54.お互いの妥協点
「…わかった。交渉をしよう」
ボスはリベラの方ではなく、佐々木の方を改めて見据えた。
それを確認し、リベラは一歩下がり、佐々木の後ろに静かに控えた。
佐々木は椅子に座り、口を開いた。
「ありがとうございます。まず、お聞きしたいのですが。なぜ、あなた方はセレネの新型エネルギー炉の技術を欲しいのでしょう?あの技術は、組織にとってどんな価値があるのでしょうか?」
ボスは佐々木の質問に、一呼吸置いて答えた。
「我々が直接、技術を欲しがったわけではない。我々の依頼主は、セレネが以前所属していた『メテオラ社』だ」
佐々木とリベラは顔を見合わせた。
「メテオラ社はセレネの離反により、技術的な優位性を失いかけている。奴らが求めるのは、セレネの技術を回収し、再び市場での独占的地位を確保することだ。我々は、依頼を受けて動いただけにすぎない」
佐々木は納得したように頷いた。
「なるほど、組織的な野望ではなく、依頼が動機だったのですね」
ボスは苛立たしげに続けた。
「その通りだ。だが、お前たちと事を構えるリスクは、依頼料に見合わない」
ボスは本音をさらけ出した。
「だが、この業界は信用が命だ。ウチから中止はありえない。お前たちがなんとかして、メテオラ社が依頼を取り下げるように仕向けるなら考えてやる。…そうだな、残りの報酬の2億クレジットをお前たちが負担しろ」
少し不平等な提案だが、佐々木はここが交渉のしどころだと捉えた。
「わかりました。それでお願いします」
佐々木は懐から端末を取り出しながら言った。
「では、2億クレジットは迷惑料として今すぐお支払いいたします」
ボスは驚きながらも、佐々木にうながされ、自分の端末を佐々木に向けた。
その瞬間、2億クレジットの送金を受け取った。
佐々木は言葉に力を込めながら、右手を出した。
「依頼の取り下げは私たちにお任せ下さい。今日はとても有意義な会話が出来ました。今後も仲良くしていきましょうね」
ボスは、つい先ほどまで死をチラつかせながら交渉していた相手の、この態度の変化に、少し笑ってしまい、差し出された佐々木の手を強く握り返した。
警備員に案内され、佐々木とリベラは無事にブラックスピア・タワーの外へ出た。
佐々木はビルの外へ出たところで、リベラに質問する。
「あのテレビの不審船って、本当にリベラがやったの?」
「いえ、さすがに私にはムリです。偶然墜落したニュースを使いました」
統制プログラムを突破したリベラは平然とウソをつけた。
佐々木は呑気に返す。
「だよねぇ。ところで、またメイリンさんにメテオラ社の事を調べてもらいたいね」
「はい。すでに連絡しております。わかったらホテルに来てくれるそうです」
リベラはタクシーを止め、2人でホテルに戻ることにした。
最近皆さんからいただく評価はかなり嬉しく、書いてよかったと思えます。
またよければ見に来てくださいね。




