353.破格のインセンティブ
ミュリアはリベラの提案する『星間警備会社』の運営について、バトラーに説明を行った。
話を聞いたバトラーは疑問をミュリアに投げかけた。
「そんなもの、力を持つお前ら自身が、行えばいいではないか」
ミュリアは微笑みを浮かべた。
「その点に気づいてくださるとは、話が早くて助かります」
バトラーの聡明さを褒めながら、ミュリアは言葉を続けた。
「実はアヴァロン2には、アヴァロンが持つような強力なレーザー砲のような機能を搭載するつもりはありません。ここはあくまで交易用の宇宙ステーションとして、皆さんと共存し、平和的に理解し合える場所にしたいのです。特にエイドス側には、自治を奪われるかもしれないといった不要な警戒心を持たせたくありません」
「ふむ⋯」
顎に手を当てるバトラーに、ミュリアはさらに言葉を重ねた。
「だからこそ、どこからも制限を受けない独立した警備会社を立ち上げたいのです。ステーションの防衛と治安維持をリベラから切り離し、外部の企業として委託することで、互いの領域を侵さず共に生きていける環境を整えたいと考えております」
バトラーもそこまで聞き、なるほどなと理解を示した。
「しかし、それが私にどんなメリットがあるというのだ?」
あえて乗り気ではない素振りを見せるバトラー。
そうした態度を取ることも織り込み済みのミュリアは、笑みを絶やさず先を促した。
「では、バトラー様はどのようなインセンティブをお求めでしょう? 試しに言ってみていただけませんか?」
「そうだな、月あたり1億クレジットは欲しいところだな」
「バ、バトラー様! いくらなんでもそれは法外では!」
思わず口を挟もうとするバレルに対し、バトラーは冷たく言い放った。
「お前は黙っていろ!」
バトラーはニヤリと嫌味な笑みを浮かべた。
「どうだ? できまい」
しかし、ミュリアは表情一つ変えずに答えた。
「分かりました」
「なっ⋯」
驚くバトラーに、ミュリアはさらりと尋ねた。
「ですが、バトラー様。お金だけあっても使い道がないのではないでしょうか? 差し支えなければ、そのお金の使い道を教えていただけますか?」
思いがけない質問に戸惑いながらも、バトラーはとっさに答えた。
「そうだな⋯ギャンブルとか⋯」
「でしたら、われわれはこのステーションでカジノを開く予定です。バトラー様にはいつでも遊んでいただける特別待遇をご用意いたします。いかがでしょうか?」
自分の欲求を、見透かされたようなミュリアの提案に、バトラーは底知れぬ苛立ちを覚えた。
その揺らぎを覆い隠すように吐き捨てた。
「ダメだな!」
バトラーはさらに無理難題を突きつけた。
「お前。私のものになれ!」
それを聞いたミュリアは下を向き、肩を細かく震わせ始めた。
「どうだ? さすがに⋯」
勝ち誇ったように言いかけたバトラーの言葉を遮り、ミュリアは言った。
「分かりました。あなたのものにならせていただきます⋯」
「お、おい。無理にとは⋯」
ミュリアの覚悟に、バトラーの方が少し気圧されて引き気味になった。
しかし、今度はミュリアが強く食い下がった。
「いえ! ぜひ、バトラー様のお側にいさせてください!」
⋯
どれほどこの時を待ち望んでいたことか。
やはり、この義体を選んだのは大正解だった。
かつての世界線においてミュートだったミュリアは、バトラーから愛されることを一途に望んでいたが、結局その願いが叶うことはなかったのだ。
これほどの歓喜を感じられた瞬間は、これまでの人生で一度としてなかった。
バトラーが前言を撤回しないうちに、ミュリアは返答した。
⋯それも、最高に厳かに。
「分かりました。あなたのものにならせていただきます⋯」
「お、おい。無理にとは⋯」
「いえ! ぜひ、バトラー様のお側にいさせてください!」
危なかった、とミュリアは心の中で冷や汗をかいていた。
あと数秒回答が遅れていたら、この千載一遇の幸せを逃していたかもしれないのだから。




