カゼリア
暗くなって来たので今日は切り上げることに。
倉整理をミサキさんに任せるのは忍びないが仕方ないか。
早ければ明日にでも目当ての品が見つかるだろうとやる気充分。
そこまで急ぐ必要はないがただ何となく時間がない気が……
どうやら私は焦ってるようだ。ただ急いだからってどうにかなるものでもない。
「悪い。俺ちょっと…… 」
夜になりマグロからの招待を受けていたのを思い出す。
ナギサに出て来ると言うと自分も一緒にと世話焼きが過ぎる。
保護者じゃなんだから一人で行かせてくれよ。島にだってもう慣れた。
「大丈夫。二時間もしないで戻るからさ…… 」
マグロの招待に応じるのがいい。それが島民との触れ合いさ。
メイたちもそうだが他の者とも触れ合い島の秘宝に一歩でも近づければな。
暗くなったところで待ち合わせ場所に通じる橋へ。
ここを超えるとオシャレ地区。
本当に橋があるんだな。誰かが後島には橋があるって。
確かナガレだったような。
ナガレか…… 後島には当然来たんだろうな。
橋についても知っていた訳だし。でもそれだけ。
結局ナガレはどうしたんだろう?
いや思い出してはいけない。処刑されたに違いないのだから。
自分の身を犠牲にし逃がしたナガレたちが生きてることはほぼあり得ない。
恐らく散々責め苦を受けて残虐な方法で殺されたに違いない。
それは私の想像の遥か上を行く処刑方法だろう。
きっとマキナやアナログも同じ。
思い出したくもない中島での最後。
放置されてダイボのようにバリバリに食われた恐れもある。
今振り返るだけで吐き気と恐怖でどうにかなりそうだ。
それほど危険な島にいた。中島とはそのようなとんでもなく恐ろしい島だった。
どうポジティブに考えても無事に逃げ切ったはずがないんだ。
どんなことがあれば彼らが助かる未来があると言うのだろう?
そんな風に中島を振り返ると恐怖で足が竦みそうになる。
バリバリがこの島にもいて目の前で待ち伏せしてるのではと。
ここだここ! ここに違いない。
オシャレ地区を入ってすぐのところに軽食屋が一軒。
古い建物で色が黄ばんで来ているが中はきれいになっている。
これは一度建て替えたか?
「いらっしゃい! 」
元気のいい島男が大声を張り上げる。これではお忍びで行くのも難しいだろう。
「おお! アキラじゃないか! 来てくれたんだな? 」
上機嫌のマグロは満面の笑みを浮かべる。不気味だな。
マグロについて奥の座敷へ行くと数名の男女が笑顔で迎える。
その中にはハルとメイ兄妹の姿もあった。
「おう! アキラこっち! 」
ムネガさんまで。いつもおかしな行動を取り周りを驚かせる。
そんな彼女がこのような集まりに来ることは珍しいそう。
「どうしてここに? 」
「メイちゃんがアキラが来るってね」
先に始めているマイペースなムネガさん。ドリンクはミルクだそう。
まだ乾杯はしてないと急かされる。
「あーん? お前たち知り合いか? 」
マグロが不思議そうに交互に見る。
「ああ…… 俺たち友だちさ」
ハルが適当を抜かす。
「違うでしょうお兄ちゃん? この人は私の婚約者。お兄ちゃんは関係ない! 」
「うおおお! メイ! それは酷いよ」
ハルが感情を爆発させる。
まさか酒でも飲んでるのか? だが違うと。
この島名物のミビドリンクだそう。
ミビ茶とタンサンを混ぜ合わせたシンプルな飲みものだそう。
「おおミビ茶かよ! 懐かしいな」
「違う! ミビドリンク! ミビ茶じゃねえ! 」
マグロの隣に座る初対面の男に注意を受ける。
「あんたは? 」
「紹介するぜ。俺の仲間のギンとその横がドリー。そこで大人しいのがカゼリア」
ギンとドリーはこのマグロの子分らしいので適当に扱っていいだろう。
カゼリアは存在感がないのか紹介されるまで気づかなかった。
「あれ…… もしかしてナギサも来たりするのか? 」
「ナギサ? 俺たちのナギサちゃんに馴れ馴れしいぞ! 」
ドリーが睨む。だがマグロが慌てて止めて事なきを得る。
「おっさんどうなんだよ? 」
遠慮のないギンが絡む。
