トワナの傷
マキナを迎えに来たはずのトワナがお話があると。
二人っきりで海沿いを目的もなく歩く。
暑さはあまり気にならないと言っていたが本当かな?
天女の生まれ変わりでそもそもが普通の人間とは違うならば充分あり得る話。
「勘違いしないでください。別に私は無理にマキナさんを連れ回してません」
それどころか勝手に潜り込んで騒がれて迷惑してる。
でもそんなことは言えない。トワナのせいじゃない。もちろん私のせいでもない。
騒がしいマキナの世話は誰であれ骨が折れる。
それがかわいいと思うこともあるが暴走するマキナはとても扱い辛い。
子供ってのはそんなものだろうがマキナはどこか普通の子とも島の子とも違う。
「そうですか…… それはマキナが失礼しました。
あの子最近楽しそうにしていて。きっとアキラさんのお陰ですね」
まるで保護者面。姉だからそうなのだろうが実際は二人は赤の他人。
でもそれも今日まで。私が姉妹を娶ればいいのさ。
トワナを正妻に。マキナを第一夫人に。逆だっていい。
そうすれば二人は自分を通して繋がる。それはとても素晴らしいことに違いない。
それにはどうしたって二人ともっと親密になる必要がある。
妄想が膨れ上がり止まりそうにない。二人のためにも実現できるといいな。
「それでアキラさんどちらを選ぶんですか? 」
「マキナかな…… 」
不意に問われるものだからつい口癖のようにマキナが。
これもきっとトワナに追及されてるからだろう。
「そんな…… 」
まずいことにショックを隠せずに泣き出すトワナ。
一体私が何をしたと言うんだ? ちょっとした誤解だと言うに。
「若い方が何かといいかと思いまして」
再び余計な一言で追い打ちをかける。
もはやわざとやってると言われても仕方がない。でも違うんだ。
誤解さ。どうして理解してくれないんだ?
「そんな酷い! 私では満足できないんですね? 」
「いや…… 違う! トワナは関係ないよ。ココの話だからさ」
案内役はマキナの方が何かとやりやす。ココでは中に入ってくれない。
それでもココの能力は認めているところ。だがマキナにご主人様と言わせたい。
そんなイカレタ願望がある。お兄ちゃんだけでは足りない満たされないもの。
やはり自分はどこかおかしいのか?
「そうですか…… 」
「どうしたんです? いつ見ても神々しいですが今日は一段と美しい」
つい大げさに褒める。でも実際そうなのだから仕方ないさ。
「あなたはマキナをどう思ってるんです? 」
「そうだな。大きくなったらお相手したいかな」
ついふざけてしまう。これでいいはずないのにどうしてもまともに取り合わない。
「何てことを? ああ! マキナが穢されていく」
聖女であるトワナはどうしてもマキナに対する私の振る舞いが許せないらしい。
でも大きくなったら相手するとは今は全然興味ありませんと言う意味だ。
だからそこまで真剣に深く考える必要はない。
それよりもせっかくの二人きりの時間を大切にしないともったいない。
「あの…… トワナさん。前回の続きをお願いできませんか? 」
沈み気味のトワナにデッサンのモデルを依頼。何て贅沢なのだろう。
もし彼女が本当に天女の生まれ変わりなら島にとって特別な存在。
そんな存在を私は独り占めしているのだ。
しかもそのトワナは私のことがどうやら好きらしい。
マキナもそうであるように惚れやすい体質なのだろう。
その辺まで伝説の天女に寄せなくてもいいのに。
「これでよろしいですか? 」
まずは適当にポーズを取ってもらう。
「うん。いいよ。もっと大胆に行こう。そう全部脱いでくれるとありがたいな」
だがトワナは当然指示に従わない。そこまで従順じゃない。
ココやマキナだったら迷わずにやってくれそう。
逆にそれが二人の危なっかしい部分でもある。
「ふざけないで! 」
あーあ怒っちゃったよ。困ったな。これだとデッサンが進まないんだけどな。
まあいいや。ではもう少し話をしますか。
「トワナさんは天女伝説をどこまで知ってますか? 」
「天女伝説? 私が伝説になったと言うの? 」
うわ…… 面倒な返し。確かにそれでこそ天女の生まれ変わりだろうけれどさ。
「財宝については何か聞かされてない? 」
思い切ってそこまで踏み切る。島の宝を奪う侵入者。
それは前も今も変わらない。ただあの時と違って目的が変化してるが。
「天女の舞を少しだけでいいですからお願いできませんか? 」
「このままでは魅力がないと。そうおっしゃるんですね? 」
トワナはどうしたのか自信がない。
「いえ…… 美しい舞姿がただ見たいだけでして…… 無理なら結構です」
「もういいから早くお願い! 」
どうもトワナは勘違いしてる気がするんだよな。
「どうしたんです? 疲れてますか? それとも悩みごと? 」
それはあり得ないか。何と言っても天女の生まれ変わりだから。
普通の人間とは違うはずだ。それでこそ理想の聖女。
「どうして私を見てくれないの? 」
「いえ見てますよ。もう少しだけでも捻ってくれると嬉しいかな」
「さっきからニュウニュウばかり見て! 」
デッサンを許してくれたはずなのにどうもおかしい。噛み合わないぞ。
「だってその傷と言うか痕が凄く気になるものだから」
ニュウニュウ下方にある痕。これの解明こそが天女伝説解明になると。
トワナだけでなくミコトのためにもこの島の真実に迫るんだ。
そうすればきっと皆幸せになれるって信じている。
完璧な者に不似合いな傷。あまりに美しいものだから逆に目立つ。
「好きって言って! 」
らしくなく女王様モード。
「でもあまり言うなってマキナが。だから気をつけてるんです。
その代わりに。とてもきれいだ! 何て神々しいんだろう」
これでいい。強い想いが伝わったはずだ。
ついいじけてしまうトワナ。どうもこの辺は人間のよう。子供っぽい。
「うーん。どうも気持ちがついて行かない。
あなたは出会ったその日に告白をした。それが納得できない」
これが引っ掛かってる。私は一目惚れされるようなタイプではない。
よその国の人から見ればなくもないがトワナは日本人だろう?
「何を言うの? 」
「そう言えばここには素敵な男性が存在しない気も…… 」
疑問をぶつけるが答えようとしない。
まあいいか。いない者はどうにもならないさ。
「そうだ。あなたの恋人についてお聞かせ願いませんか? 」
ここは閉鎖された島。若く魅力的な男も僅か。ミハマ島全体でもそうなのだろう。
だからなのか島にやって来る者に興味を抱くらしい。
「恋人ですか…… ははは…… お恥ずかしい話ですが生まれてこの方一人も」
正直に答える。それが誠実だろう。嘘を吐くことも格好をつけることもないさ。
自然体で臨むのがいい。
続く




