船旅
マキナとの楽しい朝のひと時も終わりを迎える。
そう。私には仮とは言え穴の役割がある。だからこれ以上は戯れてはいられない。
別れるのは辛いがグッと我慢してこの場を離れよう。それが彼女の為さ。
潜り込んだマキナも悪いしそのまま放置して寝た私も悪い。
だからここは何もなかったことにして改めて朝をスタートようと思う。
でも一部始終を目撃していたココにはそれが通用しないんだろうな。
「アキラさん…… 朝から一体何をやってるんですか? まったく信じられない!
あれほどマキナ様に手を出すなと言いましたよね? 」
相当我慢してるのが分かる。今にでも怒り狂いそうなのをどうにか抑えてる感じ。
しかしそれもすべて誤解から来るものだから落ち着いて欲しい。
とにかく自分だけでも冷静に笑顔で対応。余裕の笑顔さ。
「ははは…… マキナからのお願いさ。ココだって見聞きしていたろう? 」
慌てて言い訳する。
「多少は…… しかし我慢し切れずにマキナ様を強引に脱がせようとしましたね?
それだけでも大罪です」
どうやらそんな風に見えていたのか。一体いつも私をどのように見ているんだ。
声が聞こえたなら私が拒絶してるのだって聞こえたはず。
これでは私の立場がない。追い込まれていくだけではないか。
「マキナ…… 」
言い訳などせずにここはマキナ本人に真実を語ってもらおう。
それならば絶対に誤解が起きないはず。
「お兄ちゃんのエッチ! マキナを嫌らしい目で見て。嫌い! 」
嘘だろう? いつの間にマキナが裏切ったんだ?
誤解が解けたのかそもそも誤解だったのかココも納得だけはしてくれた。
それがマキナが余計なことを言うからおかしな方向に行ってしまう。
「嫌い? 待ってくれマキナ! そんなこと言わないでくれ! 」
つい辛く悲しくなったので取り乱してしまう。もし本音だったらどうしよう?
「ごめん…… ふざけ過ぎたよ。本当は好きだから」
悪いと思ったのがきちんと訂正する。訂正できるのは偉いことだぞ。
「なあこれで分かっただろう? 何もないって。初めから何もないんだって」
「はい。確かにマキナ様が寂しくて潜り込んだのは理解しました。
だからと言ってそんな小さなマキナ様を欲望のままに襲ってどうするんです? 」
なぜか納得はしてくれたはずなのに説教される。
だから襲ってないんだって。ただ一緒に寝ただけだろう? よく覚えてないけど。
「マキナ小さくないもん! 」
マキナはココの小さい発言に腹を立てたよう。
「いえ…… お胸ではなくそのかわいらしい見た目のことでございます」
ココもマキナ対応に苦労してるらしい。
「おいおい言い過ぎぞ。マキナは胸も小さければ身長も低くすべて小さいと。
そう言いたいんだろう? だがそれはさすがに言い過ぎだって」
ココの気持ちを代弁してやる。それが気弱なココの助けになる時もある。
ちなみに今回は追い詰めてしまっているが。時には失敗もするものさ。
だがそれでも積極的にココの気持ちを汲み取ってやるべきだ。
それがご主人様の役割。ココも安心するだろうさ。
「ご主人様! 」
「よしお詫びにマキナを船の旅に招待してやろう」
「やったーお兄ちゃん! 」
何も考えてないマキナはちょっとのことで大喜び。
これくらい楽だと子育ても楽しいんだろうけど。現実は甘くない。
「しかしご主人様。今日は船で他所へ行くと……
さすがにマキナ様を連れて行く訳には行きませんよ」
心配性のココは絶対にだめだと譲らない。
「分かってるって。今回は他所の島には行かずこの辺りの周遊プランだ」
さっそく約束の場所へ。
わーい!
マキナと一緒になって駆け回る。
しかし日差しが強すぎて暑くないか心配だ。
十時過ぎには戻らないと。遅くてもお昼までには帰らないとな。
補佐役に船着場まで案内してもらう。
そこは昨日行った大穴のいる場所から近い。
「お待たせしました。ではすぐに出航しますね」
誰かと思えば船頭が姿を見せる。
「お客さんまだ生きてたんだ? てっきり三日で殺されたのかと思いました」
船頭は軽口を叩く。
「いや…… 今でも自分が分からなくて…… ちなみに第七の穴だけどね」
偉いんだとアピール。
「知ってますよ仮ですよね? 」
どうやらその手の情報を正確に掴んでるらしい。抜け目がないな。
「まあ無駄話はそれくらいでいい。出航だ! 」
「おおお! 」
いつもよりも元気なぐらいのマキナ。これは体調に問題はないな。
船酔いは私の方がするぐらいだしな。
「ではどちらに? 他所に行くには通行証が必要になりますが…… 」
船頭と言うだけあってしっかりしている。
「いや後島はまた今度で。今日は一時間ぐらいこの辺りを見て回りたい」
予定変更を伝える。
「そうですか。ですが指示があった時はアイマスクと耳栓をしてもらいます。
同意できなければ動かしませんのであらかじめご了承下さい」
「分かってるよ。それでいい。でも一個ではまずくないか? 」
「いえマキナ様は問題ありません。特別な存在ですから」
どうやら本当にマキナは天女の生まれ変わり候補なんだろうな。
こうして一時間の船の旅へ。
五分してマスクをつけさせられる。
だが今度は耳栓なしなのでマキナの大笑いが響く。これならしてもよかったな。
「どうです? 気持ちいいでしょう? 」
「そう言えばほぼ毎日船を出してるんだよね」
「はい。船が趣味ですから」
船頭だけは自由が認められているそう。
「そうだ。ミハマにおかしな連中が来なかったか? 」
「どうしたのお兄ちゃん? 」
「マキナは大人しく外の景色を見てなさい」
膨れるがすぐに忘れて楽しんでいる様子。
しかし見れば見るほどにこの三島は近いな。
まるで一つの島みたいだ。そう言えば昔はそうだったんだっけ。
「ご心配なく。あなたが来てから今までに誰も船には乗せてませんから」
「すると誰も来てないとなるな。ちなみにこんな感じの人見なかった? 」
ペンと紙でラフな博士の絵を描く。
「ははは…… さあ? 」
どうやらライバルも博士自身もまだ来てないらしい。
「他に訪れる方法は? 」
「さあ…… 飛行機では無理ですが反対側に小さな島があります。
そこからならもしかしたらどうにか…… 」
船頭は自信なさげ。どうやらほぼあり得ないことが判明した。
これでゆっくりできそうだ。
続く




