南地区の住人
「そいつは幻だ! お前の願望が見せた白昼夢! 朝だからただの寝ぼけだろう。
俺だってそんな夢を見ることがある。でも現実にはいない。
分かってるから追いかけはしない。お前はどうやら天女に憑りつかれたらしいな。
だが知らないぞ。すべてを失うかもしれないがそれでもいいのか?
耐える自信はあるのか? おっと言い過ぎた。この島を楽しんでくれ観光客さん」
そんな皮肉を言う。どうやら本気で私には何もさせないつもりらしい。
「ちょっとナガレさん…… 」
「よし着いたぞ。目的地の南地区だ。どうする俺を信用するなら協力するが。
ここまでと言うならとっとと帰るが」
案内だけでなくこの後もアドバイスしてくれるそう。
この島出身ではない彼の助けは必ず役に立つ。だからお願いすることに。
南地区にナガレと共に乗り込む。
果たしてここにはどのような化け物が存在するのか?
初めての土地に初めての場所だからついワクワクしてしまう。
ミハマ島南地区。
「何だあんたこの島の住人ではないな? 」
飯時なのか茶碗を持って駆け寄ってきた愉快なおじさん。箸ぐらい置いて来いよ。
娯楽が少ないから観光客を相手に暇潰しでもするつもりのよう。迷惑だな。
いやさすがに考え過ぎか。思い込みと偏見は捨てるべきだろう。
「ああこの人は本土から観光で。今島の中を案内してるところでね」
どう見てもただの世捨て人のナガレ。同類だと思われたくない。
私は高名な学者(の助手)で島のどこかにあると言う財宝を奪いに来たのだ。
その辺の学者崩れの情けない男と一緒にしないで欲しい。
プライドだってあるし当麻博士との約束だってあるんだ。
「へえあんたが? それはまた。どうもどうも。よそ者は消えな! 」
私に対しての強硬な態度は恐怖の裏返しと見ていいだろう。
どうやらよそ者を快く受け入れる気はないらしい。
これが島民の総意だとは思いたくない。
するとまだナガレも完全には受け入れられてないんだろうな。
器の小さい人だ。その茶碗にも負けるぐらいに。
「何をしてるのあんたは? 」
奥さんらしき人が引っ張っていく。
「だってよ…… うわ痛えええ! 」
耳を引っ張って強引に連れ戻そうとする。乱暴だが清々する。
奥さんの方は茶碗を持ってくるような愚かな真似はしない。常識人だ。
島にもまともな人がいる。これが当たり前だと思いたい。
よそ者を敵対視して追い出そうとするのはただの思い込みによるもの。
どちらにとってもプラスに働かないさ。
「だってもないの! お客さんに対して失礼だろう? ホラ謝りな! 」
「お前だってよそ者嫌ってるくせに! こんな時ばっかりいい顔してよ」
文句を言わないと怒りが収まらないのかいつまでもネチネチ。
だからって感情的にはならないが奥さんはそうは行かないみたいだ。
まずいぞ。奥さんの怒りの炎が見えないのか?
「何ですって? 」
「何だよ? 」
どうやら私のせいで二人がケンカを始める。これは困った展開。
私が止めるのもおかしい。ここはナガレに任せるのがいい。
しかし彼も動こうとしない。流れに任せようとふざける。
だがさすがにそれでは収まりそうにないので何とかしてもらう。
「ほら二人とも落ち着いて! 」
ナガレが止める。これでどうにかいざこざは収まったか?
「あんたはいつだってそうさ。もういいよ! 」
そう言って奥さんの方が折れて姿を消してしまう。
まだ理解してくれそうな奥さんが消えこの使えない旦那が残ってしまった。
「あああ…… 何だ先生じゃないですか? どうしたんです? 」
心を入れ替えて初めからやり直すらしい。奥さんに叱られて堪えたのだろう。
本当にこれでいいのか? 歓迎されるに越したことはないけど。
相手の本心を知っている以上やり難い。
「いや…… 観光客のお世話さ。どこかいいところを知らないかな? 」
ナガレは本気で味方になってくれるらしい。案内役を買って出ただけの事はある。
とてもありがたいが何だか裏がありそうでいまいち信用できない。
いつ裏切ってもおかしくない。どうしても人を信じられなくなっている。
自分が島の財宝を奪ってオサラバするとの思いが少なからず影響してるのだろう。
自分が裏切って相手が裏切らない保証はない。いや確証さえある。
「それでは火山見学などいかがです? 」
沸々と吹き出すマグマが溢れないか心配になるほど活発な火山。
噴火すると村を呑み込むほどの力があるが今のところまだその兆候は見られない。
一度噴火すればお終いの状況。それでも島民はあまりに気にしてる様子はない。
噴火の影響で豊かな大地が育まれる。自然から間違いなく恩恵を受けている。
この火山がもしかしたら天女伝説に関係してるかもしれないな。
最終的には金銀財宝に結びつく可能性もある。
島の歴史や自然については特にしっかり学ぶべきだろう。
「いつ噴火するか分からないんですよね? 逃げるべきでは? 」
つい余計なことを言う。
「馬鹿野郎! 故郷を捨ててどこに逃げるんだ? 」
男は機嫌が悪いのか言葉が乱暴に。そのせいで奥さんとも喧嘩する始末。
相当観光客に敏感。それはきっと何かあるんだろうな。過去に何か……
「それは隣の島とか? 本土に引っ越すとか? 」
提案して見るがどれもいい加減なものだから首を振られてしまう。
「できるはずないだろう? 用がないならとっと帰りな! 」
しかし……
そこに男の娘が姿を見せる。
「お客さん? 」
「いいからお前は出て来るな! 」
どうやら三人暮らしのようだ。
去年親族に不幸があったとかでまだ喪に付してるとか。
だからか地味な黒っぽい服を着ている?
それとも単にここの者はさほど服に興味はないのか?
「済まんがもう日が暮れる。一晩泊まらせてくれないか? 」
「先生はもちろん構いませんがこの男はちょっと…… 娘もいますしね」
どうやらこの私を遠ざけようとしてる気がする。困ったな…… 信用してくれよ。
「頼むよ。この通りだ! 」
そうやってこんな私の為に頭を下げてくれるナガレ。悪い人ではなさそうだ。
「でも先生…… 」
それでもごねる。相当嫌がってるな。今晩はゆっくり寝れるだろうか?
まさか野宿なんて言わないよな? それだけは嫌だぜ。
博士とフィールドワークに出かけると半分以上野宿させられるから。
そっちの方がわだかまりがなくて楽だと交渉もせずに野宿を選択する。
助手の気持ちなどあってないようなもの。
だがこれくらい耐えられないと一人前とは呼べないそう。
続く




