村長の孫娘・カエデ
サナギの案内で例の銭湯へ。
「おいおいオシャレエリアに行きたいのか? 目覚めたか? 」
そんな風にからかうサナギ。ただきれい好きだから汗を流したいとだけ。
もちろんそんなことはなく数日風呂に入らなくてもいいぐらい。
実際のところフィールドワークでは風呂なしが当たり前。
中島でも水は貴重で浸かったのは助けに入った時に少しだけ。
「お前はなぜあそこに銭湯があると知ってる? ナギサから聞いたのか? 」
サナギは驚いている様子。ただディファイから聞いただけなんだが。
オシャレエリアを散策。
「どうだ? その服も汚いし買ってやろうか? 」
お近付きの印にと選んでもらった。
うわ…… センス悪い服。だいたいこのからし色みたいなのは似合わないんだよ。
全身からし色のおかしな奴の完成。でもさすがに悪いので文句は言わない。
「ははは! これがこの島の流行りだぞ」
どうせ嘘だろうがどうでもいいので流す。ありがたいのは確かだから。
「あら素敵な人じゃない」
三名の化粧の濃い年齢不詳の島娘が寄って来た。
「久しぶりだなお前たち」
「この方は? 」
「謎の男。たぶん記憶喪失だろうから優しくしてやってくれ」
サナギがいい加減なことを抜かす。
「へえそうなんですか」
「実は俺もなんだ。どうだ今晩? 」
そうやってナギサほどの年の子に現を抜かす最低な男。
ため息が出るよ。これは遊びじゃないんだが。
「逞しい体。どうですあちらで一緒にお茶でも? 」
若くはなさそうだがこの島では珍しくまだ結婚してないと。
一人など恋人もいないとか。だからかしつこく寄って来る。
「ははは…… 悪いけど急いでるからまた今度」
丁重にお断り。さすがにこの子たちが天女の生まれ変わりのはずがないからな。
「そんなこと言わずに! 一緒に! 」
無理矢理連れて行かれそうになる。
そこに運よく助けが入る。
「やめてあげて! この方は島の人じゃないでしょう! 」
「それがどうしたの? 」
三人娘の一人が動じずにつっかかる。
「おばさんたちみっともないよ! 」
どうやら彼女たちは島でも有名な困ったタイプの三人組なのだろう。
「うるさい! 人の邪魔しないで! あんたには関係ないだろう? 」
怒りから本性を現したので距離を取ることに。
飢えた狼なら分かるが女性が見境なく誘いをかけるとはね。
積極性は買うができれば生まれ変わりかそれを知る者に手っ取り早く会いたい。
「ちょっと! 」
「ははは! それじゃあなお前たち」
「もうサナギさんでもいいから! 」
「悪いな。俺はもう誰も愛せないのさ」
格好をつけて逃げるサナギ。逃げ足だけは早いようだ。
「もう団子食べてやらない! 」
三人組は恨み節で行ってしまった。
これだから狭い地域での商売は危険なんだよな。
逆恨みされては堪ったものじゃない。
すべて断り切れない自分に責任があるんだが。
知らず知らずの内に思いっきり迷惑を掛けてしまったらしい。
「ありがとう。あなたは? 」
「私は村長の孫娘のカエデと言います。どうぞよろしく」
同行してもらうことに。
村長の孫娘なら安心だろうし他の者もそう簡単には手は出せないさ。
うっとうしいのが群がらなくて済む。なるべく早く用件を済ませたい。
「そうだカエデさん。村長が山に籠るようですが大丈夫? 」
誘われたんだよな。でもいつかと明言せずに濁した。これが大人の対応。
明日来られても困るがそれでも付き合ってやるのがフィールドワークだろう。
「もうお爺ちゃんたら! 火山が噴火するから立ち入り禁止だって言ってるのに。
村長なものだから何でも通ると思ってるみたい…… 」
村長の我がままには手を焼いている様子。
お互い困った爺に苦労してるな。こっちは偏屈で人使いの荒い博士だけど。
そう言えば博士は今どうしてる? 病院を抜け出してたりして。
「それでどちらに? おじさんはいつも騒がしいですね」
「ははは! うるせいよ! 」
二人は軽い挨拶を交わす。いつもこんな感じなんだろうな。
「お知り合いで? 」
「俺の恋人さ。なあカエデ」
「冗談ばっかりの上に口が悪いんですこの方。団子屋のおじさん」
そんな風に笑うカエデは何だか神聖な感じ。まさかこの子が生まれ変わり?
