不意に溢れるミコトとの思い出
トワナと二人きり。
ついその穢れなき姿をどうにか収めようと慣れない絵に挑戦。
このクソ暑い時に私は何をやっているんだろう。
「うーん。デッサンは大体これでいい。後はその美しさを記憶に残したい」
つい柄にもなく芸術家気取り。ははは…… アトリエでも探そうかな。
「どうしろと? 」
困惑する顔はまるでミコトのようでかわいいかな。
あれ…… ミコト? なぜこんな時にミコトが出て来るんだ?
封印していたミコトの記憶が不意に蘇りそうになる。
前島最後の日に思い出にと写真を取ろうとしてポーズを決めてもらった。
眩しさに目がやられそうになりその場で目を瞑ってしまう。
まずい。思い出が溢れ出しそうになる。
おかしいぞ。もう自分では乗り越えたと思ったのに。
記憶を封印しココやマキナやトワナと楽しく過ごしていたはずなのに……
あの時とシチュエーションがほぼ同じだから。
浮かれてトワナを無理やりデッサンのモデルにしている場面と重なる。
違うのはミコトがふざけてるのに対しトワナが迷惑そうにしてるところぐらい。
それから独特のアザのニュウニュウをお持ちになっているところ。
似てるんだ。あまりに似てるからついフラッシュバックしてしまう。
もう戻れない過去の美しき思い出が溢れ絶え間なく流れていく。
それを止めるほどの力は私にはない。
今できるのは全力で涙を堪えることぐらい。
トワナはやっぱり優しいよ。
もし彼女まで笑顔で積極的に接していたら苦しくて仕方なかっただろう。
おっと…… もう充分だ。ここはもっと振り切ってしまおう。
「ニュウニュウだけでは物足りない。できればすべてを晒してくれないか? 」
もう遠慮はいらない。彼女も私を愛してくれてるのだから。
ミコトを振り払うためにも一歩前に進みたい。苦しみから解放されたい。
身勝手ではあるがきっとトワナなら理解してくれるはずだ。
「ふざけないで! もう嫌! 」
おっとついに感情が露に。今までずっと抑えていたのだろう。
それでも私のためにギリギリまで我慢してくれたんだろうな。
こんな風にプラス思考で考えてあげないとトワナは理解できない。
「おいおい仮にも第七洞窟の穴だぞ。何だその態度は? 」
「うるさい! アキラってば最低! 」
「いや…… 違うんだ。ちょっと元気がないから励まそうと…… 」
「言い訳しないで! 見損なったわアキラ! 」
「いや違うんだ。ミコ…… 」
まずい。ついミコトと。だってこんなことしたのはミコトとだけで……
だがそれではトワナは何だ? 私を好きだと言ってくれる貴重な存在。
そんな彼女を調子に乗って穢しただけでなくミコトと間違えるなど。
失礼極まりないことをしている。これは反省すべき。
きっと二人を無意識に重ねてしまったんだろうな。
「悪い…… 」
「ミコトって誰? 」
「いや何でもない。昔の女さ。忘れてくれ」
いつかは言ってみたいセリフだったが今じゃない気がする。
そもそもが一度失恋してることになる訳だから。
「言って! その人の名前は? 」
「ミコト…… 私が昔愛した女さ! 」
もう何年も経っているような感覚。それほどこの中島が濃いのだ。
それでもミコトが忘れられない。もうどうにもならないのに忘れられない。
それが運命であるかのように私の心の中を支配し続ける。それがミコトだ。
「ミコトさん…… その人は私によく似てるの? 」
うわ…… 始まったよ。比較しようとする。
だがミコトはミコトだしトワナはトワナ。まったく別人格さ。
「いやたまに似てる程度で…… かわいいところが凄く似てるんだ」
危ない危ない。ミコト褒めて浮かれでもすればトワナは機嫌を損ねるだろう。
「へえ…… ミコトさんがかわいいんだ」
まずいぞ。おかしな誤解されてないか?
何でもいいから早くこの話題から離れなくちゃ。
「それと天女の生まれ変わりなんだ。実は君もそうなんじゃないかと思ってる」
「アキラ! いやあああ! 」
突然トワナが頭を抱えだす。どうやら追及されそうになってごまかしたよう。
「ごめんトワナ。今は君のことだけを考えるよ」
「それからマキナでしょう? 」
元に戻り的確な返し。いやそれは確かにそうだけど……
「行こうか」
たとえ演技だろうとこれ以上トワナを悩ませてはいけない。
このままだと妹にまで嫉妬しかねない。
ただこれも私の勝手な想像だが。
「ああそんなところにいた。早く選別お願いします穴様! 」
約束の時間を過ぎても来ないので辺りを探していたと。
「それでは私はこれで」
「おお天女様。ありがたいことです」
どうやらここでも天女の生まれ変わりは天女と同一視されているよう。
うん? 待てよ。すると天女の生まれ変わりはトワナになるのでは?
姉妹のどちらかとされていたがこの男の不注意でトワナと分かってしまった。
これはラッキー! 一歩前進だ。そうだとは思っていたが確証を得たぞ。
恐らくこの男は罰を受けるだろう。可哀想だがそれも仕方ないこと。
第七洞窟では穴と言うだけで尊敬され話も聞いてくれるようになった。
これは前とはえらい違い。ただ難しいことを決めるのに私に相談する。
それだけはどうにかしてもらいたい。私はここは初めてで素人。
頼られてもどうにもならないこともある。
「これで今日の役目を終えたことだしどうだろう? 」
「穴様今日は全員忙しいのでして…… 進みも遅れてますから」
「ナントはどこか知らないか? 」
ナントは私が穴として初めての仕事をした貴重な存在。
彼を穴補佐にして私がいない時でも彼の指示で動けるようにした。
当然彼は優秀だし柔軟。意見を通すこともなく大人しく従う従順な穴補佐。
「穴様はこの島にはまだ慣れてないと? 」
「そうなんだよ。できれば穴の任務を全うするためにも知っておきたい」
「しかし…… この島は恐らくそのままと言うかこれ以上の発見はないかと。
外へ出られてはいかがでしょう? 」
「外? まさか勝手に島民が出ていいのか? 」
ここの海は汚染され漁に出れない。だから海産物も手に入らない。
当然勝手に外には行けないはずだ。それなのになぜタブーを破る真似を?
まさかナントは掟を破らせ私を失脚させる狙いか?
続く




