次の世界
溺れるマキナをどうにか助け出したのも束の間。
いつの間にか姿を消すトワナ。だが本当にあり得るのか?
目の前で忽然と人が消えるなど。目を離していたのは僅かな時間。これが代償?
無理やり選ばされたとは言えマキナを選んだ事実は変わらない。
トワナを選ばなかった代償を払わされることになる。
前島でミコトが消え今度はトワナまで姿を消した。
もう二度とこんな経験したくないと思っていたのに残念だよ。
結局はその二度とも私は何もできなかった。
私が愛した人が次々と姿を消す。まるで神隠しにでもあったように忽然と。
それが運命なら仕方ない。またはこれがすべて彼女たちの狙いなら受け入れよう。
だがそうではなくただ失っただけだとすればショックは計り知れない。
もしかしたら助けられたかもしれない。
そう考えると後悔で胸がいっぱいになる。
落ち着け。今はトワナが消えたショックに浸ってる時ではない。
すべきことは確認。本当に消えたかどうかの確認だ。
諦めが悪いのでも執念深いのでもない。ただ確認をしたいだけ。
ミコトの時は失ったショックから何もできなかった。
あの時だってもしかしたら探せば見つけ出せたかもしれない。
だが人任せの上に逃亡を図ったのだ。
あの後現場に戻ってミコトを探すこともできたはずなのに。
「トワ姉が…… 」
マキナが泣き出す。
「おいマキナどうした? 一体トワナはどこに行ったんだ? 」
トイレ? トイレか着替えにでも行ってくれていたらいいんだが。
まずあり得ないよな。そもそも二者択一だと。選べと言われた訳で。
これが仕組まれてないはずがないんだ。
「マキナ分からない…… 本当に分からないんだよ! 」
追及されそうになると強く返してくるマキナ。意外な一面を見せる。
何かを知ってるのは間違いない。それとも単にマキナが鈍感なだけ?
マキナにばかり気を取られてトワナを忘れる。
どうして? なぜ? 一体何が起きたんだ?
もう自分でも訳が分からない。
トワナがいた場所から忽然と姿を消す。
まさか本気で溺れて泉に足を取られたと言うのか?
あり得ないだろう? そもそもここはそこまで深くないはずだ。
「トワナ! トワナ! おーいトワナ! 」
いくら呼びかけても声は聞こえない。
泉を見てもよく分からない。まさか思っている以上に深いのか?
ダメだ。もはや自分の考えの及ばない遥か遠くへ行ってしまったかのよう。
「ごめんねお兄ちゃん…… でもマキナを選んでくれて本当にありがとう」
心からそう言ってるのだろうな。だとしたらすべて知っていることになる。
一体トワナはどこにいるんだ? それさえ教えてくれたらもう追求しない。
でもきっとそれこそがミハマ島の秘密そのものなのだろう。分かっている。
いや自分に都合がいいように考えてるだけに過ぎない。
辛い現実に目を逸らしてただの願望を述べてるのだ。
「マキナ…… トワナは? トワナはどうした? 」
「たぶんあそこ」
そう言うと泉を指す。
「きっと呑み込まれたんだと思う。もう引き返せない」
思った以上にマキナは冷静だ。
まるで初めから仕込まれていたかのように。
でも私はマキナを信じている。マキナは私が悲しむようなことはしない。
そんなことを考えるような悪い子じゃない。理想の娘であり妹だ。
「お兄ちゃんごめんなさい! 」
そう言って大泣きを始める。
一体何がごめんなさいなのか? マキナは一体何を言ってるんだ?
「来るんだマキナ! 」
急いでトワナのところまで。
「でもお兄ちゃん…… 」
「トワナどこだ? 」
泉の底を覗いても姿は見えない。天女の衣もない。
これはどう言うこと? 溺れたならトワナだけでなくその着物がないとおかしい。
まさかこれこそが天女の生まれ変わりだとでも言うのか?
「トワナ! どこだトワナ! 返事をしてくれ! 」
もういないと分かっているのに探し回る。トワナが姿を見せると期待して。
だがいない。どこにもいない。どうして? トワナはどこへ行った?
それはないよ。私を置いてどこへ行ったと言うんだ?
「お兄ちゃん…… 」
呆然自失のマキナ。彼女も血が繋がってないとは言え姉妹だ。
行方が気になるはず。泉の底にないならそれは別のところに。
絶対にどこかに。きっといるはずだ。こっちか? それともあっちか?
だがどこにも誰もいないし返事が返って来ることはない。
どうしてこうなってしまったのか? 私はどうすれば?
「よし泉の周りを徹底的に探すぞ! 」
ここから見えないだけで実際は沈んでる恐れもある。いやもうそれしかない。
目の前で忽然と人が消えるはずがないんだ。
しかもそれが二度もあるなどそれはもはや偶然ではなく必然。
考えたくはないが何かの力が働いたとしか思えない。
「ダメだよお兄ちゃん! 危ないしここは立ち入り禁止の泉」
マキナがまともな返しをする。いつもふざてるのにがこうだからな。
「馬鹿! トワナを探さないでどうする? お前のお姉ちゃんだろう? 」
そして私の掛け替えのない恋人。もう二度と失いたくない。
絶対に失うものかと誓ったのに。まるで隠れん坊のようにどこかへ行ってしまう。
私が見つけてあげないとトワナはずっとそのまま。
急がないと。今なら間に合う。
「お兄ちゃん! 」
「マキナ! いいからお前も探せ! どこかにいるはずだ」
そう言って泉に飛び込もうとするとマキナが必死に止める。
ここは本当に危ないと。溺れたらお終いだと脅しをかける。
「いないよお兄ちゃん。もうトワ姉は次の世界に行ったよ」
現実を突きつけるマキナ。それはどう言う意味だ?
「マキナお前は何か知ってるのか? 」
「痛いよお兄ちゃん! 腕を掴まないで! 」
マキナに言われるまでまったく。でもよく見れば腕を掴んでいた。
感覚はない。どうやら無意識に力を入れていたらしい。
余裕がないものだから強く爪が食い込むほどに。
「うわあ! 悪いマキナ。でもこれはわざとではなく…… 」
言い訳も通用しない。
動揺していたとは言えトワナを失いマキナを責める形に。
でもこれがただの八つ当たりかと言うとそうではない。
私はマキナを大切にしたいし実際娘のように扱ってるつもりだ。
それでもトワナ喪失が相当堪えてる。
「お兄ちゃん…… いなくなった者は絶対に戻って来ることはない。
だから未来を見て! トワ姉を忘れてマキナと一緒に来て! 」
そう言うと負傷してない方の手を出す非情なマキナ。
これがマキナなのか? ただのかわいくて何も考えてない困った奴じゃない。
かわいくもあり美しくもある。私はどうしてしまったのだろう?
マキナにどんどん吸い込まれていく。
「ほらお兄ちゃん。もう行こう」
「でもトワナが! 」
「トワ姉は大丈夫。次の世界に行ったから」
次の世界次の世界と言うが何のことだ? 悪いがこの島の民ではない。
そんな話聞いたことがない。よそ者にも分かりやすく丁寧に教えてくれよ。
続く




