ディファイ・火山を監視する者
サナギに連れられての挨拶回り。
「これは轍みたいだが? 」
「ははは! トリドの奴は怠け者が多くてなたまに大型ジープで駆け付ける」
そんな風に笑うがこれは危険では? はっきり言って脅威。
「おいおい危なくないのかよ! 」
「大丈夫。ライバルで関係も微妙だが奴らはそんな連中じゃないさ。
あくまでルールに則って競っている。今は随分と改善されたしな」
なぜか庇うサナギ。どうやら良好な関係を築いているのだろう。
だが一度争いが起こればこの後島が戦場になるのは確実。
そうなれば後島だけでなくミハマ島全体の問題になる。
前島では自衛組織みたいなのがあり銃器類で戦うようなことを言っていた。
それがこの島の最後の砦なのかもしれないな。
だとしてもこの島の者は本当に現状を理解してるのか?
これがどれほど危険な状況か。相手は常に狙っているはず。
本土から隔絶されたミハマ島では恐らく法律が及ばない。
だからこそ島独自の法律や掟がある訳だ。
それで島の者は縛りつけられてもトリドの奴には効き目がない。
力こそがすべて。いくら争いがなくてもいざと言う時のために備えるべきだろう。
後島はあまりにものんびりと穏やかな島だから無理もないが。
少なくても争いの火種になりそうなものは排除すべき。
とは言えよそ者が何を言ったところで聞きはしないか。
「いいから行くぞ! このままだと日が暮れちまう」
サナギの悪い予感が当たり辺りが薄暗くなって来た。
夕暮れ間近。引き返さずに一泊することに。
こうして火山守のディファイの元へ。
うん? 揺れた?
「現在火山活動が活発になっている。と言っても僅かに感じられる程度だがな。
だがこれ以上悪化したら噴火警戒レベルを上げないとならない。
そう言うのは専門家のディファイに聞きな。と言っても火山守なだけだがな」
何が面白いのか豪快に笑うサナギ。
いいんだ別に。私はこの島がどうなろうと関知しない。
一週間滞在するとも限らないよそ者さ。
つい中島の経験が自分を卑下してしまう。
「おいそれ以上近づくな! 」
鬼のような形相の男が近づいて来たと思ったらお面を被っていた。
何を考えてるんだ? 我々を確認してついふざけたくなったか?
とは言え緊張状態ではある。
ここは場を和ますためにも冗談を言ってみますか。
「鬼のお面? 祭りでもあるんですか? 」
怒り狂う男にはこれくらいの対応が必要。何か絶対勘違いしてるんだから。
大体この手の奴の考えてることは分かる。要するに単純なのだ。
「ああん? お前見かけない顔だな? トリドの奴じゃないな? 」
お面を外しようやく間違いに気づいた様子。これが恐らく目的の男。
「私は東の方から参りましたアキラです。どうぞよろしく」
一応はこんな奴でも丁寧に挨拶しておかないと。目をつけられては堪らない。
裏切られて惨劇でも起きたらどうにもならないからな。
「ディファイだ。それでお前…… 」
「悪いなディファイ。こいつは旅人さ。家で厄介になってる居候さ」
「何だよ。怪しい二人組だから久しぶりに緊張したぜ。
思ってる以上に人相が悪いぞお前。凶悪犯かと思ったぐらいだ。この野郎! 」
男はようやく笑顔を見せる。
「悪いな。驚かしてよ。でもサプライズもたまにはいいだろう? 」
「ふざけるな! 心臓に悪いだろうが! 俺は真面目なんだからよ」
「そう言えばお前は怖がりだったな。だからってお面を被る奴があるか?
それは絶対に逆効果だ。情けないな」
サナギとディファイは私そっちのけで勝手に話している。楽しそうだ。
挨拶回りするぐらいだから何年来かの友人だろう。
自己紹介ではただ火山守のディファイとだけ。それは確かにそうだけどさ。
「もしかしてあなたも漁師? 」
「ははは! 違う違う! 俺は魚より肉が好きだ! 」
それは私も同じだが中島ではそのような選択肢はなく虫一択だった。
この島に来てまだろくに食事をしてないがそろそろ腹が減って来たぞ。
それにしてもでかいな。筋肉隆々だ。見上げると恐怖を感じるほど。
それでも人はよさそうで真面目に人の話を聞く。
「そうだ。お前野球やろうぜ? ディファイがいれば奴らに勝てるさ」
どうも私を無視して自分たちだけで話し始める。
いるんだよなこう言う困った人たち。
野球って言えばオヤスも。あれって隠語じゃ? やっぱりこの島に伝わってる?