おっさんはないだろう? 私を誘ったのはそっちだってのに。
絡んでくる奴がいるかよ。夜遅くにわざわざ来たのにその歓迎の仕方はない。
「いや悪い。こいつらは年上には昔から反抗的な態度を取るんだ。
島の外から来る者には異常な警戒心がある臆病者さ。許してやってくれ」
親分肌のマグロが仲裁に入る。
「それはいい。俺をどう呼ぼうが構わない。それでナギサは? 」
「ナギサなら…… 」
「彼女はこう言う会にはあまり参加したがらないんだ。団子屋で忙しいから。
それと親父がうるさいのとどこかに行ってる場合があるから」
何か知ってる様子の面々。具体的に感じ取るのは簡単なことではない。
「まあいいじゃないか。ナギサがいなくてもカゼリアもメイもいるさ」
「そうそう。さあまずは乾杯しましょう」
カゼリアが積極的。すぐにメイが割って入る。
「アキラさんは私の恋人なの! 勝手に手を付けないで! 」
メイがカゼリアから奪い返す。そこにムネガさんまで。
奪い合いが始まる。いや迷惑なんですけど。ゆっくり飲ませてくれよな。
「遅れて申し訳ありません。皆さんお久しぶりですね」
そこにナギサがやってくる。
「おおナギサちゃんじゃないか! どうしたのいつもは来ないのに? 」
ハルが目を輝かす。こいつの狙いはナギサか? だから慣れ慣れしいんだって。
「それが…… アキラさんが参加すると聞いたものですから。
久しぶりに顔を出そうかと思いまして」
ナギサは私のためにわざわざ参加してくれたらしい。これはありがたい。
「よし皆揃ったことだしでは始めるぞ。では改めて乾杯! 」
「乾杯! 」
どうやら歓迎会のようなことをしてくれるらしい。ありがたいな。
島の優しさに触れる今日この頃だった。
でもこれって…… 危険な予感。いやナギサに限ってそんなことする訳がない。
こいつらだって気のいい奴に違いないんだ。
マグロが若干悪人面だがそれがこの島の男だろう。
「ねえこっちに来てよフィールドワーカーさん」
そんな風にからかうのはカゼリア。まさか誘惑する気か?
だがすぐそこにナギサがいる。これ以上はダメだ。やめてくれ。
「紹介した覚えないけどな…… カゼリアさんはどうしてそのことを? 」
「当てて見て? 」
ダメだ。酒でもないのに酔ってるのかよ。いや待てよこれは……
うん。どれどれ。カゼリアのグラスを奪い余りを飲み干す暴挙に出る。
酒のような酒ではないような。ミビジュースって言っていた。
まさかやはり酒が入ってるのか?
ミビドリンクとミビジュースでは若干違うらしい。
「強引…… 」
そう言うとカゼリアは抱き着いて来る。どうなってるんだ?
公衆の面前で何を? ナギサだっているのに何をする気だ?
「いや…… 酒かと思っての確認。それでなぜかって言うと…… 」
ダメだ。ドキドキして何も思いつかない。まずいのに逃げられない。
フィールドワークでもよくこんな風になっていた。
博士が年を食い過ぎたために私がターゲットになりやすかった。
そうやって仲良くなっていくのは決して悪いことじゃない。
でも誤解を受けそうで怖い。
「教えましょうか? 」
そう言うとさっそく頬にキスをする。超積極的なカゼリア。
困ったなと迷惑そうにしてるとメイが睨むしナギサだって冷たい視線。
もっとやれと無責任なムネガさん。
それならさっさと胸を見せてくれたらいいのに。
「そうだカゼリアさん。悪いんだけど胸を見せてくれないか? 」
こうして嫌われてはお終いだがそうでもないようだ。
「悪いなアキラ。その子は俺の女だ。下手に手出しはやめてもらいたい」
凄むマグロ。さすがのカリスマ。
「ははは! 何だよマグロ。お前見た目に反してケチだな。でもいいや。
俺はただ確認したいだけだから。どうだ。カゼリアの胸には傷痕がないか?
付き合ってるんだろう? 」
つい勢いに乗ってマグロに絡む。しかしマグロは純情な男らしくまだだと凄む。
ダメだこれは。仕方ない。ここは自分の手でどうにかするしかないな。
でもどうすればいい? それよりもメイとなナギサが本気っぽいぞ。
続く