いやそれはないか。村長の娘さんでは関係が深すぎる。
島を仕切る者と見守る者は切り離されるべき。それ故に村長の娘ではおかしい。
矛盾した考えだ。ただそれはこれまでの経験からただ推測したに過ぎないが。
「団子屋のおじさんはないよ。俺たちの仲じゃないか。せめてお兄さんと…… 」
どうやら無茶な要求で困らせている迷惑な人。それがこの男の正体。
若い女に目がないんだろうな。残念な人だ。少年の心を持ってるとも言えるが。
その内誰も相手にしてくれなくなるぞ。
「いい加減にしてください! そう言う冗談嫌いなの! 」
村長の孫娘と言うだけあってはっきり物事を言う。
清々しいほどでサナギも黙ってしまう。
「ははは…… 言われてますよ」
「馬鹿にするなテメー! 俺はただの情けない女好きじゃない。
誠心誠意で向き合ってるんだからよ。なあカエデ? 」
サナギはしつこく食らいつく。どう考えても無理なのに哀れな男。
これがこの男の正体。もはや関わるべきではない。
「失礼しました。ナギちゃんのお父さんなだけですから」
「はあ…… 」
「それはないよカエデ! 」
ダメだこれは。相手にされてないだけでなく男として見られてない。
「カエデさんはナギサと関係があるの? 」
「はい。ナギちゃんとは小さい頃からの仲で。
ナギちゃんの初めてのお客は何を隠そう私なんですよ」
カエデは自慢気味に。
「するとナギサとは未だに交流が? 」
「おいお前! ナギサナギサと馴れ馴れしんだよ!
娘をたぶらかす怪しい島の敵め! 」
一緒に過ごして互いを多少理解したとは思ったのにこの扱い。
どうしてもう少し大人になれない? これではナギサが苦しむだけ。
「それでおじさん。どこに行くの? 」
同行すると言うだけ言ってどこに行くか聞いてないどこか間抜けなカエデ。
銭湯で汗を流すと言うと一緒に行くと。とにかく面倒見がいい。
ナギサもそう言う面があるよな。
こうしてカエデの案内を受け例の場所へ。
もちろん風呂に入りたいのでもない。ただ暇なら一風呂浴びるのも悪くない。
久しぶりのまともな生活に戻れると思うと嬉しさが込み上げる。
だがそれですべてを洗い流していいのか?
中島での思い出が薄れて行くことに罪悪感を感じる。
「さあカエデも遠慮せずに入るぞ! 」
そう言うと目の前の銭湯に連れて行こうとする強引なおじさん。
まったく何を考えてるんだろう? カエデも我慢の限界。
これで村長の爺さんでも飛んで来たら大変なことになるぞ。
まずは体を洗って一風呂浴びて準備万端。
「あの…… おばあちゃんは? 」
「はい。今日は家で大人しくしてます。まだ本調子でないんですよ」
お婆さんの見舞い連中の一人だと思ったのだろう。
彼女は嫁さんで今ではここを切り盛りしてる。
「急ぎでしたら義母に伝言しますが」
そう言われたら何から話せばいいか。
「あの…… お婆さんは何か特殊な能力をお持ちですか? 」
おかしかことを聞くよそ者。それが一気に広まったらどうしよう?
「ふふふ…… ありますよ。何でも体のどこが悪いか分かってしまうだとか」
彼女はからかってるのだろう。だがそこに真実が隠れてることも。
「それは凄い」
感情を込めずに驚いて見せる。どうせただの噂。真実など一つもないこじつけ。
そんな能力があるなら私がこの島を訪れるのも分かりそうなもの。
「そうさ。立派な人なんだよ。それで何が聞きたいの? 」
これはプライベートでデリケートな問題。周りに人がいては話し辛い。
特にサナギには聞かれたくない。
「あんたらはどこかに行った行った! 」
こうして人払いをしてもらう。こうまでされたら話すしかないな。
続く




