消えたトワナ
迷いに迷ってトワナを選ぶ。
もちろんマキナだって急いで救出するつもりだ。
別に順番ってだけで大差ないさ。ただ危険なのはトワナ。
トワナ着用の天女の衣は水を吸うと重くなり引き込まれると。
すべてマキナが言っていたことだが事実バランスを崩して危ない。
大体泉で天女の舞など踊れば足元が疎かになる。
その上競うようなことをすれば焦って余計に危険だ。
まずはトワナだ。その後でゆっくりマキナを助ければいい。
「トワナ好きだ! 大好きだ! だからこの手を掴んでくれ! 」
二者択一の状況でふと冷静さを取り戻す。
なぜこんな面倒なことをしないといけないんだ?
まるで試されているかのよう。思い通りにコントロールされてる気がして嫌だ。
そもそも神聖な泉では島民はもちろん私たちまでが入水を禁じられている。
とは言え非常時にそんな決まりごとはどうでもいい。躊躇ってなどいられない。
しかしだからと言って天女の生まれ変わり候補の前で泉を穢すのは忍びない。
「ありがとうアキラ」
そう言ってトワナが手を伸ばしたところで突然悲鳴が上がる。
ここには三人だけ。すると悲鳴の主は当然マキナ。
「マキナ? どうしたんだマキナ? 」
「ごめんお兄ちゃん。すべって…… 」
泳ぎの苦手なマキナはもがくが逆効果。ただゆっくり沈んで行く。
「マキナ! ダメマキナ! 」
叫ぶ。これはよっぽどのこと。
選択の儀式で公平さを保とうとできる限り口を噤んでいたトワナが騒ぐ。
どうやら想定外のことが起こったかただ慌てたか。
とにかくトワナは耐えられずにマキナの方を覗き込む。
その顔は早く助けてあげてと言ってるよう。
もちろん勝負の最中だから具体的には言えないのだろう。
クソ! マキナを助けるしかないか。
「マキナ! 待ってろよマキナ! 」
急いでマキナの元へ。
いきなりの展開について行けない。
何も説明しないで選択を迫られる重圧。
マキナにトワナ。どちらかは諦めなければいけないらしい。
それはさすがにないよ。何のためにここまで来たのか。
だとすると私は最後の最後でトワナを諦めたことになるのか。
いやそれはただの選択ゲームでしかない。
きっとすべてを終えたら説明して納得させてくれるだろうさ。
二人が理不尽なゲームで私を苦しめるようなことはしないはず。
そう。これはきっと意味があるんだ。そうしないとならない理由がある。
嫌だが命令に従う必要があるのだろう。それこそが奴らの思惑。
一切姿を見せずに私をここまで誘った影の存在。
天女の生まれ変わりをも操る大した奴ら。
ここは彼らの思い通りに事を運ばせるのがベスト。
そうしないと二人意外にも迷惑が掛かることになる。
「ごめんお兄ちゃん…… 」
つるっと滑ったと騒ぎ出すいつも以上にうるさいマキナ。
ごめんねと言いながらもがいて引き込もうとする。
もちろん必死なんだろう。溺れる者は藁を掴むと言うし。
だが何度も転びそうになるところがどうもわざと臭い。
マキナは私を惹きつけてどうしようと言うのか? これが独占欲?
でも何となく違う気がするんだよな。
本当に今何が起きてるんだ? 起きようとしてるんだ?
