胸の印
カトーのお婆ちゃんからナギサの出生の秘密を聞かされる。
そこでナギサ親子に血の繋がりがあるかないかが不確かとの疑惑が。
それを払拭するためにもDNA検査をしてはっきりさせた方がいいと。
DNA検査か? もしナギサとサナギが本当の親子ならすべて解決なんだが。
そうすればサーナとも親子の可能性が高い。逆も然り。
しかし勧めることはできてもナギサは断るんだろうな。
もし違うと分かれば今までの努力が無に。余計なことはできない。
都会から遠く離れた島でそのような科学的な解決策は相応しくない。
仮に後で揉めることになってもそのままがいいだろう。
ナギサが今すべてを受け入れるのは難しい。
たとえ告白するにしてもナギサがもっと大きくなってから。
今のナギサでは耐えられない。精神が崩壊しかねない。
それが分かってるからサナギだって娘に滅多のことが言えないのだ。
サナギもきっと辛いだろうしナギサだって心が揺れ動いている。
「そうですか…… ありがとうございました」
「ほら焦らない。ここはじっくり最後まで聞いておくんだ。
ナギサを心から心配してるならはっきりさせるのもアリだと思うがね」
お婆さんもどうしていいか悩んでるようだ。やはり自分には荷が重い。
「どうすれば? 」
「自分で考えな! そう言えばサナギが以前こんなこと言ってたよ。
あれは宴席での話。ナギサがサーナの娘だとなぜ分かったか聞いた愚か者が。
それでナギサにはサーナと同じ印があるんだと。ついポロリと漏らした」
どうやらお婆さんは地獄耳らしい。これは下手に悪口は言えないぞ。
「印? 」
「いやアザと言ったかな。とにかくどこかにあったのだろう」
お婆さんは本気らしい。アザや傷跡で心当たりがあるのはニュウニュウの傷跡。
あれは特徴的だったな。サナギがぼやかしたのも納得がいく。
娘の胸に象徴的な印があるなど言える訳がない。好奇の目で見られるだけ。
母と娘に同じ傷跡。果たしてそんな偶然ある? あるとすれば選ばれし者の印。
するとナギサとその母も生まれ変わりの可能性が大。
これは大発見だぞ。もう興奮しっぱなし。
「ありがとうございます。最後に一つ。お役目とは何でしょうか?
ナギサの母はお役目で姿を消したと伺いましたが」
「確かにそんな感じだね。お役目ってのは大げささ。
ただ姿を隠さざるを得ないナギサの母を慮ってそう表現したんだ。
ナギサの母はお役目に行ってると」
お婆さんの言う通りなら行方不明の母を当てもなく探していることになる。
ナギサ…… お前本気なのか? 会ってどうするつもりだ?
生き別れた母娘の感動的再会にケチをつける気はないが本当に会えるのか?
これだけ探しても見当たらない者をどうやって見つけ出す?
それとももうすでに再会してそれを隠してる? しかしなぜだ?
分からない。どうであれ私には理解できないこと。
「そうだ。村長にも確認を取るといい。もう忘れたかもしれんがね」
当時も村長だった彼なら何か知ってるかもしれないと。
「では村長はどちらへ? 」
「知らないよ! 勝手に探すんだね」
そう言うと疲れたと横になる。
「お義母さん! ほら無茶はしないで。申し訳ありませんがこれくらいで」
もう充分だろう。急いで村長探しへ向かう。
今日は忙しい。お婆さんが回復したので話を。
当然収穫はあった。いやとんでもないことが判明した。
ナギサもサーナも天女の生まれ変わりの可能性が高い。
すると昨日までの強引なお医者さんごっこは無駄?
