ナギサの母
島唯一の銭湯。
繁盛してるかと言えばそうでもなく今は昔のこと。
だからお婆ちゃんも無理して表に出て来ないし人も僅か。
手が空いたところで詳しい話を聞く。
「ほらあんたらはどこかに行った行った! 」
デリケートな話題なので人払いをしてもらうことに。
こうまでされたら話すしかない。しかし島の者に目的を話していいものなのか?
中島のようなことが起こるとも限らない。
とにかく慎重に。最小の犠牲で多くの情報を得れるようにしないとな。
それが交渉術さ。フィールドワークではうまく行った試しがないが。
自分は不器用で感情がすぐ表に出るから。ポーカーフェイスには程遠い。
「ナギサさんのお母さんについて知りませんか? 」
まずはナギサについて詳しく知る必要がある。
そうしないと関係を築けないし続けられもしない。
手始めに失踪したナギサの母について尋ねることに。
「ああ…… あの男の奥さんだね。サナさんって言ってね。
娘時代はそれは人気があったね。私にも劣るとも劣らないとも。
変な男に捕まったって噂されたがこれで二人は深く愛し合っていたと。
それがいつだったか突然姿を消した。何かお役目があるのだとか。
それが何かについてはたぶんお婆ちゃんは知らないよ。
これは誰にも漏らしてはいけない禁止事項だからね。
あんただってそう言われたら詮索できないだろう? 」
残念ながら現在どこに住んでいるかは不明だそう。
知っていたら隠さない。いくら秘密にしても噂になるとそれっぽいことを言う。
ならばこの人もお婆さんもサナギも知らないことになる。
ナギサはどう言う訳か知ってて会いに行ってるらしいのだがそれも不確か。
お役目が何か気になるところだがよそ者には本当に関係ないと酷い言われよう。
私だってただのよそ者って訳じゃない。居候の身。もう関係者だ。
「ナギサについて教えてくれませんか? 」
母がお役目でどこかに行ったなら当然娘のナギサもそのような運命にあるはず。
「ナギサちゃんかい? そうだね。いい子だよ。やっぱり母親似かね。
あのおっちょこちょいなところも遺伝してるんだろうさ。
それでナギサちゃんについて何が知りたいの? 」
興味を示したと言うよりも警戒してる感じ。
当たり前か。見知らぬよそ者がナギサを調べるんだから。
不審に思うのは当然。だからってここまで来たら引けない。
「恋人について…… 」
「おいおいあんたも相当嫉妬深いね。嫌だよ追いかけ回して刃傷沙汰はね。
もちろんあれくらいかわいければそうなる気持ちも分かるが。看板娘だから。
そう思い浮かぶのは一人だけ。その人は今のあんたと同じよそ者。観光客だと。
名前を…… 忘れたね。もう何年か前の話だから。確か……
その人と親しくなり誓い合った仲だそう。
それで子供っぽく秘密基地を作ったり旅に出掛けたり。
でもいつの間にかその人がいなくなっていて…… 」
この話どこかで…… 最近どこかで聞いたような……
まさかそれってミコト? ミコトの思い出とそっくりだ。こんな偶然あるのか?
それとも同時期に別の島の女の子を手玉に取っていた最低野郎?
秘密基地を作りまるで少年のようなよそ者。恐らく同一人物に違いない。
「忽然と姿を消した男の方はどちらに? 」
「さあ…… 」
「ではここ最近ナギサは家を離れていたと言うのは? 」
「どうだろう? その辺は父親に聞くのがいい。いちいち監視してないからね」
「そうですが…… 」
サナギに聞くか…… どうも乗り気じゃない。
正直に答えてくれそうにない。いい加減な男だから。頑固なところもあるし。
「そう言えばナギサちゃんいつも気にしていたね。
幼い頃に何かあったって。それが何か自分では分からないから不安だと」
まさかそれが母親失踪に関係してる? するとナギサが物心つく前に失踪?
