救世主再登場
正式な第七の穴にならないように逃亡を企てる。
ココに止められるが最終的には折れ見逃してくれた。
「ご主人様どうかご無事で」
「ありがとうココ。よし行くぞマキナ! 」
「オウ! 」
もう一つの泉へ。
天女様が降臨したと言われている神聖な泉。
ここの所有を争って第二と第四洞窟の民たちが火花を散らしている。
それだけではない。第三洞窟の者も巻き込んで縄張り争いが絶えない。
主張を繰り返すあまりに第一洞窟のように深刻な水不足に陥る事態にも。
脇目も振らずに泉に向かうと先客が。泉の水をがぶ飲みする男が一名。
船頭だ。彼が今回のキーマン。彼を失えば永遠に閉じ込められる。
間もなく潰える希望。このままでは一生不自由な生活を強いられることに。
「うん。生き返るな」
海の水は飲めないし貴重な水を溜めておけない。
だから船頭はここで毎日水をたらふく飲んでいる。
醜い争いで周りを巻き込む者たちも船頭には弱い。
いざという時に船を利用できないとまずいから。
だから船頭だけは好きなだけ飲める。
それが一種の特権にもなっている。
「いた! あなたに頼みたいことが…… 」
「ああ…… これはまた。マキナ様もお元気のようで何よりです」
船頭はマキナを見るなり態度を豹変させる。
ただの鬱陶しいガキだと思っていたはずだがそれがなぜか従順だ。
するとすべてお見通し? トワナが消えマキナが実質的なリーダーだと。
「やはりあなたではトワナ様を止められなかった。助けられなかった」
どうやらすべて承知らしい。しかし見て来たのではない。
二人でここに来たことですべてを悟ったのだろう。
分かってるなら早くしてくれよな。こっちも忙しんだからさ。
でももうゆっくりできる。船と船頭のセットがあればもう怖くないさ。
「頼む! 急いでくれ! 」
「いいんですねマキナ様? 」
マキナは首を縦に振る。
「分かりました。ではご案内致します」
どうやらマキナ次第。ここでトワナからマキナに移ったのだろう。
船頭が慌てるので何事かと騒ぎだす第二・第四洞窟の者たち。
「あんたどうする気だい? 」
水汲みに来ていた女性が声をかける。そこには小さな子供の姿が。
隣では同じく水汲みをする親子も。
ここは泉があって水に困ることはない環境。
それでも水を一滴も無駄にしないようにと丁寧に掬っている。
「今は忙しいんだ。話は後に」
船頭は命令を忠実に守ろうと必死。
しかしそこが逆に怪しまれることになる。
「まさかこの仮穴様は明日を前にどこかへ行くつもりかい? 」
とんでもないことだと勝手にそうだと決めつけて興奮する。
しかしそんなこと一度も言ってないがやはり私はよそ者だからな。
一度おかしな噂を流されるとやっていけない。
互いに疑心暗鬼になって最後には悲劇が。
まずい。見抜かれたか? もはや言い訳できない。
ここで船頭を連れて行くのは急いで出る必要があると言ってるようなもの。
そもそもここまで焦る必要などなかった。
タイムリミットは今日まで。しかも恐らく夜明けまで。
それまでにどこかに身を潜めるか船でオサラバすればいい。
本来なら私たちはそうすべきだった。夜明けまでにここを脱出すればいい。
ここは焦らずに夜を待つべきだったのにその判断ができなかった。
焦らせたのはマキナ。どうやら危機が迫ってると察知したのだろう。
あるいはマキナがコントロールしてるか?
そう言えば今日のことはマキナが主導したような気もする。
「マキナ…… 」
しかしマキナはただ怯えた目で見る。さすがにこれは演技じゃない。
仮に何かあったんだとしてもマキナの思惑とは違う。だから恐怖で怯えてるのだ。
どうしてマキナを追及する? 今マキナを信じないでどうする?
仲間でありもはやパートナー。掛け替えのない存在。
ココはどうか知らないがマキナは…… マキナだけは違う。
マキナは私の娘であり妹。大切な存在。そんな家族のようなマキナを疑えない。
「お兄ちゃん? 」
「大丈夫。怖くないよ。さあ行こう」
こうして引き止める民を振り払う。
本当はこんなことしたくなかった。でも仕方ない。
島の者には随分お世話になった。彼らはきっと純粋に受け入れてくれたのだろう。
しかしそれはここに留まることが条件。移住してくるからこその歓待。
ただの観光客相手ではそこまでしないさ。
真昼間に行動開始したのは間違い。でもこれ以上はどうすることもできない。
「やっちまおう! 島の裏切り者に容赦はいらねえ! 」
何人もで囲みだす。それを合図に集結。暴走を始める。
これはまずいぞ。最悪の展開。言い訳も思いつかない。
「仮穴様よ。俺たちを見捨てないでくだせい。俺たちにはあんたしかいない」
気持ちは痛いほど伝わる。しかし囲まれて言われても心には響かない。
もっと気持ちよく頼むよ。信頼してくれてもいいだろう?
もちろんその信頼にはお応えできないが。
どうしよう? マキナは当てにならないし船頭も立場が弱い。
結局のところ特権は与えられてるもののよそ者はよそ者。
まずいな。島の者にも頼れない。これではココだって助けに入れない。
いくらご主人様と慕っていてもそこまでする義理はないだろう。
「おい! こっちだ! 」
捕まりかけたところで救世主が現れる。
「遅いよ」
「ぼうっとするな! 捕まりたいのか? 」
島長の命で借りて来た地蔵のように大人しいナガレの再登場。
ダイボの姿は見えないがきっと無事なのだろう。
「どこに行ってたんですナガレさん? 探したんだから」
問い詰めるが最初から言うつもりはなさそうだ。これは時間の無駄だな。
「それは秘密だ。ただ君のピンチに駆け付けられてよかったと思ってる」
ナガレ登場で混沌としてきた。
「いいか? 今すぐに山に隠れるんだ! あそこなら人は来ない」
そう言ってとにかく山を目指すことに。
「待ってくれ! 疲れた…… 」
なぜか一緒に逃げる船頭。大丈夫のはず。逃げる必要などない。
泣き言を言って転ぶ。これはまずい。彼なしでは後島は無理だ。
急いで救出に向かうが囲まれてしまう。
どうやらここで万事休すらしい。
「ははは…… まさか仮穴様は私らを見捨てる気ではありませんよね? 」
第七の者までが騒ぎに駆け付けたよう。
これは最悪だ。言い訳などできない。
「まさか儂らを裏切ったのか? 」
「違うんだ! 誤解なんだ! 」
第七の者は裏切られたショックから攻撃的に。
棒きれを手に襲い掛かる。
「止めぬか! 」
アナログが駆けつけるが聞きはしない。
「まさかアナログ様は私らよりもこの裏切り者につくんですかい? 」
どうやら正真正銘の穴の声まで届かない。これは最悪の事態だぞ。
「アナログ…… 」
「いいからいけ! お前たちは行くんだ! 」
こうしてアナログが体を張ることで時間を稼ぎ船頭を救出。
急いでマキナと三人で山の方へ向かう。
「早く! 早く! 」
前を行くナガレも必死だ。一体どうなるんだ?
船頭にしろアナログにしろ私のせいで酷い目に遭う恐れも。
これは耐えられない。それだけでなくナガレだって目をつけられたらお終い。
ここは急いで後島に行くしかない。すべてを捨て後島へ。
続く