いやそんなことはないさ。候補者を減らすことにも意味はある。
ネガティブだと今まですべてが時間の無駄のように感じる。
午後には皆で倉整理。あそこにはきっとお宝に関する書物があるに違いない。
たとえなくてもプライスレスな珍品があるかもしれない。
本当に金銀宝石があるかもしれない。
ではそれまでに村長にお話を。この時間帯は歩き回ってるから簡単だと。
「うん? アキラじゃないか! どうしたまた道に迷ったか? 」
マグロが笑う。この島をまとめる大物だと言い張るだけあり威圧感はある。
「いやちょっと村長を探してて…… そっちこそこんな朝からどこへ? 」
決めつけては悪いがこのタイプは夜行性だと思っていたのでちょっと意外。
それとも島の者は自然のままに生きてる? 夜明けと共に起きるのか?
「対策会議に参加するんだ。明日だしな。これ以上俺の島を荒されて堪るか! 」
この言い方だとあっちのシマに聞こえる。どうであれ争いが表面化しつつある。
「よそ者が来るって? 」
確かさっきの店主もディファイもそんなような話をしていたな。
トリドだっけ。トリド島の連中が交流をいい訳に暴れ回ってると。
「そうだ! お前みたいなよそ者だ! この野郎許せない! 」
そう言ってふざけて服の襟を掴む。
「おい…… マグロ? 」
「ははは! 冗談だって」
それでも凄むから迫力満点。いい加減脅かすのはやめろよな。心臓に悪い。
「酷いだろう? それにまだ掴んでるんだけどな」
マグロは癖だと悪びれる様子はない。まったくこれだから田舎のガキは困るぜ。
本気かと。何と言っても心当たりがある。カゼリアと密会してた訳で。
もしメイ辺りから漏れていたら制裁を受けてもおかしくない。
「こら! 何をしてるのあんたは? 絡んでるんじゃない! 」
村長の孫娘のカエデ登場。
違うと否定しても容赦なくものを投げつけるカエデ。やり過ぎな気も。
「アキラってばまたとんでもないのに遭遇したね」
同情してくれるがただひたすらややっこしくなるだけ。
「カエデいい加減にしろ! 」
「あらカエデ様でしょう? お爺ちゃんに言いつけようかな…… 」
カエデは正義感の塊でマグロのようなタイプを放っておけないんだろう。
更生させようとするがマグロは言うことを聞くはずもない。
結果的に対立することに。
「イチイチ俺の監視するな! 爺など知るか! 」
マグロも我慢の限界らしい。
「あら? お爺様の悪口? これは大変なことになるわよ」
そうやって笑う。これではどちらが悪いか分からない。
マグロは追い詰められていく。
「大丈夫だよ。話してふざけてただけ。勘違いだから許してやってくれ」
「そうだ! お前は何かにつけて俺を悪者にして爺を使って脅す。
それはもう古いのさ」
マグロはふざけるなと怒るが急に大人しくなる。
どうしたのかと思ったら村長が歩いて来た。
「おう誰かと思えば旅の人。おいカエデや。世話をしてあげなさい」
「はい。お爺様! 」
「それじゃあお邪魔な俺はこれで」
マグロが逃げる。
「待ちなさいよあんた! 」
「カエデ! 」
村長はマグロの存在を一切無視。それでもマグロは大人しくしている。
まるで借りて来た猫のよう。
「ではご案内を…… 」
しかし村長に話があるからとだけ。
村長の気持ちはありがたいが今は観光してる時ではない。
ナギサの出生の秘密の件について詳しく聞く必要があるのだ。
「村長さんにぜひお聞きしたいことが」
「では屋敷まで。いやその感じではただ話を聞こうって訳ではなさそうじゃな」
さすがは長年村長として支配して来ただけある。勘が鋭い。
カエデに後のことを任せて散歩でもするかと。
歩こうと言ったきり歩かされてるがどこへお供すればいいの?
この島の実力者で実質支配してる村長。カエデの話では気が短いと。
マグロの話では最低な人間だと。カトーのお婆さんの話では強権的だと。
「どちらへ? 」
これ以上意味もなく歩かされては敵わない。
「ほれ約束したろう? 火山を鎮めるため祈りを捧げるため山に籠るとな」
村長は忘れてなかった。しかし今から当てもなく山に行き籠れと?
今日は約束があるんだけどな。
続く