どちらも選べないからトワナを選択したのにそんな急に助けを求めるなよな。
マキナの考えが分からない。
「お兄ちゃん…… 」
救いを求める者を放っておくほど私は非道ではない。
迷う時間がもったいない。計画変更だ。まずはマキナからさ。
トワナからマキナではなくマキナからトワナにすればいいだけ。
お兄ちゃんと慕ってくれるマキナをどうしても裏切れない。
たとえマキナやトワナに思惑があったとしてもそれでもだ。
一分前までは平然とトワナの方に歩いていたのに。
何て罪深いことをする。選べと言ってなぜ助けを求めるんだ。
そうマキナは決して器用な訳ではない。きっと悟ったのだろう。
仮穴から穴になればもう自由はない。閉ざされる。ここで最後まで。
それを知っている上に私の目的も思いも聞いてしまった。
全部理解したからこそのマキナの行動。それは善意である。そう思いたい。
きっとマキナ自身も迷い苦しんだのだろう。
事実がどうであれマキナを信じたい。それはトワナをも信じることになる。
薄々は気づいていた。何かおかしいなと。
でもそれが具体的に何なのか指摘できない辛さ。
この島全体で私を誘導している。誘われてる気がするんだ。
結局大穴の正体も分からないまま。天女の生まれ変わりだって不確実だ。
自身も知らされてなくて何らかの経験をして偶然知り得た。
それが何かも私からではどうにも。
「マキナ。ホラ手を掴みな」
マキナ救出。
「ごめんねお兄ちゃん。マキナが失敗したから」
泣き出すマキナ。そんなことはどうだっていい。急げっての。
当然暴れて足でもつらない限りすぐには溺れない。
転倒と言う特殊な事情がない限り泉に引き込まれることはないだろう。
「急げマキナ! 早く手を掴めって! 」
片手を出しても掴んでくれない。仕方なく両手を使い溺れる者を引っ張り出す。
少々強引だが確実で時間の短縮にもなる。
「ありがとうお兄ちゃん! 最後の最後にマキナを選んでくれて嬉しいよ」
おかしなことを言う。どうしたんだ? 別にマキナだけを選んだのではない。
順番に助けるつもり。だからそのような意図はまったくない。
「いいから早くしろ! もう大丈夫だろう? 」
「待って! 重くて…… 脱がしてお兄ちゃん」
水が特にここの水は特殊で重くすぐに沈むとマキナは言う。
本人がそう言うなら間違いないさ。この島に来たばかりでそのような常識はない。
泉に入ったことはもちろんない。当然だよな? 神聖な場所。
ここは気軽によそ者が近寄っていい場所ではない。
「脱がすって…… 」
「落ち着いてお兄ちゃん! こうしないとマキナが危険なの」
ドンドンマキナのペースになって行く気がする。
「本気か? 」
「お願いお兄ちゃん! 」
どうやら本気らしい。だがさすがに抵抗があるぞ。
いつだってすぐに裸になるマキナに慣れてはいるが自分から剥ぐのか?
「お願い! できるのはお兄ちゃんだけ! 」
どうしても脱がされたいんだろう。ただそれがマキナの願いとは思えない。
「しかし…… 」
「迷わないでお兄ちゃん! 」
そうだった。マキナの言う通りだ。これは別に悪いことじゃない。
緊急事態。重さで沈まないようにするために衣を剥ぐんだ。
そうだ。おかしな感情が湧く必要もない。恥ずかしがる必要だってない。
「クソ! マキナ大人しくしてろよ」
「ハーイ。お兄ちゃん」
これが溺れて藁を掴むような人間だろうか? どうも軽いと言うか明るい。
それがマキナだろうけどどうしても拭えない違和感。
急いで衣を剥ぐ。どうしても罪悪感がついて回るがそれでもできるだけ早く。
「ありがとうお兄ちゃん! 」
「マキナ! 大丈夫かマキナ! 」
つい心配になり抱きしめてしまう。素っ裸のマキナから熱が逃げないように。
上着を掛けてやり無事終了? かと思いきや肝心なことを忘れていた。
「おいトワナはどこに行った? 」
トワナが元いた場所から忽然と消えた。
マキナ救出のどさくさに紛れてどこかへ。
トイレや着替えのために一度離れたとは思えない。
ついに一人を選んだ。その代償にもう一人が消えた。
果たして私の選択は間違っていたのだろうか?
続く