「不安か…… そうですか。ではもう一つ。真実の瞳について知りませんか? 」
「ああ…… その辺はお婆ちゃんの専門だわ。調子がいい時に来るといいよ。
また来な。ごめん忘れていた。そう言えば間もなく騒がしくなるんだった。
三日後にも来るからその時は大人しく家に籠ってるんだよ。
物騒な連中が来るからね。友好の証として好き勝手やらせてる。
根性がないからうちの島の連中はさ」
こんな感じで誰かが来るとだけ教えてくれた。
たぶんとんでもない連中がやって来るのだろう。
「そうだ。どうしても島のことが知りたいなら倉掃除手伝ってみたら」
帰り際に思い出したようにアドバイス。たぶんさっきまで言おうか迷っていた。
それを乗り越え教えてくれた。と言うことは少なくても私は信用されたのだろう。
「いいのかよ? こんな得体の知れない奴に秘密を漏らす気か? 」
せっかくの親切を無にしようとするサナギの暴挙。
島民としては立派な心掛け。だが人としては最悪。どうして邪魔をしようとする。
これではずっと歓迎の振りして閉じ込めようとした中島の連中と変わらない。
彼らにも彼らなりの考えがあって故郷を島を守ろうとしたのはよく分かるんだが。
そして私は島の宝を奪おうとした略奪者。放置すれば危険な存在に変わりはない。
だからって改心だってしたし守れと言えば守ったさ。
でもそれが無理やりだからな。
ここでもやはり簡単には島の真実にたどり着けないのだろうか?
そんな風にネガティブに考えていたがあっさり教えてくれた。
意外過ぎて何だか変な気分。まるでキツネに化かされたよう。
後島の連中は何かと協力的だし今までとはまるで逆。
きっとそれは外部との接触が頻繁にあるから。隣の島との交流がある。
よそ者を恐れるほど閉ざされてない。それが答えだろうな。
それでも警戒を怠らないのが私と言う人間さ。
焦りは禁物だが時間がない。そんな気がする。それは私ではなくナギサ……
「ははは! 島の秘密って大げさだろう? 別に困りはしないさ」
分かってないからの発言だろうが何とも大胆。いい加減で適当。これって……
「それもそうか。面倒だしこいつに好きなだけ調べさせるのも悪くない」
サナギはそう言うと煙草に火をつけて一服。
どうやら本気らしい。と言うか私の目的よりも一服の方が大事そう。
本当に適当でいい加減。でもそこが彼のいいところで頼れるところでもある。
「それに後継者なんだろう? ナギサちゃんの婚約者だって噂だよ」
どうやら私の存在が広まったらしい。その速度は物凄くて島中に知れ渡った様子。
「いや…… ナギサとはそう言う…… 」
どうしてどいつもこいつもそんな目で見るんだ?
傷心の中でナギサとエレンに救われただけ。まだそんな気持ちにはなれない。
「ふざけるな! こんな奴に大事な娘をやれるか! 」
怒り心頭のサナギ。吠えると頭に響くから堪らない。
「ほら隠さない隠さない。ナギサちゃんはかわいいから。何て言っても看板娘さ」
ナギサはどうやら島の者からも人気が高いようだ。
消極的で控えめで人のいいナギサは島のおば様方からは人気があるらしい。
不器用で弱虫だけど頑張ってるんだろうな。そんな性格。
まるでキャラを演じているかのよう。それはさすがに深読みし過ぎか。
私もナギサの優しさと包み込むような温かさに徐々に惹かれている。
「ははは…… ねえ父さんもそう思うだろう? 」
「ふざけるな! ナギサとこいつは無関係だ! ただ拾っただけさ」
完全否定する困ったサナギ。
せっかくなので明日から倉掃除に参加することになった。
それまではのんびりすることに。
「おお! こいつが例の…… 」
「そうだ。よしお前はもういい。不愉快だから勝手に帰れ! 」
こうしてサナギから嫌われ出した。
恐らく現実を受け入れられないんだろう。
続く




