だ。当然そうだろう。だが何か人智を超える存在で近づきにくい」
どうやら村長はカトーのお婆さんを恐れてるらしい。
てっきり面識があって仲良しかと思いきや村長の方が忌み嫌っていたとはね。
ただの銭湯のお婆さんではなくとんでもない人だったのかもしれないな。
「確かにお前の言う通りだ。ナギサの母は未だに行方不明だ。
そもそも初めからいなかったのではないかと本気でそう考える者もいる。
ナギサが発見されサナギが引き取る時にこの話をした恐れもある。
要するに噂だ。実際には存在しないならいるはずがないんだ。
儂はナギサの母を見たことがない。見たと言う者もいたがな。
そもそもナギサにせよその母にせよなぜこの島に流れ着いた?
どこから来た? トリド島でもなければお前が命からがら脱出した中島でもない」
「ははは…… そうですね」
あれ? 何かとんでもない違和感。それは一体?
「どうして前島の件をご存じなのですか? 」
「それはな…… ここだけの話にしてくれるか? 」
どうやら村長はすべて知っているよう。
「もちろん他言無用ですよね」
それくらい心得ているさ。そこまで私はバカじゃない。
「実はな…… 」
「あれ? 村長ではありませんか? それとアキラまで」
大事なところで邪魔が入る。
火山守のディファイが駆けて来た。
惜しい! せっかくの秘密を聞きそびれてしまう。
「明日とんでもないことが起こるだろう。お前にも降り掛かる災厄。
しかしそれは未来…… この島の未来には必要なこと。
止めることはこの儂にはできん。止められるのはお前だけだ。
だから儂はお前を信じている! 」
そう言うと山に籠ると。カエデのためにもこのまま放置できない。
「村長頼みますよ。ここは立ち入り禁止ですので」
「ううん? 」
一喝でディファイを黙らせる村長。
「ですが勝手に山に入られては困るんです。いつ噴火するか…… 」
ディファイの必死の抵抗も村長には効果なし。本当にとんでもない爺だ。
「うるさい! お前を火山守から外す! これでいいな? 」
横暴。昔から酷いと言われていた村長の独断で火山守を降ろされる。
ディファイはただ火山守の任務を忠実に遂行しただけ。
あまりに勝手すぎる村長の判断に納得がいかない。
続く




