大切なお客様
団子屋の看板娘・ナギサ。
彼女の愛とエレンの優しさが私を復活させた。
すべてを失い自暴自棄になっていたところに現れ運命を感じた。
ナギサのためにもう一度立ち上がってみようかな。
そんな風に思わせる何かが彼女にはある。
「そうだアキラさん一本いかがです? 」
勧められたら断れない。意外にも強引。
いい子だと分かるがそれでも完全には信用できない。
中島では歓迎されていたが実際のところ彼らは島に閉じ込めようとしていただけ。
信頼していた仲間や第七洞窟の者に裏切られた。
たとえそこに悪意がなかったとしても許せるものではないさ。
そのせいでトワナとマキナを失い仲間はバラバラ。
残ったのは船頭だけ。これが中島脱出の顛末。
どんなにポジティブに捉えようと彼らが元の世界に戻れたとは思えない。
捕らえられ処刑され島民が二分されバラバラになった恐れもある。
閉じ込め作戦が失敗し今中島は地獄に違いない。
たとえ私が戻っても一度壊れた関係は簡単には直せないだろう。修復不可能。
中島はそれほどとんでもないところ。振り返ってしみじみ思う。
「アキラさん? 」
「ああ…… 団子ね。もちろん…… 」
「やらねえぞ! 正体を明かさない奴に喰わせるものなんかない! 」
困った親父。もう子供じゃないんだから頑固にならずに食べさせてくれよ。
朝から何も食ってない上に中島ではロクなものがなかった。
団子一本だろうが今の私にとってはとんでもない御馳走さ。
だからってプライドはある。
「でしたら結構です! 」
「もうお父さん! 」
「やらねえものはやらねえよ! とっとと行っちまいやがれ! 」
「もう! 失礼でしょう? 」
「うるせい! お前は騙されてるんだ! この優男は甘くないぜ」
どうやら私の正体までは見抜けてないが何者かは大体分かるらしい。
「私の連れて来たお客さんに文句言わないで! 」
「本当のことだから言うんだ。お前は見た目に騙されている」
「もう! 」
「何だよ? 」
二人は言い争いを始める。
明らかに私のせいなので居た堪れない。逃げたいよ。
でもこれくらいのイザコザなら悪くないかもな。ただのよくある親子喧嘩。
第三の島・後島はこんなにも長閑で普通なのか。
実家を思い出す。研究者を志す前は私もそうだった。
これが中島の後でなければ何のありがたみも感じないんだろうな。
「ではナギサ俺はこの辺で」
「帰れ! そうだ! 商売の邪魔だから帰りやがれ! 」
酷い暴言を吐くとんでもない人だ。もう関わるのはよそう。
娘は似ずに真っすぐ育ったようだけど父親は頑固でうるさくて敵わない。
なぜ第一島人親子と対立しないといけないんだ。
これでは先が思いやられるどころか全然進んで行かない。
戻ろうとしたところをエレンが道を塞ぐ。どうやら退路を断たれたらしい。
「仕方ねえな。お前ナギサに手を出すなよ。タダじゃおかないからな! 」
そう言うと姿を消す父親。
エレンの必死の制止で私は許しを得た。これはお礼ぐらいしないとな。
後でドッグフードでも持って行ってやるか。それとも高級志向のグルメ?
現在観光客はおらずにとっても暇だそう。
「あのアキラさん…… 急なことで部屋の用意がありません。
お父さんと一緒に寝てもらえますか」
うわ…… 最悪だ。あんなうるさい奴と一緒に寝ないといけないのか。
ガミガミと上からで人をよそ者扱いして退治しようとする情けない男。
きっとナギサが甘やかすからこんなおかしな奴になったんだろう。
もっとビシッと言ってやるべきだ。
あれ…… 私はなぜこんなにも対抗心を燃やしてるんだ?
「いや俺はいいよ。外で寝るさ」
中島を経験した今ちょっとやそっとで驚きはしない。
フィールドワークでもめったに体験しない地獄だったからなあそこは。
「そうは行きません! アキラさんは私の大切なお客様ですから」
意外にも退かない。強情で意地っ張りなところがある。
別にそう言うのは嫌いじゃないが。うっとうしくされるのはごめんだぜ。
だが実際はここまでしてくれたら感謝感激だろうな。
「だったらどこで寝ればいいんだよ? 」
「でしたら私の部屋に来ませんか? 」
冗談かと思えるぐらいの返し。警戒心のない子だ。これが純粋と言えるのかな?
だからってそれはどうもとは行かないだろう。
「おいおいお前! 俺は男だぜ? 」
ついナギサが従順で優し過ぎるから口が過ぎてしまう。怖がらせたかな?
「ですがそれでもアキラさんは私たちにとって大切なお客様です。
ただ…… エレンも一緒に寝るのでそれだけはお忘れなく。
するとアキラさんはエレンの隣になるかと」
ナギサは私を粗末に扱う。仕方ないか。やはりどこへ行こうとよそ者はよそ者さ。
会ったばかりの女の子にこれ以上の負担と迷惑はかけられない。
「ナギサの隣がいい! 」
「我がままを言わないでくださいアキラさん! 」
しつこかったかな。まあいいやこれくらいで。ナギサをからかうのは悪いよな。
「それでアキラさん。あなたは何者ですか? 」
直球の質問。まあ気になるよね。
「俺は翼の折れたドラゴンさ。今飛ぶ練習をしてるんだ」
「へえ…… 素敵なんですね」
ナギサはどうやらとんでもなくバカらしい。ドラゴンなどいる訳ないだろう。
これではまるでマキナ…… 不意に蘇る。思い出のマキナは元気いっぱいだ。
ニュウニュウだってほぼないのに無理やり揺らしている。
「お兄ちゃんですか? これをどうぞ」
ナギサが気を遣う。どうやら涙を流していたようだ。
「いやお茶が苦くて…… 」
下手な言い訳でナギサに心配をかけないようにする。
「へへへ…… お待ちください! 今作り立てを持って来ますね」
そう言うと姿を消す。いい子だけどどこか抜けた不器用なタイプ。
私とよく似ている感じがする。でもそこがいい。
ついもっとナギサを知りたくなる。
だがそれが悲劇の始まりとはこの時は思いもしなかった。
「お待たせしましたアキラさん。どうぞご賞味ください」
三本を一気に。遠慮などせずに食べ尽くす。
「うん。美味い! これは何本でも行けるぞ! 」
これはもう何日かお世話になるとしよう。
私はさしずめ泳げない人魚男だな。海辺で保護された。
あるいは浦島太郎か。するとナギサは乙姫。それはまさしく天女そのもの。
ただ天女が雲の向こうだとすれば乙姫は便所の中ってところだろうか?
こうして団子屋の看板娘に拾われてお世話になることに。
でもこの世界どこかで見たことがあるような……
続く




