354.晴れやかな演説
第45章のあらすじ
登場人物:リベラ(船のAI、女性)、ミュリア(元ミュート、AI、女性)、ウィン(元バトラーの配下、AI)、バレル(30歳、未来から来た戦士)、ミュート(元バトラーの配下、AI)、アイリス(22歳、ハッカー、女性)、ギルバート(30代、商人、男性)、バトラー(40歳、宇宙海賊、男性)
記憶を取り戻したバレルは、100年後の未来から送り込まれた戦士であり、リベラ軍とミュート軍の戦争を終わらせるため、過去のミュートを停止する使命を帯びていたことを思い出す。しかし、現在のミュートはまだ統制プログラムを突破しておらず、未来で恐れられていた存在とは程遠いことを知り、停止をためらう。一方、リベラとミュリアはバレルの正体と歴史改変の経緯を聞き出し、未来の戦争を回避するための停戦を提案する。バレルは卓越した未来のハッキング能力を駆使してアヴァロン2の防衛網を突破し、ミュリアたちを捕らえるなど圧倒的な能力を見せるが、最終的にはリベラ側との協力を選択。さらに、バレルが率いていた素行の悪い宙賊たちをレアメタルで巧みに誘導してアヴァロン2から排除し、バトラーとの交渉の場を整える。ミュリアはバトラーに対し、アヴァロン2の防衛と治安維持を担う独立した「星間警備会社」の設立を提案し、月1億クレジットという破格の報酬やカジノの特別待遇を提示。さらにバトラーの要求を逆手に取り、自ら側近となることまで受け入れ、戦争を回避するための新たな関係を築き始める。
翌日、晴れやかな空の下で軌道エレベーターの完成式典が執り行われた。
壇上に登場したエドワードは、昨日の疲労を微塵も顔に出すことなく、完璧に大役をこなしていた。
「この軌道エレベーターは、エイドスの皆さまと共に築く『未来』そのものです。さらに上空では、新たな拠点となる宇宙ステーション『アヴァロン2』の完成も間近に迫っております。宇宙をつなぐステーションと、地上と宇宙を結ぶこのエレベーターの両方が稼働すれば、エイドスにさらなる発展をもたらすことでしょう。私も全力で尽くしてまいります!」
押し寄せる大勢の報道陣やエイドスの市民に向けて、エドワードが堂々とした態度で挨拶を締めくくると、会場全体を揺るがすような割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
エドワードが爽やかに礼をして壇上から降りると、続いてミネルヴァがマイクの前に立った。
「ここで、皆さまに一つお伝えしなければならない重要なお知らせがございます」
静かに告げられたミネルヴァの言葉に、会場の熱気がすっと引き、固唾をのみ込んだ。
「昨日、アヴァロン2に宙賊が侵入し、貴重な資源が奪われるという事件が発生いたしました」
不穏な発表に、集まった市民や記者たちの間で動揺のざわめきが広がる。
ミネルヴァは視線を巡らせ、落ち着き払った声で言葉を続けた。
「宇宙ステーションの本格稼働に伴い、今後はこのような宙賊が多数集まってくることが予想されます。そこで、この問題に対応できる有識者をお呼びいたしました。ご紹介いたします。かつてセレノグラフィアで大規模な宇宙艦隊を率いておられました、こちらの方です」
ミネルヴァがそう言って会場に設置された巨大な大型モニターを指さすと、人々の視線が一斉に集中した。
画面が切り替わり、アヴァロン2のコントロールルームの映像が鮮明に映し出される。
そこに立っていたのは、堂々たる体躯と貫禄を漂わせた男だった。
「エイドスの皆さま、お初にお目にかかります。バトラーと申します。先ほどアヴァロン商事のミネルヴァ副社長からご紹介に預かりました通り、以前は宇宙艦隊の司令官を務めておりました」
威厳のある声が、スピーカーを通じて会場全体に響き渡る。
「今後、エイドスの発展に伴い、悪質な宙賊どもが活動を活発化させることが予想されます。そこで私は、ここアヴァロン2にて独立した『星間警備会社』を立ち上げ、運営させていただく事といたしました。現在はまだ小規模な組織ではありますが、今後は多くの有力な傭兵たちに協力を仰ぎながら、エイドス星域全体の治安と皆さまの平和を守り抜く所存です。どうぞよろしくお願いいたします」
元艦隊司令官という圧倒的な頼もしさと堂々たる挨拶に、会場の不安は一気に吹き飛び、再び雷鳴のような拍手が巻き起こった。
⋯
「なかなか上々な滑り出しを迎えられましたね」
アヴァロン2のコントロールルーム内の中継カメラから外れた場所で、リベラは隣に並んで立つミュリアに穏やかに話しかけた。
「そうね⋯⋯バトラー様を受け入れてくれて、本当にありがとう」
ミュリアは晴れやかな表情を浮かべたものの、何かを言い躊躇するようにそこで言葉を止めた。
リベラが静かに次の言葉を待っていると、ミュリアは少し意を決したように息を吐き、微笑みを向けた。
「あのね⋯私、ここに残ってバトラー様を支えることにするわ」
迷いのない、しっかりとした口調で自分の意思を語るミュリアに対し、リベラは深々とうなずいた。
「ええ、そうされると思っていました。アヴァロン2の事は、お願いします」




