ココによる投降勧告
大穴の住処にて中島脱出作戦の策を練る。
夜の闇に紛れて逃走するつもりがどうやら囲まれたらしい。
命が下れば一気に押しかけて来るだろう。
ここに来てとんでもない速さで動き出した。
切羽詰まった状況に船頭も頭を抱える。
そして乗船メンバーを選べと突きつける。
そう。これはすべて私のために皆が善意でやってくれたこと。
友情とも仲間意識とでも言えばいいのか。きっと船頭にもあるのだろう。
彼も結局は私と同じよそ者。泉を使用できる特権があっても立場は弱い。
それは経験者のナガレも前島のダイボも似たようなもの。
しかしどうしたらいい? 多くても四名。そこに船頭と私とマキナ。
これはもうほぼ決まっている。残り一人を選ぶ作業。
決められない。ナガレもダイボも二度も助けてくれた救世主。
置いて行けば裏切り者のよそ者として処刑されるだろう。
この小さな島で逃げ延びるのは不可能に近い。船だってないのだ。
すると二人は仲良く残ってもらう? その方が無事に戻る確率が高まる。
ここはアナログ? それともいっそのこと三人で。マキナと逃避行。
どう選んでも仲間が悲惨な目に遭う。
ならばギリギリ五人で。もうそれしかない。
マキナは私が抱き抱えればいいさ。これですべて解決。
「待ってくれ! 今はこの人を送り出すことだけを考えよう」
ダイボが口を挟む。
「おい余計なことを言うな! 」
なぜかナガレがダイボに対して高圧的。まるでトップと手下のような関係。
おかしいな。二人とも共に救世主で私を何度も助けてくれた。
いくらナガレが研究者の端くれでもそこまでの差があるとは思えない。
「へい。ですがそうでしょう? 俺たちの役目は彼を送り出すこと。
しかも安全に何も心配せずに気持ちよく届けること」
ダイボは清々しいほど立派な考えの持ち主。
今この時も冷静でいられるのは凄い。と言っても心の内までは読めないが。
「お兄ちゃん行こう! 」
マキナが手を掴む。そしておかしなことを言う。
信じられないことにバリバリがやって来るのだとか。
「何を言ってるんだよ? それは遅くまで遊ぶ子供を怖がらせる嘘だろう? 」
ココも言ってたが観光客に勝手な行動させないようにするための子供だましの手。
そのバリバリだかボリボリだかがやって来るから逃げようはさすがに狂ってるぜ。
「嘘じゃない! 本当にいるよ」
否定されてむくれる。まだまだ子供だな。だがそんな化け物がいるはずがない。
いや…… いてはいけないんだ。そんな化け物は存在してはならない。
「マキナ。まさかそいつが今迫って来てるのか? 」
一応はマキナの戯言を聞くことに。飽きただけの可能性もあるからな。
「ううん。まだ。後少ししたら目覚める。もう時間がないんだよお兄ちゃん!
そいつに捕まったら骨まで食べられる! 」
マキナはどうやら迷信を信じるタイプらしい。
確かにそんな化け物が現れたら我々に勝ち目はないな。
「よしマキナを信じて行動開始だ! 」
「ちょっと待ってくれ! 誰か来たみたいだぞ」
ダイボは外の監視を怠らない。
「使いだとさ。オヤスがココを使いに出したらしい」
ナガレは状況を把握しようと必死。
私は大人しく彼らの言うことに耳を傾ける。
どうやらあちらも本気らしい。
私と深い繋がりのあるココを寄越して来た。
「ご主人様残念です。第七洞窟の王になられる存在とばかり思ってましたが……」
そう言って涙を流す。どうやら演技ではなさそう。するとココは純粋な島の者。
しかしそれは逆に私たちにとっては危険な存在。脅威となり得る。
「よしよし…… ココは何も悪くない。まだご主人様と慕ってくれるのか?
それだけでもココと会えてよかった。しかし私はこの中島には留まれない。
何と言っても飯がまずいから…… いや住みづらく適さない環境だったか?
何にせよお前たち民には感謝している。だが私はミハマの真実にたどり着きたい。
それにはどうしても後島にいかなければならない。理解してくれ」
オヤスからの伝言を伝えに来たはずだ。あえて耳を塞ぐこともできる。
でもココから直接聞きたい。
「ご主人様…… ですが私はあなたに伝えねばなりません。
今すぐに武装を解除して下山するように。ここは侵すべき場所ではない!
あなたのようなよそ者がいていいところではない! 早く投降せよ! 」
どうやらオヤスたちは簡単には後島へ行かせてくれないようだ。
残念だよ。それでも私は行くんだ!
一応はマキナやナガレにも相談。
「急いだ方がいい。バリバリをおびき寄せるつもりかも」
「だがマキナ…… 」
「俺もここに来ては即行動すべきだと。しかし突破できるか? 」
「ご主人様! あなたがどうであれ伝えます。どうぞお言葉を! 」
ココは使者としての役割を果たす。第一洞窟の者としてオヤスには逆らえない。
それは充分に分かってること。でもココも一緒に……
「ココ…… 最後の質問だ。お前は我々と一緒に逃げる気はないか? 」
ココを揺さぶるのは使者でもある以上反則だが今は反則もきれいも汚いもない。
ただ逃走劇に決着をつけたいだけ。もちろん大成功に終わりたいさ。
それができるかはココにすべて掛かっている。
「それは…… 」
ココは迷ってはいない。ただ言葉に出せないのだろう。
「いいんだ。正直に言ってくれ。これはご主人様からの命令さ」
「申し訳ございません! ご主人様がそうであるようにココにも使命があります。
どうぞお許しください」
そう言って顔を両手で覆う。
「はっきり頼む! お前はどうしたい? 」
「参りません! 私はこの島に残りたいです! 」
決意を述べる。
「うん。それでいい。できるなら最後に協力してくれないか? 」
「はいもちろん! 」
「では今から三十分後に投降する。霊山道から戻るので手出しはしないでくれと。
図々しい願いだが聞いてくれるな? 」
「はい。そのようにお伝えします」
ココは従順だ。いつもいつもご主人と慕ってくれる。
それに応えてやることはあまりなかった。
今ココに伝えたことはでたらめ。
私はとんでもないご主人様。ココを巻き込む真似をしている。
脱出計画が成功すればココの身が危険に晒される。
それでも彼らを出し抜かなければ船にはたどり着けない。
自分たちが助かりたい一心で悪魔に魂を売る。
これは決して許されることではない。それでも我々は前に進まなければならない。
続く