「おっと…… わざわざ挨拶に来たのに悪かったな。
旅行中なんだろう? 困ったことがあったら何でも言ってくれ! 」
意外にも頼りがいのあるいい奴。そんな奴を前にも見た気がする。
ダイボだ。よく尽くしてくれた。そのおかげで中島を脱出できた。
そうして今ここでのんびりしていられる。それはナガレも同じ。
結局皆どうしただろうか? ハイドやアナログも。
ダメだ。無理だと分かっているのにどうにか助かったと妄想する。
そんな夢のような話はない。あそこは気づかないだけで初めから地獄だった。
蟻地獄だった。穴を餌に私を中島に縛り付けようとした。
それを拒絶したら襲って来た。普通じゃない。
きっとマキナだってただでは済まない。酷い目に遭わされてるに違いない。
前島の掟では敵や裏切り者に味方した者も敵と見なす。
そんな鉄の掟で人々をコントロールしていた。
島長や大穴と言った目に見えるトップではなくミハマ全体の何かがうごめいてる。
一切その正体を現すことなくここまで。
もし私がもっとよく見ていたら回避できたかもしれない。
だがそれももう遅い。記憶の奥の奥に封じ込めるしかない。
「どうしたアキラ。疲れたか? 」
ディファイが気遣う。やはり見た目よりも幾分かマシな人間性。
「そうなんだよ。俺たち疲れてさ。車を出してくれない」
サナギは悪びれることもなく要求。図々しいな。でもこれくらいでないとな。
「馬鹿野郎! それはトリドの連中の乗り物だ! 俺たちは持ってない!
自然を崇拝する島の教えから乗り物は禁じられているのさ。
だがトリドの連中はその教えを無視し船に積んでやがるんだ。
いつも移動が面倒だと贅沢ばかり。ならばヘリでもと勧めるが墜落するとさ」
ディファイからはフォグアイランドの実情が読み取れる。
やはり簡単には近づけない難攻不落の島。
「だったら一泊させろ! 」
当然のことだろうと堂々と言うか威圧的なサナギ。困った人だ。
「それで島に何しに来たんだ? 」
「はい。この辺の島を回ってる旅人。翼を失った渡り鳥かな」
格好をつけてみるがただ派手に笑われるだけ。さすがに本当のことは言えない。
「ほれどうだ? こいつは面白いだろう? でも困った奴でもある」
サナギがふざける。
「すると…… 娘さんの恋人? 確かナギサちゃんだっけ? 」
「ああん! なぜ俺の娘の名前まで知ってる? 目をつけてるな? 」
娘想いが過ぎる。あるいはすぐに絡む癖でもあるのか不機嫌。
「馬鹿抜かせ! いつもお前が自慢してるんだろう? 」
「へえ…… ナギサって島でも人気あるんだな」
「おいガキ! ナギサと偉そうに言うな! 人様の娘を捕まえてこの野郎! 」
ダメだこのおっさん。言ってることが無茶苦茶だ。
「それくらいにしておけ。またトラブル起こすとナギサちゃんが悲しむぞ」
「ああ! やっぱりうちの娘を狙ってやがる。お前ら同類だ! 」
断定するなよ。こっちまで巻きこむことないのに。
「俺は違う! 俺には帰る場所も恋人だって! 」
つい大口を叩く。だがその恋人が消えたから探しに来た訳で。
もちろん後島にいるなどと安易な考えは持ってない。でも期待しない訳じゃない。
もうすでに諦めてるとは言え救いがなければ生きてはいけない。廃人になる。
日々がただ無駄に過ぎていくだけだ。そう思うだけでやる気もなくなる。
張り合いがない状況。ここでナギサに頼るのは申し訳ないがそれでも……
続く




